『バズリズム02』の「これがバズるぞ!BEST10!」、Spotifyによる『RADAR:Early Noise 2024』、『関ジャム 完全燃SHOW』の「プロが選ぶ年間マイベスト10曲」が発表され、2024年注目の新人が出揃った感のある現在。本稿ではこの3つのリストで紹介されたのべ50組のアーティストから、個人的に注目している4組を厳選しつつ、2024年の音楽シーンの展望を書いてみたい。

3つのリストすべてにピックアップされ、2024年の最注目アーティストの一組と言えるのが離婚伝説。2022年1月にボーカルの松田歩とギターの別府純で活動を開始し、マーヴィン・ゲイの『Here My Dear』の邦題から「離婚伝説」を名乗ることにした2人は、2024年1月現在までにストリーミングで7曲を発表している。ファンクソウル、AOR、フュージョンなどを背景に感じさせる楽曲はどれも完成度が高く、すでに早耳の音楽ファンからは高い期待が寄せられていた。

『関ジャム』で川谷絵音が選んだ「愛が一層メロウ」はこれまで発表した曲の中で最もファンキーな仕上がりで、番組内での「2023年随一の口ずさみ率」というコメント通り、サビの「愛が一層メロウ」のリフレインが中毒性抜群。シュールなバンド名、インパクトのある見た目、ポップで高度な音楽性という意味ではゲスの極み乙女とも通じる部分があり、川谷が彼らを選んだのは納得だし、今年はゲスの極み乙女のメジャーデビューからちょうど10年で、彼らがその後のシーンに与えた影響を再考するいいタイミングかもしれない。

「愛が一層メロウ」以外で注目したいのは「萌」で、歌を軸とした堂々たるミドルバラード90年代前半の徳永英明、KAN、槇原敬之といったアーティストを連想したりもした。やはり時代は回るのか、80年代的な「シティポップ」のリバイバルで盛り上がった2010年代を経て、現在ではより「歌」を軸とした90年代的なJ-POPアプローチの新人が目立ってきていてるように感じる。すでにメジャーデビューが発表されているグソクムズや、South Penguinのアカツカによる新バンド・Guibaあたりも今年注目すべき存在だろう。

『RADAR:Early Noise』からはFirst Love is Never Returnedをピックアップする。結成は2018年だが、コロナ禍の影響で活動休止。その後メンバーチェンジを経て2022年末に再始動すると、昨年は地元である北海道の『RISING SUN ROCK FESTIVAL』にオーディションのライブ審査を経て出場を果たし、年末にはAmazon Musicが選ぶ「Breakthrough Artists of the Year」に選ばれるなど、徐々に注目を集めつつある5人組だ。

ソウル、R&B、ファンクなどを背景に、様々なジャンルをクロスオーバーする彼らもまた「シティポップ以降」を感じさせる存在だと言えるが、重要なのは彼らが札幌の出身であるということ。東京のライブハウスシーンではすでにシティポップが飽和状態となり、前述したようにより「歌」に接近するか、あるいは反作用としてのオルタナティブロックの流行が見られたが、札幌を拠点とする彼らはトレンドの移り変わりに左右されることなく自らの道を貫いてきた。一貫してポップな作風は現在の都内ではなかなか見当たらないストレートさで、ニューヨークへのボーカル留学の経験があるKazuki Ishidaの歌声はストリーミングやラジオを通じてリスナーの耳を掴みつつある。

彼らの楽曲やIshidaの歌声からSuchmosを連想する人も少なくはないだろう。UKガラージ風のトラックを用いた現時点での彼らのキラーチューン「Baby,Don’t Stop」は「キューシート差し替えて カフが上がる前に 電波は声を繋ぐよ」とラジオについて歌われていて、「STAY TUNE」を連想させるし、現在Spotifyで最も再生されている「OKACHIMACHI FRIDAY NIGHT」も曲名からして「Stay tune in 東京 Friday night」を連想させる。これはもちろん彼らがSuchmosを後追いしているわけではなく、すでにSuchmosがスタンダードになって以降の世代が頭角を現しつつある現在のシーンを象徴している。Suchmosは昨年が結成10周年イヤーだったりもして、前述したゲスの極み乙女同様、彼らの功績にも今一度想いを馳せたくなる。

『RADAR:Early Noise』からもう一組、映画『すずめの戸締まり』主題歌であるRADWIMPSの「すずめ(feat. 十明)」で一躍注目を集め、昨年7月に「灰かぶり」でメジャーデビューを果たした次世代シンガーソングライターの十明をピックアップしよう。『関ジャム』で蔦谷好位置が3位に選んだAdoを筆頭に、現在は実力のある歌い手がジャンルや作家を問わない様々な楽曲を歌いこなし、時代をリードしているわけだが、もともとオリジナル曲に加えて様々なカバー動画をTikTokに投稿し、そこからキャリアをスタートさせた彼女もまた現代的な歌い手の一人だ。

灰かぶり」と「Discord-disco」に関してはボカロがルーツのひとつであることを感じさせるクラブトラックだったが、個人的に彼女に対する期待値がさらに上がったのが12月に発表された「僕だけが愛」。野田洋次郎とmabanuaが共同で編曲を手掛けたこの曲は、弾き語りをベースにしつつ音響的な構築が施されたアシッドフォークといった仕上がりで、僕が連想したのは青葉市子の存在だった。昨年ワールドツアーを敢行したRADWIMPS同様に、『すずめの戸締まり』効果もあってすでに中国や南米でも注目を集めている十明だが、青葉もまた世界から注目される日本のシンガーソングライターであり、この曲のようなアンビエント的なアプローチがある種の「日本らしさ」にも繋がって、さらに評価が高まる可能性を感じた。

『関ジャム』でいしわたり淳治が8位に選んだanoの「スマイルあげない」は、詞曲・編曲で関わったケンモチヒデフミの存在がピックアップされていたが、『NHK紅白歌合戦』で歌われたヒット曲「ちゅ、多様性。」は元・相対性理論の真部脩一が詞曲に関わっていて、「セカイ系」のリバイバル的な側面があったように思う。現実と虚構を行き来するような世界観を持つ十明と野田(と新海誠)の組み合わせというのも、ある種の「セカイ系」リバイバル的な側面を感じさせ、そういった観点からも今後の動向に注目してみたい。

最後に、『関ジャム』で川谷が9位に選んだbedについて触れようと思う。2022年に始動したbedは未だに詳しいプロフィールが公開されていないが、都内のライブハウスやクラブで自らが主催するパーティーを行い、昨年はフジロックの「ROOKIE A GO-GO」に出演してもいる。最初に出てきたときはサウスロンドンにおけるポストパンクの盛り上がりに触発されたバンドかと思ったが、徐々にダンスミュージック的な色合いの楽曲も増え、レイヴ〜トランス的な熱狂を生むバンドという印象に変わっていった。

世界的なパンデミックによる抑圧された日々を経て、そこからの解放を求めて起こったレイヴパーティーのリバイバルはここ日本でもアンダーグラウンドで広がりを見せている。藤井風VaundyといったソロアーティストがYouTube発で時代を体現し、TikTok発のヒットが大量に生まれるようになった一方で、一時的にリアルな現場を失ったバンドたちはやや苦戦をするという状況になっていたわけだが、2023年はライブハウスやクラブで新たなシーンが徐々に形成され、2024年はそこからの爆発が起こるかもしれない。『関ジャム』で蔦谷が7位に挙げたEnfantsはLAMP IN TERRENの活動に区切りを付けた松本大が2022年に始動させたバンドであり、「抑圧からの解放」に加えて、ある種の「逆襲」的なニュアンスにbedとシンクロする部分を感じさせる。

bedは現場主義を徹底していて、昨年8月に発表したアルバムも『Archives:May 27th, 2023』というタイトル通り、この日のライブ録音をそのままリリースしていた。これに近い動きとしては、やはり活動休止状態にあったNITRODAYが昨年2月にライブ音源をそのまま新作として発表した復活作『I’ll Never Cry(from tomorrow)』が挙げられる。NITRODAY自体は1月29日のライブをもってライブ活動を休止してしまったようだが、ギターのやぎひろみはART-SCHOOLへの参加、Cruyffとしての活動など、オルタナシーンの新たな顔役としてさらなる活躍に期待したい。

文=金子厚武

離婚伝説