世界の新造船建造における中国のシェアが50%を突破しました。沈んでいた日本の造船業界にも、環境対応の影響で追い風が吹いていますが、中国と韓国で世界シェア8割を占めています。日本が浮上する“秘策”はあるのでしょうか。

日本の造船好調 でも中国は「世界シェア5割」の現実

「内航外航を問わず、新造船マーケットは回復基調だ。円安も相まって、今年もしばらくはその状況が続くと思っている」

日本中小型造船工業会の会長を務める旭洋造船(山口県下関市)の越智勝彦社長は、2024年1月に行われた新年あいさつ会で、こう口にしました。年間の輸出船契約実績を見ると2021年から3年連続で1000万総トンを超えており、手持ち工事量は3年分を確保しています。

一方で中国は同月、新造船の竣工量と受注量、手持ち工事量の3つで世界シェアの5割以上を達成したと発表しました。タンカー、バルカー、コンテナ船という主要な船種で受注を伸ばしているだけでなく、国産車輸出を支える自動車船の建造量も増えており、商船の世界的な工場として確固たる地位を築いているのが伺えます。

コロナ中の停滞から上向いてきた日本の造船

日本の造船所が2023年中に契約した輸出船の契約実績は、日本船舶輸出組合によると272隻、船の大きさの目安となる総トン数を合計すると約1199万総トンです。年間竣工量は201隻907万総トンなので、それを上回る受注を確保することができました。2023年12月末時点の手持ち工事量は590隻2700万トンとなっており、造船所によっては2027年以降の商談に入っているところもあります。

造船各社は長らく海運市況の悪化による新造船の受注低迷と、新型コロナウイルスの感染拡大による商談の停滞に苦しんでいました。手持ち工事量は“危険水域”である1.3年分まで低下。大手メーカーでは、三菱重工業の香焼工場(長崎県)の新造船施設が大島造船所に売却され、三井E&S造船が官公庁船事業を三菱重工業に譲渡して新造船建造から撤退し常石グループに入るなど、造船所の再編が相次いでいます。佐世保重工業やジャパンマリンユナイテッド(JMU)舞鶴事業所も新造船建造を取り止めました。

2021年に入ると新造船の商談が動き始め、年間受注実績は2020年の73万総トンから1520万総トンにまで拡大。2022年も年間で1161万総トンを受注しており、これに伴って造船各社は停止していた生産設備の稼働を再開したところもあります。

これからも新造船需要は増大

さらにIMO(国際海事機関)や大手船社などが2050年GHG(温室効果ガス)排出ゼロを掲げる中、環境に優しい船舶の需要も高まっています。日本造船工業会によれば、全世界の新造船建造量は年間約5500万総トン(2022年)。既存のディーゼル船をLNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)、水素、アンモニア、メタノールなどを使用する新燃料船へ置き換えるには、2030年以降で年間1億総トンレベルの建造が必要とされています。

日本舶用工業会の木下茂樹会長(ダイハツディーゼル会長)も「造船業を取り巻く環境は、2020年までの減少傾向からコンテナ、ばら積み船をはじめとして増加に転じている。リーマン・ショック前に大量に発注されて竣工した船舶のリプレースやIMOのGHG削減戦略の強化で、世界の新造船需要は増大していくだろう」と期待を寄せています。

とはいえ、日本の立ち位置を見ると楽観視できる状況ではありません。そもそも日本の造船業は1956年に建造量が世界1位となり、一時はシェア率50%を誇っていました。

しかしオイルショック後の造船不況期、2度にわたって生産設備を削減し新造船の建造能力を落とす一方、1980年代から韓国が、1990年代から中国がそれぞれ大規模な造船所を整備。中韓の建造量が伸びていく中で日本は受注量もシェア率も落としていき、2022年の新造船受注のシェア率は中国が47%、韓国が30%、そして日本が17%という状況になっています。竣工量も日本は950万総トンですが、2位の韓国は1630万総トン、1位の中国は2570万総トンと大きく水をあけられています。

私たちの生活に欠かせない電気を作る発電所の燃料として使われる天然ガスを運ぶLNG船も、かつては三菱重工業川崎重工業などが手掛けていましたが、今は日本企業が受注に手を上げることも、建造を行うこともなくなっています。例えばカタールの国営エネルギー会社カタールエナジーが進める100隻規模のLNG船新造では、韓国のHD現代重工業、ハンファオーシャン(旧大宇造船海洋)、サムスン重工業と、中国の滬東中華造船がそれぞれ受注し建造を手掛ける見込みです。

日本が世界に先駆けてマーケットをつくる!

中国工業・情報化部は1月15日、中国の造船所における船舶の竣工量を載貨重量トンベースで発表しました。2023年の年間建造量は4232万重量トンで世界シェアは50%。受注量は7120万重量トンでシェア率は67%にものぼっています。特にバラ積み運搬船は世界全体の8割を占め、原油タンカーも7割、コンテナ船も5割といずれも高いシェアとなっています。

船社も中国の造船所を選択する傾向にあり、日本の3大海運会社の日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ事業を統合したオーシャンネットワークエクスプレス(ONE)は、初めて整備する1万3000TEU型のメタノール燃料コンテナ船12隻を江南造船と揚子江船業に発注しています。このように高い技術力が求められる環境対応船に関しても、日本の造船所は後れをとっていたのが現状です。

日本郵船1月26日、世界で初めてアンモニアを燃料に使用するアンモニア輸送船の建造を決めたと発表しました。建造を担うのはJMUの有明事業所です。日本郵船などと開発に取り組む日本シップヤード(NSY)の前田明徳社長は「最初に実績を作り、マーケットの中で先行利益を取っていくことが非常に重要だ」と話しており、将来的に日本だけで年間3000万トンもの需要が見込まれるアンモニアの海上輸送を担う船舶を、国内で建造していく方針を示しています。

川崎重工業は16万立方メートル級の大型液化水素運搬船を開発しており、日本郵船や商船三井、川崎汽船と協力し、国際的な水素サプライチェーンの構築に向けて、香川の坂出工場で実船を建造する計画です。

かつてLNG船で敗れ、需要が増える中でも商談の入り口にすら立てなくなった造船日本。2024年がその復活のきっかけとなる年になるのか要注目です。

三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場で命名・進水した海上自衛隊向けの新型護衛艦「ゆうべつ」(深水千翔撮影)。