同じ年齢でも“若く見える人”と“そうでない人”の差は、いったいどこにあるのでしょうか。『60代からの見た目の壁』(株式会社エクスナレッジ)の著者で医師の和田秀樹氏が解説します。

同じ年なのになぜ見た目がこんなにも違うのか

60歳を過ぎると、同じ年齢でも、若く見える人と、そうでない人の差が大きくなってきます。とくに私は、高齢者の医療に長く携わってきた経験から、見た目の差のことがよくわかる立場にありました。

若く見える人は、実年齢より10歳はおろか、20歳くらい若く見える人も珍しくありません。医療の現場にいると、「同じ年齢でもこんなに見た目が違うものか?」と驚くことが少なくないのです。

高校時代の同窓会に出かけたら、びっくりするほど老けて見える人がいる一方、自分より若く見える人もいて、軽い嫉妬を覚えたりすることがあるのではないでしょうか。その差が20歳ぐらい大きくなると、高校の担任教師が当時20代の若い先生だったとしたら、先生より老けて見える元生徒がいるということになります。

当人はそこまで自覚がないかもしれませんが、記念に撮った集合写真を後で見たら、自分の顔が教師よりはるかに老けていて、ショックを受けるかもしれません。

そんな「見た目年齢」が老け込んだ患者さんと話すとき、私がいつも思うのが、栄養のバランスが悪い、とりわけたんぱく質が足りていないということです。

これが見た目年齢を老けさせる理由の1つです。皮膚にシワが目立っていたり、体全体がしぼんだように見えたりする60代の患者さんに、どんな食生活をしているか尋ねると、明らかにたんぱく質不足であることがわかります。

60代ともなると、あっさりした食事を好む人が多くなる傾向がありますが、その結果、筋肉などの材料になるたんぱく質が不足しがちになるのです。

つまり、実年齢よりも老けて見える人は、自ら進んで見た目年齢を下げる栄養の摂り方をしているということになります。見た目年齢を老けさせる理由の1つに栄養があることを理解しておいてください。

ヒトには“60歳で死ぬプログラム”がある?

たんぱく質が不足していると、顔の見た目も老けるし、体も弱ってきます。だから私自身も積極的に肉を食べるようにしているのですが、やっぱり若い頃に比べると、肉がヘビーに感じられるときもあります。胃腸の機能が弱ってくるせいかもしれませんが、どうもそれだけではないような気がします。

筋力低下を防ぐ目的が大きいと思いますが、最近、高齢者にも肉食が勧められるようになってきました。でも人によっては、肉食はキツいという人も少なからずいます。

そういう人は、とくに理由もなく粗食になっていくような気がします。もしかしたら、ヒトは年をとると勝手に粗食化して、たんぱく質を避けるようになるのかもしれません。

ほんの数十年前くらいまでは、60歳前後の年齢でも、老衰で亡くなる人は珍しくありませんでした。

そこから、私は年をとると食が細くなるのは、ヒトには寿命が近づいたら老衰でおだやかに死ねるようなプログラムが備わっているからではないか? と考えるようになりました。いわば、生き物として早く死ぬための自殺行為です。

生き物として早く死ぬための自殺行為として、ヒトはもともと60歳くらいで死ぬようにプログラムされているのではないでしょうか? だから、年をとると肉などのたんぱく質を多く含む食品が食べたくなくなる。それはヒトにもともと備わっている遺伝子のプログラムのせいではないのか? それが私の仮説です。

もしそれが事実だとしても、現代のわれわれはそのプログラムから外れた生き方を選んでしまいました。

実際、今や平均寿命はどんどん上がり、「人生100年時代」とも呼ばれています。それを可能にしたのが、栄養であったり、医療であったりするのでしょう。ヒトという生物が長生きする道を選んだのだとすれば、その次の段階を考えなければなりません。次の段階というのは、死ぬまでの時間が延びた分、何をして生きればよいのかということです。

和田 秀樹 医師