門脇誠選手(左)と中川絵美里(右)
門脇誠選手(左)と中川絵美里(右)

巨人に入団して1年目で華のショートに定着。昨年11月のアジアプロ野球チャンピオンシップでは、土壇場で大仕事を果たし大会MVPを獲得。打って良し、守って良し、走って良しの万能型遊撃手が語ってくれた〝転換点〟と、大いなる野望とは――。読売ジャイアンツ門脇誠選手にスポーツキャスター・中川絵美里が聞いた。

■プロの洗礼を受けてもがいた昨季前半戦

中川 門脇選手は巨人軍で昨シーズンの終盤、花形のポジションであるショートに定着しました。それまで15年にわたってその位置にいた坂本勇人選手は、サードコンバートプレッシャーはありましたか?

門脇 プレッシャーは特になかったんですが、坂本さんがサード、自分がショートの位置で守るという最初の光景が忘れられないですね。「え、自分は本当にここでいいのか?」と。なんとも不思議な感覚でした。

中川 これまでは巨人のショートは、坂本選手の絶対的なポジションでしたからね。

門脇 はい。坂本さんとはポジショニングのこととか、けっこう試合中にも話をしたんです。夢のような時間でしたね。

中川 具体的にはどんなことをお話しされましたか?

門脇 「サードって、(投げるのは)捕ってからすぐのほうがいいの?」とか、「位置はこのへんでいいの?」とか聞かれて。何げない、ちょっとしたやりとりだったんですけど、それでも自分にとっては貴重な経験になりました。

中川 門脇選手は走攻守の三拍子がそろった逸材として創価大からドラフト4位で入団。昨年はルーキー野手で唯一開幕からベンチ入りを果たし、シーズンを完走しました。

門脇 キャンプから1軍入りは果たせましたが、全然思っていたよりもできなくて。試合に出られず、バッティングもメチャクチャでした。辛うじて、守備力を生かしてなんとか試合に出られるようになった――前半戦はそんな状態でしたね。

中川 もがき続けていたんですね。

門脇 ええ。でも、どんな悪い状況であっても、「考える」ことをやめなかったのがリーグ後半戦の伸びにつながったので、そこは一年を通じて大きな学びになりましたね。

読売ジャイアンツの門脇誠選手
読売ジャイアンツ門脇誠選手

中川 入団1年目ということで、大学時代とはまったく違う〝プロの洗礼〟もかなり受けたと思うのですが。

門脇 そうですね。まず、移動というのはけっこう疲れるものなんだと痛感させられました。大学時代はそれほど移動がなかったんです。ところがプロになって、移動してそのまますぐに試合とか、かなりハードなんだなと。4、5月あたりはそのしんどさが身にこたえました。加えて、天候ですね。暑さですとか。ただ、後半戦に入ると自分でもペースがつかめてきて。ルーティンというのは特につくらなかったんですが、環境面も含めて自分なりにイメージがしやすくなったので、だいぶなじめました。

中川 まったく新しい環境への順応は、非常に苦労しますよね。そんな状況でも、チームを救うプレーが徐々に出てきて、ショートに固定されるまではサードセカンドもこなしつつ、守備面で光るプレーを見せてくれました。その安定感というのは、どこに要因があると思いますか?

門脇 まだまだではありますが、あえて挙げるとすればどんなときでも丁寧にプレーするということでしょうか。それは大学時代からずっと心がけています。プロに入って周りを見渡せば、足の速いランナーはたくさんいますけど、それでも変わらず落ち着いてプレーすることは固守しています。毎球、肝に銘じていますね。

中川 プロに入ってから、ご自身で進化したと感じる部分はありますか?

門脇 スローイングが良くなってきたと思います。

中川 初めからいい印象でしたが、さらにそれ以上ですか。

門脇 はい。毎試合、試合前から練習をこなして、自分の状態を確認しつつ。自分でどのへんに投げたらこのへんにいく、という距離感もだいぶつかめるようになりました。結果、スローイングの安定性にもつながりましたね。

中川 バッティングに関してはいかがですか? 6月までは打率が1割台でしたが、7月あたりから急上昇、リーグ前半戦と後半戦では劇的な変化が見られました。

門脇 やはり、阿部(慎之助)監督と亀井(善行)コーチからの助言が大きかったです。「(打撃スタイルの)方向性を変えろ」と。それまではけっこう引っ張って、強引に打っていたんですが、センターから逆方向にと、大学時代のスタイルに戻すというか、変えたのがきっかけになりまして。そこからはさまざまな練習法を教えていただき、自分なりに消化していろいろ見えてきました。


中川 〝戻す〟というのは、原点回帰ということですか?

門脇 ええ。もともと、その点も評価していただいて入団したので。やっぱり自分の本来の持ち味を出さないとダメだなと。1年目で気づくことができて良かったです。

中川 センターから逆方向というと、球を呼び込むというか見る時間が長くなったことで、ご自身の中でしっくりきたという感じですか?

門脇 はい。自分のようなタイプは相手に球数を投げさせるとか、フォアボールとかも求められるので、バッティングのポイントを後ろに持ってくることによってプラス要素が増えます。それを続けようと思いました。

中川 昨年8月の月間打率は3割超え、9月にはサヨナラ打と、勝負強さも発揮していました。

門脇 いやぁ、もともと勝負強さという点には自信がなかったんです。事実、8月は状態が良くない時期もありましたし。でも、だんだんと「今日の試合はポイントだな」っていうのが自分の中でわかってきて。そこで結果を出せるようになったのは良かったかなと思います。

■万波選手から盗めるものは盗んだ

中川 門脇選手といえば、昨年11月に行なわれたアジアプロ野球チャンピオンシップ2023での活躍が印象的でした。ルーキーイヤーに侍ジャパンに初選出、しかも大会MVP受賞。振り返ってみていかがでしょうか?

門脇 いや、想像もつかなかったですね。ただ、初戦の1次リーグ台湾戦でしっかり初ヒットを打つことができて、猛打賞をマークできたので、そこでだいぶ自分のペースにもっていけたのかなと。

アジアプロ野球チャンピオンシップ2023、決勝の韓国戦で放ったサヨナラ安打は、シーズン中から意識していたセンターから逆方向へのバッティングだった(写真/日刊スポーツ/アフロ)
アジアプロ野球チャンピオンシップ2023、決勝の韓国戦で放ったサヨナラ安打は、シーズン中から意識していたセンターから逆方向へのバッティングだった(写真/日刊スポーツ/アフロ

中川 4試合すべてスタメン出場、試合ごとに結果も残しました。決勝の相手は韓国。大会で唯一ビハインドを背負うゲーム展開でしたが、ベンチにはそれまでと違った緊張感が漂っていたのではないですか?

門脇 ええ、ありました。リードされる展開がそれまでなかったですからね。負ける雰囲気は全然なかったんですけど、点を取らなきゃいけないっていう緊迫感はありました。

中川 門脇選手ご自身はどうでしたか? 初戦が終わってから、さほど緊張はなくなったとおっしゃっていましたが。

門脇 はい、緊張はなかったんですけど、なかなか結果に結びつかなくて。チャンスが3回回ってきて、いずれも打てなかったので。試合の入り方については反省でした。

中川 タイブレークの延長10回、2死満塁の場面。あの状況で打席に入るのはかなりの重圧だったのではないかと。場内も異様な熱気でした。

門脇 それは感じましたね。東京ドームが、23年で一番の観客動員数だと聞かされて。すごいなと。でも、実は坂倉(将吾・広島)選手がセンターフライを打ったとき、自分は勝ったと思い込んでしまって。全然、準備してなかったんですよ(笑)。

中川 1死満塁であと少しでホームランかという一打でしたからね。犠牲フライで三塁ランナーが戻ってきて、3-3の同点に。

門脇 ええ、それで、「やばい、もうすぐ俺じゃない?」と。慌ててバットにスプレーをかけて、走って行って。かなりテンパっていたんですが、井端(弘和)監督からは「いつもどおりでいけ」と、肩を叩かれて。そこで一回気持ちを落ち着かせて、バッターボックスに立ったんです。

中川 逆方向への見事なサヨナラ打でしたね。打った瞬間のことは記憶にありますか?

門脇 いやもう、シビれましたね(笑)。「まさか、打ったんだ」と。今まで、優勝がかかった大事な場面、ここ一番という局面で打ったこともなかったですし、優勝経験というのもなかったんです。......勝ち運を持っている選手っているじゃないですか、僕にはそれがないのかなって、ずっと思い続けてきたんで、あのような劇的な優勝を果たせたのは、今後の大きな財産になると思いました。

中川絵美里
中川絵美里

中川 財産という意味では、侍ジャパンキャンプで井端監督から指導も受けましたね。

門脇 そうですね、逆シングルでの受け方とか、すごく勉強になりました。

中川 他球団の選手たちと一緒に過ごす中で、ご自身の今後の血肉になるような新たな発見はありましたか?

門脇 ええ、万波中正(まんなみちゅうせい・日本ハム)選手がいろんなバットを使って、いろんな工夫を凝らして練習していたので、盗めるものは盗もうと。みんなそれぞれスタイルを持っているので、打っている姿を見ているだけでも勉強になりました。おかげさまで引き出しは増えたと思います。

中川 若手主体で編成されたチームでしたが、24年はプレミア12、そして26年にはWBCが控えています。侍ジャパンに対する思いは強まりましたか?

門脇 確かに選ばれたいとは思いますが、まずはジャイアンツでショートにレギュラーとして定着することが、現時点で最も必要なことだと考えています。しっかり成績を収めたところで、また侍ジャパンに選ばれたらいいですね。

■父親は身内じゃなく完璧なマネジャー

中川 こうしてお話を伺っていて、ヒーローインタビューでの受け答えなども含めて、昨年までルーキーとは思えないほどの落ち着きぶりに感服します。幼少期からずっとそうだったのでしょうか?

門脇 昔は元気いっぱいでうるさい子だったんですけどね。あ、今も元気か(笑)。高校時代に変わりましたね。

中川 何かきっかけが?

門脇 最初にも少しお話ししましたが、「考える」ようになったんです。高校球児なら、やはり甲子園を目指すわけで。出るためにはどういうチームをつくればいいのかと。主将を務めるようになってからは、ますます考える力がつくようになりました。

中川 それは野球のみならず、日常生活においてもですか?

門脇 はい。私生活もめっちゃ意識するようになりました。徹底すべきところは徹底する、といった具合に。

中川 その真摯(しんし)な姿勢のベースになっているのは、お父さまの存在もありますか? 幼少期から個性的な練習を施されたり、大学進学時にはお父さまが転職されて、門脇選手の体づくりを徹底サポートされたりしたそうで。まさに二人三脚ですね。

座右の銘は「初志貫徹」だという、門脇選手。取材当日も黙々と打撃練習をこなしていた。「高校時代は、大学に入ったら何をすべきか。大学時代はプロに入ったらどうすべきか、と常に目標を立てて、やり続けてきました。そのスタンスはこれからも変わらないです」
座右の銘は「初志貫徹」だという、門脇選手。取材当日も黙々と打撃練習をこなしていた。「高校時代は、大学に入ったら何をすべきか。大学時代はプロに入ったらどうすべきか、と常に目標を立てて、やり続けてきました。そのスタンスはこれからも変わらないです」

門脇 父親というよりも、個人マネジャーという存在ですね。僕がプロに入ってからはなおさらです。

中川 マネジャーというと、例えばどのような関わり方ですか?

門脇 入団当初、車を持ってなかったので、試合の移動日に送迎してもらったり。父も言うんですよ。「俺はマネジャーやから」と。シーズン中でしたら、移動の車中で野球に関することをいろいろ話したりして。僕がプロとしてやりやすい環境をつくってくれています。

中川 巨人、そして侍ジャパンでの活躍には、お父さまも目を細めていらっしゃるのではないですか?

門脇 「(活躍ぶりが)エグいな」とは言われましたけど別にホメてくれることもなく、当然でしょという反応でした。やたらと自信に満ちあふれている親なんですよ(笑)。僕は必死に応えるだけですね。

■ノートに書いた「このままやったら、おまえ終わるぞ」

中川 もうひとつ、門脇選手の真摯な姿勢を物語るエピソードとして、手帳に自分の思いをつづられているそうで。それは毎日欠かさずですか?

門脇 ええ、キャンプインから毎日書いていました。技術面の反省や課題だったり、それがないときは自分の胸中にある思いだったり。前半戦は後者のほうが多かったです。

中川 その思いというのは、具体的にはどんなことを?

門脇 うーん、重たい話ですけど、6月あたりは全然試合に出られなくて。練習にも身が入らず、どうしたらいいかわからなかった状態やったんで、思うがまま、自分に対して書き殴ったんです。「このままやったら、おまえ終わるぞ」と。シーズンが終わって読み返してみたら、ああ、自分はここまでがむしゃらにスイッチ入れてんねんなと。

中川 そうしたノートをつけて、自分を客観視していたのですね。どうしても好不調の波はあるわけですし、自分を見失わないためにも、そうやってアウトプットすることで気持ちを維持するというのは大事ですよね。

門脇 モチベーションというのはあえて、あまりつくらないようにしているんです。嫌々野球をやっているわけはないので。自分のやるべきことを明確にして、日々取り組む。それと、阿部監督の記事で見たんですけど、「不安に駆られろ」という言葉が胸に刺さって。不安になりすぎるのも良くないですが、不安にならないと行動には移せないので。父親を含め、周りの人たちにも支えられていることを忘れずに、今後も真っすぐ野球と向き合っていきたいですね。

■来季は打率、守備、盗塁すべてで結果を

中川 今年は阿部監督が門脇選手のレギュラー起用を明言、背番号も1桁(5番)になりますが、意気込みをお聞かせください。

門脇 テレビで阿部監督が僕のレギュラー起用を明言される場面を拝見しまして、さらに身が引き締まりました。ちょうど侍ジャパンに招集される直前でしたので、これは結果を出さないとダメだと思って、アジアプロ野球チャンピオンシップに臨んだんです。そこでも一定の成果を上げられたから、来シーズンはまず、全試合に出場すること。そして、守備も盗塁も打率もすべてにおいて結果を出したいです。全部いきましょうという感じです。

中川 具体的に目標としている数字、タイトルはありますか?

門脇 出塁率4割強、その結果で打率は3割、盗塁は20~30個走りたいですね。タイトルはゴールデン・グラブ賞を狙いたいです。

中川 なんといっても出塁率が第一だと。

門脇 そうですね、そこがリーグで1番、2番になったら、チームの優勝にしっかり貢献できると思いますので。

■坂本勇人選手に負けないくらい、オーラのある主力選手になる

中川 オフのイベントで、将来的には巨人の主将にも挑戦したいとおっしゃっていましたが、ご自身の中でどんな選手像を思い描いていますか?

門脇 最初の頃は、脇役としてチームにずっとい続けていられる選手でいたいと思っていたんです。前半戦は代走や代打、守備固めで投入されることが多かったですから。でも後半戦に入って、途中出場も含めて試合にすべて出られるようになってからは、主役とはいかないまでも、主力選手になりたいと思うようになりました。高校、大学と、ずっと出続けていましたし、やっぱり選手は試合に出てこそ、じゃないかと。

中川 巨人のショート、しかもレギュラーが確約されているわけですしね。

門脇 ええ、やっぱりショートは華があります。坂本さんのオーラに負けないぐらいのオーラを放てる選手になりたいです。

中川 ずばり、スター選手を目指すということですね。そういえば、ご自身のグラブに、〝スーパースター〟という刺繍(ししゅう)を施されているそうで。

門脇 はい、でも、周りからめっちゃいじられて(苦笑)。恥ずかしくて、外してしまったんですが......。でも、それぐらいの気持ちを込めないといけないですね。もう一回、入れ直しましょうかね。

●門脇 誠(かどわき・まこと 
2001年1月24日生まれ、奈良県出身。走攻守をハイレベルで兼ね備えた遊撃手創価大学では1年春からレギュラーに定着、秋季リーグ戦では2度首位打者に。22年、ドラフト4位で巨人に入団。ルーキーイヤーとなる23年は前半戦こそ芳しくなかったが、後半戦は粘り強さを見せ、幾度も殊勲打を放った。アマ時代からケガをせずフル出場してきたことから、原辰徳前監督に「ストロング門脇」と命名された

●中川絵美里(なかがわ・えみり)
1995年3月17日生まれ、静岡県出身。フリーキャスター。『Jリーグタイム』(NHK BS1)キャスター、FIFAワールドカップカタール2022のABEMAスタジオ進行を歴任。2023WBC日本代表戦全試合、アジアプロ野球チャンピオンシップ2023を中継したPrime VideoではMCを務めた。現在『情報7daysニュースキャスター』(TBS系、毎週土曜22:00~)の天気キャスターを務める。TOKYO FM『THE TRAD』の毎週水、木曜のアシスタント、同『DIG GIG TOKYO!』(毎週土曜26:30~)のメインパーソナリティを担当

スタイリング/武久真理江(中川) ヘア&メイク/川上優香(中川) 衣装協力/jesh Ruimeme W&M novice

取材/中川絵美里 撮影/熊谷 貫 文・構成/高橋史門

門脇誠選手(左)と中川絵美里(右)