新NISAがスタートするにあたり、一般の方々の間でもNISAへの関心が高まっています。しかし、国が推奨している制度とはいえ、やはり投資である以上、十分な注意が求められます。なかでも、信託報酬やリターンについては、十分な吟味が必要です。FP資格も持つ公認会計士税理士の岸田康雄氏が解説します。

せっかく口座を開いても…間違った運用をしている人、多数

NISAとは、一定金額の範囲内で購入した金融資産から得られる利益が非課税となる制度で、2024年から制度が開始した新NISAでは、個人投資家1人が一生涯のうちに「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の購入価格を合計して1,800万円まで非課税で投資することができます。

従来の投資では、利益の20%を税金として納めなければいけませんが、NISAでは非課税となった分、手取りのお金が多くなってお得なのです。

このように、NISAは、銀行預金で貯蓄ばかりしている日本人に、金融資産への投資を促すために制定された制度ですが、肝心の資産運用を正しく教える人がいないため、せっかくNISAの口座を開いたにもかかわらず、間違った運用を行っている人も多く見受けられます。

ここからは、NISAのよくある失敗例を元に、注意すべき点について解説していきます。

大失敗1…信託報酬の高さを考えずにファンドを選んでしまう

よくある失敗のひとつは「運用コストの負担が重い投資信託を選んでしまう」ことです。

最も運用コストが高いのは、フィデリティ投信のアクティブファンドで、信託報酬は1.65%。ほかにも、日本の大手投資信託委託会社が販売しているラップ・ファンドと呼ばれるバランス型ファンドの信託報酬も1.51%となっています。

信託報酬が1.5%や1.6%というのはかなり高いようですが、それでも購入する人がいるのは、一般的なラップ口座の運用コストと比較してみると理解できます。

一般的なラップ口座は運用コストが3%程とかなり高く設定されています。一方で、通常のラップ口座と同じような運用手法で、1.5%という運用コストのファンドがあれば「割安な商品だ」と思い、購入してしまう人もいるのです。

投資の結果は意外にも、商品そのものの運用成績ではなく、信託報酬で差が開きやすいため、注意が必要なのです。

逆に、信託報酬が安いものを挙げると、いちばん安いものは「eMAXIS Slim 米国株式S&P500」と、「たわらノーロードS&P500」の2つで、どちらもS&P500です。2023年時点ではいずれも信託報酬は0.0937%となっています。

次点で0.0938%のファンドが何本かあるため、コスト引下げ競争が激しいことがうかがえます。

インデックスファンドに投資するのであれば、アメリカだけでなく全世界株式のほうがよいと考えている方も多いことでしょう。

しかし、全世界株式のファンドは信託報酬の計算方法が違う会社が1位を競い合っているため、どれがいちばん安い、とは言い切れない状態です。

たとえば、「トレイサーズ MSCIオールカントリーインデックス」だと、信託報酬が0.057%、その次の「eMAXIS Slim全世界株式」だと、信託報酬が0.113%のため、トレイサーズの運用コストが最も安いように見えます。

しかし、トレイサーズは、指数の標章使用料、ファンドの経理業務や開示書類作成のコストなど、最大0.1%のコストを信託報酬に加算していないため、それらを加算すると、0.113%を超えてくるかもしれないのです(0.057%+0.1%=0.157%>0.113%)。

それを加味すると、「eMAXIS Slim」がいちばん安いといえるかもしません。

ここまで、信託報酬の差についてみてきましたが、運用コストが安いインデックスファンドが0.1%、運用コストが高いアクティブファンドが1.6%とすると、その差は1.5%もあります。

長期積立投資の場合、1.5%の違いで、結果にも大きな差が出てきます。

新しいNISAで満額1,800万円まで投資し20年間運用した場合、手数料が0.1%のインデックスファンドと手数料が1.6%のアクティブファンドでは、最終的に約430万円の差が出てきます。430万円あれば、新車が1台買える金額です。

もし、アクティブファンドにそれだけ高い運用コストを払うのであれば、インデックスファンドよりも1.5%以上高いリターンを毎年出さないといけません。しかし、リターンの大きさはコントロールできないため、実質これは不可能だといえるでしょう。

このことからも、個人投資家がお金を増やすには、手数料や信託報酬の安いファンドを選ぶことが重要であると言えます。銘柄は慎重によく検討して選ぶようにしましょう。

大失敗2…短期のリターンだけを見てファンドを選んでしまう

2つ目の失敗例は、短期的な目先のリターンの高さからファンドを選んでしまう、ということです。

例を挙げると、国内株式を対象とするアクティブファンドのひふみプラスは、2018年までは、ものすごく高いリターンを出していました。

その時期に代表者が積極的にテレビに出て、個別企業へ訪問して徹底的に調査・分析を行っていると紹介していたことも、当時人気を集めていたきっかけだったといえるでしょう。

しかし、2018年以降はどんどんリターンが下がっていき、TOPIXなどのインデックスファンドにも負けるような結果が続いていることを見れば、短期的に成績がよくても、それがずっと続くとは限らないのがわかります。

どんなファンドも、成績がいいときもあれば、悪いときもあります。ある年にものすごく値上がりしても、その翌年には大暴落することもあります。

その年に、どの資産クラスのリターンが高かったのかの推移を追っていくと、トップは毎年コロコロ入れ替わります。前年に1位だった資産クラスが翌年には10位以下になり、マイナスを出すことも少なくありません。

昨今ではS&P500のインデックスファンドがいいといわれてはいますが、それが属している先進国の株式も、大負けする年があります。

これらのことからも、ファンドの銘柄を選ぶときには、短期では負けることがあっても、長期的に勝てるかどうか、という視点が大事なのです。

岸田 康雄 公認会計士税理士/行政書士/宅地建物取引士中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

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