■八面六臂の活躍を見せる俳優、吉沢亮

【写真を見る】「仮面ライダーフォーゼ」から『キングダム』まで!俳優、吉沢亮の快進撃を振り返る

2月1日の誕生日で30歳となり、6月にはデビュー15周年を迎える吉沢亮。大きな節目となる2024年には、主演映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の公開が控えている。作家、エッセイストとして活躍する五十嵐大の実録ノンフィクション「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」の映画化で、『そこのみにて光輝く』(14)の呉美保監督とタッグを組み、耳のきこえない母のもとにコーダとして生まれた、聞こえる息子の葛藤を体現する。

美形でありながら容姿に頼ることなく、10代のころから着々と演技力を蓄えてきた吉沢。主役だけでなく脇役にも定評があり、メッセージ性の強いシリアスな映画にも出演すれば、コメディやアクションといったエンタテインメント作品でも実力を発揮し、八面六臂の活躍を見せる。その最たる作品が山崎賢人主演で人気コミックを映画化した「キングダム」シリーズだろう。戦災孤児の主人公、信(山崎)の幼なじみで親友の漂と、彼が影武者になる王の嬴政。境遇が違いながら、瓜二つである2人を1人で演じ分け、『キングダム2 遥かなる大地へ』(22)では嬴政の9歳時(!)のエピソードも担い、「1人3役」と話題を呼んだ。もちろん華麗なアクションも見どころ。7月にはいよいよ、シリーズ第4作『キングダム 大将軍の帰還』が公開される。

■ミステリアスな美少年から3枚目キャラ、そしてシリアスな役まで…演技力の幅を見せつける

熱血漢の主人公を支えるクールでミステリアスな美少年こそ、吉沢亮が最も輝くポジション。その始まりは、出世作である特撮ドラマ「仮面ライダーフォーゼ」の仮面ライダーメテオ朔田流星役まで遡る。底抜けに明るい主人公、仮面ライダーフォーゼ如月弦太朗役の福士蒼汰とは対照的に吉沢はなかなか周囲になじめない編入生として登場した。中盤からのお目見えながら、女性層は見逃さなかった。朔田はジークンドーの使い手でもあったため、吉沢はここで徹底的にアクションの基礎を育てる。人気コミックを実写映画化した『BLEACH』(18)では福士と「フォーゼ」以来、6年ぶりに共演。陰と陽、当時を思い起こさせる2人が力を合わせて闘う姿に多くのファンが震えた。

フォーゼ」後の福士が「あまちゃん」を機に一気にブレイク、主演俳優の道を驀進するのを横目に、吉沢はその後、地道に力をつけていく。少女漫画が原作のキラキラしたラブストーリーではあえて主演の二枚目ではなく、ヒロインに片想いする友人の1人などを演じていた。『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(13)ではヒロインの理子(大原櫻子)に密かに思いを寄せる幼なじみを演じ、佐藤健扮する主人公をライバル視。『アオハライド』(14)では珍しく、明るい同級生役。『オオカミ少女と黒王子』(16)に至っては、クラスで一番地味な男の子がメガネを外したら超絶イケメンという、彼にしか演じられない役回りで注目を集めた。

吉沢にとって、メガネは武器の一つ。よすぎる顔立ちをメガネカモフラージュしないと周りとのバランスが取れないとの噂もあるほど。メガネをかけた吉沢は三枚目役もこなす。『一度死んでみた』(20)、「クレイジークルーズ」ではオーラを消し、周囲に振り回される生真面目なキャラクターに大変身。見るからに美形ドS王子の彼が、追い詰められるM男子を嬉々として演じ、役者としての幅の広さを見せつけた。

さらにコメディの鬼才、福田雄一監督の常連=福田組にも名を連ねており、「銀魂」シリーズ、『斉木楠雄のΨ難(17)、『ブラックナイトパレード』(22)では、他作品ではなかなかお目にかかれない表情やアドリブの攻めた演技を見せる。特に原作ファンでもあった吉沢が完成披露試写会で「役者人生一番のはまり役」と自ら話したのが、『斉木楠雄のΨ難』のアクの強い海藤瞬役。中二病をこじらせた海藤に全力でなりきり、爆笑をさらった。

じわじわ評価されていた吉沢亮の才能が一気に開花するのが2018年。この年、『ママレード・ボーイ』、『あのコの、トリコ。』などで主演を務めた吉沢はCMにも多数起用され、初めての映画賞であるTAMA映画賞最優秀新進男優賞、さらにはヨコハマ映画祭最優秀新人賞にも輝く。賞の対象にもなった一作『リバーズ・エッジ』(18)は第68回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞。吉沢自身も日本アカデミー賞新人俳優賞を獲得している。空虚な毎日を送る、90年代ティーンエイジャーの群像劇。容姿端麗で周囲の女子が放っておかないものの実際はゲイで、いじめられている山田に吉沢が憑依。外見の華やかさと見合わない内面の寂寥感を漂わせた物腰に山田の姿が重なり、原作ファンをも唸らせた。

■原作ファンも大満足!人気キャラを完璧なまでに再現

少女コミック原作のラブストーリーでもイメージを裏切らない完璧なルックス。少年コミック原作のアクションを再現できる高い身体能力。彼の魅力を存分に味わえるのが、男女共に絶大な支持を集める「銀魂」、「キングダム」、「東京リベンジャーズ」といった超人気原作の実写映画シリーズといえる。江戸の治安を守る、どこから見てもイケメンの真選組一番隊隊長、沖田総悟。中華の統一という果てしない野望を抱く秦国の若き王、嬴政。鬼のような強さを誇る「東京卍會」の総長マイキー。どの作品でも抜群のカリスマ性で人をまとめ上げる、周囲が畏怖する役どころが板についている。

自らをインドア派、暗い人間と自己分析する吉沢だが、誰よりも研究熱心で、趣味が漫画というほど原作への愛が深い。役柄の負の感情にも厭わず寄り添い、彼が演じることで、悲しみや憎しみ、怒り…様々な感情がないまぜになったキャラクターの複雑なバックグラウンドを感じずにはいられない。原作をなぞるのではなく、より味わい深く堪能させる表現力こそ吉沢の強み。突き進むヒーローを生かす、影の主役、裏の主役。いるだけで作品の厚みは格段に変わってくる。「仮面ライダーフォーゼ」以来、築いてきた道はいつしか”無敵”になっていた。

■そして平成生まれ初の大河ドラマ主演俳優に大抜擢

いい意味で裏切られたのが大河ドラマ「青天を衝け」だ。幕末から明治という時代の変遷に翻弄されながら、高い志で未来を切り拓いていく渋沢栄一に扮した。歴代の大河主演俳優と比べ、若すぎるという不安の声もあったが、蓋を開けてみると、”近代史は当たらない”とされる大河ドラマで安定した視聴率を保持。この作品で吉沢はさらなる高みへと駆け上る。新一万円札の顔として知られる渋沢栄一との見た目の差はもとより、栄一はこれまで吉沢が演じてきた役と違い、転んでも立ち上がる、泥臭いほどにまっすぐな主人公。方言丸出しの人間らしい栄一をのびのびと演じる吉沢の姿に、多くの人が魅了された。

下手をすれば、親しみやすさを抱かれにくい、整いすぎたビジュアルも彼にとってはもはや個性の一つ。振り返ると、出演作の数も、高まりすぎる期待へのプレッシャーや重責も尋常ではなかったろう20代の吉沢。自分を追い込む作品をあえて選ぶ姿勢に毎回、驚かされてきた。果たして、30代ではどんな挑戦が待っているのか。今後もますます目が離せない。

文/高山亜紀

山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

『キングダム』では「1人2役」を見事に演じ分けた/[c]原泰久/集英社 [c]2019 映画「キングダム」製作委員会