家・土地などの不動産を相続しても「相続の名義変更はそのうちやればいいでしょ?」「費用がかさむからできればやりたくない。」と思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、相続登記は2024年(令和6年4月1日から法改正により義務化されます。これから相続をむかえる方でも、すでに相続をむかえている方でも、相続登記の義務化について押さえておくべきです。この記事では、少し複雑な「相続登記の義務化」に伴い変わるルールや、相続登記をしないと起こるデメリット、相続登記の手続き方法や費用について、司法書士法人みどり法務事務所・所属の司法書士、鈴木健太氏監修のもと解説します。

相続登記とは

相続登記とは、亡くなった人名義の不動産を相続人名義に変更する相続手続き(相続を原因とする所有権移転登記)のことです。不動産の名義は法務局が管理する登記簿に登録されてあるので、相続した家・土地などの名義変更をするためには、法務局に相続登記の申請をする必要があります。

2024年3月末までは、相続登記は「当事者の任意」であり、登記申請の期限や登記しなかったことによる過料(≒罰金)などはありませんでした。

しかし、やはり義務ではないにしても、そのあと売却処分、銀行の不動産担保融資などの予定がある方は、相続登記をしなければそれらの処分行為をおこなえないため早めに相続登記を済まされる場合が多かったです。

2024年4月1日以降相続登記が義務化

相続登記を義務化する法案(不動産登記法改正法案)が2021年4月23日の国会で成立し、2024年4月1日以降は義務化されます。義務化する背景や登記しないことによる罰則についてご説明します。

義務化となった背景

相続登記が義務化となる背景には、登記名義がすでに亡くなった人の名義のまま放置されている所有者不明土地・建物が増えていることがあります。

2016年の国土交通省の調査によると、全国の所有者不明土地は20.3%、約410万haもあるのです。九州の面積が368万haなのでそれ以上の所有者不明土地があります。

所有者がわからない不動産は勝手に取り壊しや造成工事ができません。例えば、駅に近い好立地の場所にマンションを建てようとしても、所有者不明の不動産があればその土地を有効活用できないのです。

それだけではなく、固定資産税の税収にもかかわるので、国としては所有者不明の不動産を減らしたいとの思いがあります。

なかには、土地の名義が50年以上前に亡くなった人のままになっているケースもあります。そのようなケースでは時間が経てば経つほど相続人の数が10人20人30人とどんどん増えてしまって、所有者が誰なのかの把握が一層困難になってしまいます。そのため、相続人の数が多すぎて相続人全員と連絡とるのが困難なため、相続登記を諦めてしまう、というケースもあります。

このような事情もあり、不動産を誰が相続して、誰が所有しているかがわかる相続登記を法改正により義務化することになったのです。

相続登記の義務化で知るべきこと5選

相続登記の義務化にともない変わるルールは数多くあります。一般の方はそのすべてのルールを押さえておく必要はありません。しかし、これから相続をむかえる方や、すでに相続をむかえている方は下記の5つのことは最低限皆様にも知っておいて頂きたいと思います。

1.開始は2024年4月1日。しかし過去の相続分にも適用

相続登記の義務化が開始するのは、2024年(令和6年4月1日です。しかし、相続登記が義務化されるのは2024年(令和6年4月1日以降に相続が発生したものだけに限らず、2024年(令和6年4月1日以前に相続が発生したものも含まれます。これについては勘違いしやすいので注意が必要です。

2.3年以内に相続登記をしないと、最大10万円のペナルティ

自身が不動産を相続(遺言による場合も含む)したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。正当な理由なく相続登記を怠れば、最大10万円の過料(≒罰金)の対象となります。

また、①でご説明したとおり法改正以前の相続分も対象になります。その場合は改正法の施行日である2024年(令和6年4月1日又は不動産を相続したことを知った日のいずれか遅い日から3年以内に相続登記をする必要があります。

1つだけ確実に言えることは、相続発生日(不動産の所有者が亡くなった日)から3年以内に相続登記をすれば問題ないということです。相続したまま登記していない不動産がある場合は可能な限り速やかに手続きをしましょう。もし、諸事情により相続発生日から3年以内に相続登記を申請することが難しい状況であれば、まずは司法書士に相談されることをおすすめします。

3.相続の話が進まないなら……「相続人申告登記」の創設

相続登記の義務化以降に遺産分割協議が難航して相続内容が決まらない場合には、相続人である旨を法務局に申出をすれば相続登記の義務を免れることができます。この申出は相続人が複数いる場合であっても、相続人の一部からの申出ができます。また、申出の必要書類とされている戸籍謄本は、被相続人と申出人の相続関係を証明できる戸籍謄本のみなので、通常の相続登記よりは簡単に登記ができます。ただし、申出をしていない相続人については相続登記の義務が免除されることはありませんので注意が必要です。

この「相続人申告登記」は遺産分割協議が難航してしまった場合の救済制度として創設されたものです。あくまで義務を免れるための暫定的な登記なので、もちろん可能なら最初から相続登記をした方が手間や労力は少なくて済みます。

なお、遺産分割協議が難航して相続内容が決まらない場合には、法定相続人名義に変更するための法定相続分の相続登記をすることでも相続登記の義務を履行したことになります。この登記も相続人の一部からの申請が可能です。

また、相続放棄をすれば最初から相続人ではなかったことになりますので、相続放棄によっても相続登記の義務を免れることができます。相続放棄を正式に認めてもらうためには家庭裁判所に相続放棄申述書を提出して相続放棄を受理してもらう手続きが必要になります。

4.住所・氏名変更登記も義務化される

相続登記の義務化に続いて2026年(令和8年)4月1日には不動産の所有権登記名義人の氏名・住所(法人なら商号・本店)の変更登記も義務化されます。これも所有不明土地問題の1つの原因になっていたことが義務化の理由です。氏名や住所を変更してから正当な理由なく2年以内に変更登記をしない場合も、最大5万円の過料(≒罰金)の対象となります。

この変更登記も相続登記と同じように法改正以前の氏名・住所変更にも適用されます。不動産売却などの際にも、過去に結婚や転居などで氏名や住所が変わっていても氏名・住所変更登記がされていないケースがかなり多いです。今後は免許証の書き換えやクレジットカードの住所変更届出と同じように、不動産の住所氏名変更登記をする必要があります。

なお、株式会社などの法人の商号・本店所在地などを公示する商業登記(法人登記)においては、従来から登記事項に変更が生じたから2週間以内の変更登記義務があります。

この役員変更登記などを忘れていて過料(≒罰金)を払う羽目になってしまう方などもいるのでご注意ください。

5.相続した不要な土地は……相続土地国庫帰属制度

2023年(令和5年4月27日には「相続等により取得した土地所有権を国庫に帰属させる制度」も開始しました。今までは相続した場合には、相続財産の中で不要な土地のみを放棄することが認められていなかったので、不要な土地も含めて相続するか、他の財産(預貯金など)も含めてすべての相続財産を相続放棄するかを天秤にかけて決めるほかはありませんでした。このような場合に、「いったん相続はするけど、不要な土地のみを国に引き渡す」という選択肢をとることができるようになりました。

しかしこの制度を利用するためには一定の条件を満たす必要があります。下記の3つをすべてクリアしているケースです。

上記3の5つの条件は下記のとおりです。

現住所と離れていて管理が大変な土地などを国に引き取ってもらえるのはメリットですが、条件も多いことは理解しておく必要があるでしょう。家などの建物がある場合は、相続人が解体費用を負担しなければいけません。また、負担金の納付も必要となり、国庫へ帰属後10年分の土地の管理費用を納付しなければなりません。

当事務所でも相続登記のご依頼を受ける際に「土地を相続したけど……売れるような土地じゃないし、利用用途もない場合はどうすれば……」というご相談を頂くこともあります。そのような場合に相続土地国庫帰属制度の利用を検討することもありますが、やはり利用条件や負担金が障害となり、結局のところ利用できない方が多いのが現状です。

罰則だけじゃない。相続登記をしない本当のデメリット

上記で一定の期間に相続登記をしないと過料(≒罰金)の対象となることはご説明致しました。次に過料(≒罰金)以外の相続登記をしない場合の重要なデメリットについて、下記にてご説明いたします。

・相続人が増加すると不動産の管理が難しくなる

相続登記をしないと、相続人同士で共有管理することになります。そのため、共有管理している人が亡くなれば、その子供や孫へ権利は移るので、権利を持つ相続人がどんどん増える一方です。相続人が増えると、意思決定がしづらくなりますし、不動産の管理もしにくくなります。

もし、相続人の一人が建物を修繕したいと思っても、他の相続人が反対すれば話は進みません。このように、相続人が増えると意思決定がしにくくなるので共有管理は避けるべきであり、相続発生時に誰が相続するのかをはっきりさせたほうが良いでしょう。

・相続した不動産を売却できない

相続登記をしていない不動産は売却できません。固定資産の負担が重くなり、売却を考えたときに、他の共有者の賛同を得られなければ売却ができなくなってしまいます。

・相続した不動産を担保提供できない

相続登記していない不動産は担保提供もできません。お金を借りるために不動産を担保提供したくても担保にできないので、融資を受ける可能性がある場合は速やかに相続登記したほうが良いでしょう。

・納税漏れのリスクがある

相続登記をしていなくても固定資産税の支払いの義務は生じます。共有管理する場合は、相続人全員が納税負担をする必要がありますが、納税する代表相続人の情報共有漏れなどで納税が遅れれば延滞税がかかってしまいます。

・差し押さえのリスクがある

共有管理する相続人の一人に借金があり、返済できなくなってしまった場合、共有管理する不動産が差し押さえられる可能性もあります。借金をしていた人の持分相当分が差し押さえられて売却をされてしまえば、その不動産を購入した人が新たに共有者として加わることになり、権利関係がさらに複雑化します。

空き家になりやすい

共有管理する不動産に特定の相続人が住むことは考えにくいため、共有管理する不動産は空き家になりやすいです。空き家は、犯罪に利用されるトラブルになる可能性があります。誰も住む予定がなく、将来的に売却を考えるのであれば、管理費や固定資産税がかかるので早めに売却してしまったほうが良いでしょう。

相続登記をしないデメリットの詳細については「土地などの不動産を相続したら名義変更は必要か、名義変更をしない場合のデメリットは?」でも分かりやすくご説明しておりますので是非ご参照ください。

相続登記の手続き方法や費用

ここでは、相続登記の手続き方法や費用についてご説明します。

相続登記の手続き方法

相続登記は、相続登記に必要になる書類を集めて法務局に申請します。相続登記に必要になる書類は遺言書・遺産分割協議・法定相続による相続により異なるので確認が必要です。相続人の戸籍謄本を出生までたどるのは手間がかかりますし、相続人が多い場合はそれぞれの相続人から書類を集めなくてはいけません。

相続登記の費用

相続登記の費用としては、登録免許税の実費と司法書士へ支払う報酬があります。自分で相続登記をすれば司法書士へ支払う報酬(約7万円~15万円)の節約が可能です。ただし、自分で手続きをおこなうと手続き内容を調べたり、書類を集めたり、申請書類を作成したりと面倒な手間がかかります。仕事などで忙しい方は、正確かつスピーディーに手続きをしてくれる司法書士に依頼したほうが良いといえます。

相続登記は司法書士に相談したほうが良い理由

相続登記は、相続人自らが手続きすることもできますが、ミスなくスムーズに相続登記の手続きを進めるためには、専門家に相談したほうが良いといえるでしょう。そして、相続登記の専門家といえばやはり司法書士であることには異論はありません。具体的には、どのようなことを司法書士に対応してもらえるのかをご説明します。

煩雑な手続きを任せられる

相続人が複数いる相続の場合、必要になる書類も膨大になります。間違いなく集める必要がありますし、書類内容に不足があった場合には書類を取得しなおさなければならず、手間がかかります。

また、被相続人の戸籍謄本を出生まで遡り、法定相続人を確定させる必要がありますが、見落としがあれば遺産分割協議をやり直す必要が出てきます。そのため、相続内容が複雑で相続人が多い相続は、司法書士に任せたほうが良いです。

スピード感のある手続きに期待できる

被相続人の不動産は、相続登記をおこなった後にしか売却することはできません。相続税の支払いは、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。売却したお金で相続税の支払いを考えている場合は、一日でも早く相続登記を終わらせて売却の手続きが必要になります。自分で手続きしようとすると、書類漏れなどのミスでスケジュールとおりに進まない恐れもあるので、司法書士に任せたほうが安心です。

複雑な相続にも対応してくれる

今までは相続登記が義務化されていなかったので、相続が繰り返された結果、共有の相続人が複数人発生しているケースもあるでしょう。親戚関係が疎遠になり、相続人同士面識がないこともあるかもしれません。そんなケースでも司法書士に相談すれば、相続登記に関する法律知識や専門的な経験に基づき、より良い解決方法を導いてもらえます。

また、多くの司法書士は相続関連業務で交渉や遺産分割調停・審判などの裁判手続きが必要になったでも、弁護士と連携して対応くれます。当事務所でも相続関連業務で弁護士が必要になった場合には、その状況に応じて適切な弁護士と連携させて頂いております。

相続登記の義務化にともない、法改正以前の不動産も義務の対象になります。相続登記をしないまま放置している不動産に心あたりがある場合は、ぜひ司法書士に相談してみてはいかがでしょうか。

九州の面積以上の土地が所有者不明に

相続登記が義務ではなかったことにより、九州の面積以上の土地が所有者不明になっています。「所有者不明の土地を有効活用したい」「税収を得たい」という国の思いから、2024年(令和6年4月1日に相続登記が義務化されることになりました。法改正以前の不動産も対象になり、相続登記や変更登記をしないと過料(≒罰金)の対象となります。

相続登記は自分でもできますが、手続きが煩雑です。特に相続人が多く相続内容が複雑なケースでは、専門家に手続きを任せてしまったほうが安心です。司法書士は不動産登記のエキスパートなので、一番面倒な相続登記の書類の収集・申請書類作成・登記申請を一任できます。また、司法書士の費用が心配な方はまずは費用の見積りをしてもらうと良いでしょう。

鈴木 健太

司法書士法人みどり法務事務所 司法書士

画像:PIXTA