こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

靴メーカーやショップの多くは、2月を皮切りに新作や春や夏用の靴を売りはじめます。スニーカーはとくに回転が速く、定番と呼ばれるものであっても在庫リスクを避けるために店頭からタマ数が減っています。そこで今回は個人的に「大人にこそ似合うスニーカー」を挙げていきます。

大人が履くスニーカーで大事なことはまず色の選び方です。街着としての普段使いするのであれば白の単色、仕事でも履く可能性があるなら黒の単色がお勧めです。使われている色の数が混在していると服のコーディネートの難易度が上がり、子どもっぽくなるか、野暮ったくなります。最近のスニーカーは切り返しやパーツの多いものが流行っているので、気が付いたら足元が子供靴の「瞬足」になっていたということになりかねません。

◆白スニーカーは必ず天然革をチョイス

白の単色で重要なのは素材です。天然革一択と言っていいでしょう。例えばニューバランスの「Made in UK 576 OW」が理想的。

天然革は実は汚れが落ちやすいという利点があります。天然革は表面の顔料加工のテクノロジーが格段に進んでいるので、ちょっとした汚れなら歯磨き粉と歯ブラシを使って容易に落とすことができます。ついでに底周りの汚れも意外に目立つので、歯磨きの要領でササッと落としましょう。いちいちクリームを使う必要がないので、実はほかの色より白のほうがメンテナンスはラクです。車を運転したときの油汚れなども今はスニーカーシャンプーの質が上がっているので簡単に落ちるようになっています。白スニーカーにとって清潔感は命ですから、手入れは怠らないようにしましょう。

一方、合成皮革のほうが汚れは落ちにくい。なぜかというと合成皮革は表面の樹脂と油の化学反応で汚れが落ちにくく、つま先をぶつけたときの摩擦熱で生じるキズや汚れも落ちません。案外、見落としがちなので注意が必要なのです。とくにアディダススタンスミス」の廉価版、ABCマートオリジナルあたりが合皮の代表なのでよくよく確認しましょう。

◆「脱ナイキ」なら迷わずアシックス

白レザーのスニーカーといえばナイキのエアフォース1あたりを想像しますが、若者な感じがぬぐえません。そこで個人的なおすすめはアシックスの「GEL-PTG」です。

ナイキの「エアフォース1」とほぼ同時期の1983年に発売され、数年前まで現役のバスケット選手にガチ試合で愛用されていました。「スラムダンク」にも登場しています。一線は退きましたが、ルックスはそのままで表面の革をより実用的な牛革にアップデート。ヒールには現役当時は採用されなかったGELも搭載しているので、アスファルトの上でも衝撃をほぼ感じません。

本来バッシュは止まるための動作を目的に作られているので、歩行には向きませんが、このモデルは別です。復刻の際にタウンユース向けに随所が改造され、摩耗にも強く歩行にも向いています。なによりツラの皮が厚い……というか、素材の牛革がとにかくタフで汚れも落としやすい。凹凸の細かいシボ革を全面に使用しているので、オーラがまったく異なります。これぞまさに大人にしか似合わないバッシュと言っていいでしょう。

アシックスは世界的にもファッションシューズとしての地位を確立していて、学校の指定靴だったころの昭和のイメージはありません。ファッションのみならず、肝心の履き心地もシューフィッターの眼を通しても、「①かかとの容赦ない絞り②くるぶし周りのバランスの正確さ③曲がるべきところで曲がる仕様」のあたりは外国メーカーにはなかなかマネできないレベルなので、世界中で人気が爆発しているのも頷けます。

◆黒スニーカーはまずドレスライクなものを

黒は簡単に見えて意外と難しいスニーカーです。服との相性で言えば、視覚的に重く感じやすいので、ぼってりしたシルエットを選ぶとリタイアしたおじいちゃんを想起させます。そこで、なるべく革靴に近いすっきりしたドレスライクなシルエットを選ぶのがコツです。その代表がパトリックの「マラレイン」。

フランスのメーカーだけあって、シルエットは本当に美しい。シルエットだけではなく、70年代に販売されたときにガチのマラソンシューズだったので、履き心地は推して知るべしでしょう。さらにこのモデルは雨でも問題のないスコッチガードを使用した天然革です。味も出るうえに超実用的。なんと紐にまで撥水加工を施している徹底ぶりなので、スポーツショップのみならず、大手百貨店やアパレルショップでも常に引っ張りだこです。

細身のシルエットではありますが、足幅に一番個人差の出る部分には余計なパーツがないので、華奢な足でも幅広足でもどちらにも不思議にフィットします。「伸びる」のではなく、「馴染む」。これが天然革の良さです。クリームで磨けば味も出るし、ヒールが削れてもリペアも簡単。フランス発祥ですが、生産はメイドインジャパンで品質にもそつがなく、街着でもビジネスでも長く付き合える1足です。

◆ビジネスシーンでもスニーカー寄りがおしゃれ

ビジネスシーンであっても、世界的にはスニーカー寄りデザインの流れが止まりません。ジョン・ロブ、チャーチなどの英国本格革靴の見本のような名だたるメーカーのほとんどがスニーカーを作り始めていて、実際に売れています。しかしいきなり10万円も出せないという方にお勧めなのがコールハーン。ここもかつては「アメリカの頑固靴!」のようなザ・クラシックな革靴メーカーだったのですが、一時期ナイキの傘下に置かれてからは完全にスニーカーづくりのセンスと技術をモノにしました。

主力商品の「グランドプロ」シリーズも主力ラインは3万円前後と、手が出しやすくハズレもありません。百貨店や紳士靴のショップをざっと見渡しても、ほとんどすべてのメーカーのレザースニーカーは必ずと言っていいほどコールハーンの影響を受けています。中にはオマージュを通り越している廉価製品もちらほら。2024年の革靴業界・靴のファッション業界も確実にコールハーンが核になるでしょう。

靴販売最大手のABCマートは公式にコールハーンの廉価ラインを去年から展開していて、お値段はさらに控えめでコスパは抜群です。コールハーンの直営店で3万円に近かったモデルが、定価で1万7600円。テクノロジーとしてはたしかに1年遅れのおさがりではありますが、十分に最先端です。10年ほど前のナイキの「ルナ・テクノロジー」を生かした弾むようなソールに、クラシックなアッパー、そして素材は天然革。ソールまで真っ黒だと視覚的に重くなるので、アクセントとしての白ソールも効いています。

スニーカーは機能とブランドだけで選ぶ時代はもう終わりました。機能だけでは部活スニーカーのような「ザ・運動靴」になるし、かといって革靴寄りでも「リタイアしたおじいちゃんの旅行靴」になりかねません。スニーカーと革靴のボーダーは今後、加速度的になくなっていくので、見た目も履き心地も「少しいいもの」を選びましょう。

【シューフィッターこまつ
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPは「全国どこでもシューフィッターこまつ」 靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ

ニューバランス「Made in UK 576 OW」。3万5200円。写真は公式HPより