2023年度の税制改正大綱により、相続税贈与税に関する法律が大きく変わりました。改正後の相続税対策について、気をつけるべき点とは? 税理士法人ブライト相続・代表社員税理士の戸﨑貴之氏が解説していきます。

税制改正大綱「暦年贈与」と「相続時精算課税贈与」に変化

2023年度の税制改正大綱によって、2024年1月1日から相続税贈与税に関する法律が大きく変わりました。大きな改正点は、「暦年贈与の加算期間延長」と「相続時精算課税贈与の基礎控除枠の新設」です。

法律改正に伴って、2024年1月1日以降に行われる暦年贈与は、相続税の財産に加算される期間が従来3年であったところ、最大で7年まで延長されました。暦年贈与による節税メリットを受けられる方が限定されることになります。

一方、相続時精算課税制度については、基礎控除枠の新設によって使い勝手が向上します。今まであまり利用されることがなかった制度ですが、今後は利用数が増加することが予想されます。

今回の改正によって相続税の節税が難しくなる面もありますが、相続人以外に対して行われる暦年贈与や、孫への生活費・教育費等の贈与は今後も積極的に行うことができます。

また、相続人ではない方に税制改正後の相続時精算課税制度(以下シン・相続時精算課税制度という)を適用することでかえって節税効果を受けられなくなる可能性があります。そのため、新しい税制改正の内容をしっかりと理解し、把握しておく必要があります。

本記事では、税制改正に向けた相続税対策について、事例を用いてご説明していきます。

税制改正に対応した相続税対策

①7年の贈与加算期間に相続発生する可能性が低いと想定される方は、基礎控除額を超えても駆け込み贈与を行う

2024年1月以降の税制改正後の暦年贈与に関しては、相続または遺贈により財産を取得した方が、その相続開始前7年以内に被相続人から贈与により取得した財産がある場合には、その取得した財産の贈与時の価額を相続財産に加算します(経過措置により、相続開始前7年以内の贈与が相続税の対象になるのは、令和13年1月1日以降の相続開始事案に限ります)。

(また、延長された4年間の贈与により取得した財産の価額については、総額100万円までは加算されません。)

一方、「シン・相続時精算課税制度」では、毎年110万円の基礎控除枠が新たに設けられ、その金額の範囲内においては節税することができます。しかし、110万円を超えた贈与に関しては相続の時に財産に加算されてしまうため、まとまった金額を渡すことができません。

②税制改正適用後、相続人に「シン・相続時精算課税制度」を利用する

相続人に該当する場合、「シン・相続時精算課税制度」を適用することで、110万円以内では非課税の扱いになります。110万円に抑える必要がありますが、コツコツと節税を行うには有効な手段となります。

③相続人以外は今まで通り暦年贈与を活用する

暦年贈与の法改正による加算期間の延長(3年→7年)に関しては、相続人に対する暦年贈与に限定されています。そのため、相続人に該当しない方、例えば孫に対する暦年贈与に関しては、相続財産には一切加算されないため、今まで通りの暦年贈与を活用することで相続税の節税対策になります。

④教育費・生活費は都度の非課税贈与を活用する

孫に対して渡す学費は、扶養義務者相互間における「通常必要と認められるもの」に該当し、贈与税においても非課税として扱われます。しかし、必要な時に必要な金額を渡すことで非課税の対象となるため、渡すタイミングや金額を誤ると課税の対象となります。そのため、費用が確定する前にまとめておおまかな金額を渡すことは避ける必要があります。

税制改正後も「暦年贈与を行った方がいい場合」がある?

税制改正後においては、金額は大きくなくとも確実に節税できるという点から『相続時精算課税制度』の活用が増えることが想定されます。

それでは、「今まで通り暦年贈与を行ったほうがいい」場合はどのような方に該当するのでしょうか。将来的に節税になる方を具体的に例示していきます。

●財産規模が2億円以上

暦年贈与は、少額を長期間に渡って多くの方にあげることによって節税効果を受けられる制度設計になっています。

そのため、財産金額が多い場合早めに渡しておく必要があります。

●相続人以外に贈与できる親族がいない/少ない

前述の通り、贈与を受け取る側の人数が多いほどその節税効果を受けることができます。そのため、贈与する相手の選択肢が少ない場合も早めに渡す必要があります。

●贈与を開始する年齢が60~70歳

暦年贈与は少額を長期間にわたって行うことで、より大きな節税効果を受けられる仕組みです。そのため、贈与を行う財産所有者の方が若ければ若いほど贈与による節税効果が期待できます。

税制改正後は条件によって異なりますが、暦年贈与による節税効果が生じるのがおおよそ8年後となります。そのため、80歳以上の方が税制改正後の暦年贈与を行った場合、90歳近くにならないと節税効果が期待できないため、ご相続発生日によっては相続財産に加算されてしまう可能性があります。そのため、贈与をスタートできるのが60~70歳の方に、暦年贈与による節税の恩恵を受ける可能性が高まります。

●財産に占める金融資産の割合が30%以上

所有財産の中で特に金融資産の割合が大きい方、例えば30%以上の場合には、生命保険金の非課税枠の活用や贈与を行える可能性があります。相続財産の大半が不動産である場合には節税の選択肢も限られますが、条件に該当する場合には暦年贈与が有力な選択になり得ます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。新設制度によってメリット・デメリットがもたらされますが、全体として相続税にとっては増税となる面が強いと考えます。制度変更にあたっては混乱しがちですが、改正内容を理解していただき、相続税贈与税の節税にお役立ていただければ幸いです。

戸﨑 貴之

税理士法人ブライト相続 代表社員税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)