2020年公開の初出演映画『MOTHER マザー』で数々の新人男優賞を受賞。昨年は映画『君は放課後インソムニア』やドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』など話題作の出演が続く奥平大兼さん(20歳)。



 ディズニープラス「スター」で独占配信中のドラマ『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』で、中島セナさんとともにW主演を務める奥平さんにインタビュー。


 初めての経験が多かった本作で「役作りの大切さ」を学んだという奥平さんに、本格的なアクションに挑戦して得たもの、共演した新田真剣佑さんの印象など撮影エピソードに加えて、最近友達からプレゼントされたレコードのお話しなどを伺いました。


◆異世界からやって来た落ちこぼれのドラゴン乗り



――ドラマ『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』は実写とアニメで2つの世界を描く作品ですが、初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。


奥平大兼さん(以下、奥平):正直、文字だけではビジュアルが想像しにくくて、ストーリーも分からないことが多かったです。普段、あまり役作りをしないほうなんですが、僕が演じるタイムを理解しないとリアリティに欠けてしまうと思いました。そのために監督やプロデューサーさんに、タイムがいた異世界「ウーパナンタ」について詳しくお聞きして、脚本を読みこみました。


――竜が空を飛ぶウーパナンタで“ドラゴン乗り”として奮闘するタイムは、周囲から落ちこぼれ扱いをされていますが、現実世界に飛ばされると、様々な事態に勇敢に立ち向かいます。


奥平:タイムは純粋で、人を区別することなく、誰とでも同じように接する魅力的な子です。ドラマでは現実世界にいる時間が長いですけど、実際は15年間、ウーパナンタで生きてきた過去があります。現実世界だと常識のないタイムを演じるのは難しかったんですが、ドラマの撮影期間が4か月あったので、監督と密に話し合いながら、ゆっくりと時間をかけて役作りができたので、徐々に理解が深まっていきました。


◆見習うべきところはたくさんあった



ディズニープラス「スター」独占配信中『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』 (C)2024 Disney



――タイムに共感するところはありましたか。


奥平:それが現実世界にはいない子なので、全く共感するところがなかったです(笑)。見習うべきところはたくさんありましたけどね。


――見習うべきところというと?


奥平:異世界でも現実世界でも、分け隔てなく優しさをぶつけられるところと、決して諦めないところです。どちらも言うのは簡単ですけど、実際にやるのは難しいことで、それを意識せずに行動するタイムは、腹が立つほどかっこいいですね(笑)。時には純粋過ぎて、疑うことを知らないので、心配にもなるんですが、そこが魅力でもあります。


◆存在しない独自の言語に苦戦



――ウーパナンタでは現実に存在しない独自の言語で会話をしますが、そこの苦労も大きかったのではないでしょうか。


奥平:このドラマのために、中野智宏さんがウーパナンタ語を作ってくださったんですが、その言葉をタイムは15年間ずっと喋ってきたわけです。だからスラスラ喋れないとおかしい。でも日本人がしないような発音もありますし、英語と違ってお手本もないから、何が正解なのかも分からないという、不思議な感覚でした。ただ、中野先生が「ちょっとでも違ったら、お芝居が良くてもやり直しさせていただきます」と仰ってくれたので、妥協せずに取り組むことができました。


撮影が進むにつれて、「ここのセリフは日本語で書いてありますけど、ウーパナンタ語で話していいですか?」と自分で判断して提案することも多くなったので、タイムという役を積み重ねることができているなと実感できました。


◆アニメの声優にも初挑戦



ディズニープラス「スター」独占配信中『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』 (C)2024 Disney



――アニメパートは、声だけのお芝居になりますが、実写パートと合わせる難しさはなかったですか。


奥平:実写パートの後に、アニメパートのアフレコがあったので、そこまで戸惑うことはなかったです。これが逆だと、難しかったかもしれないですね。アニメチームの方々が、実写の僕を見てから制作してくれたので、すごく上手に描いてくれて。声優をやること自体は凄く難しかったですけど、実写とアニメのタイムを繋げることに関してはスムーズにできました。


ダイナミックなアクションシーンも挑戦



――本作はアクションシーンも大きな見所です。


奥平:本格的なアクションをやるのは今回が初めてだったんですが、(新田)真剣佑さんと一緒にやらせていただいて。もちろん大変なこともありましたけど、すごく楽しかったです!


――特に大変なアクションは何でしたか?


奥平:タイムの主な武器は弓なんですけど、かなり大きな弓でした。その弓を持ってアクションするのが、とにかく大変で。たとえば転がるシーンだと、弓を守りながら動かなきゃいけないんですが、ちゃんとかっこよく見えないといけない。普段のお芝居では、あまり見え方って意識しないんですけど、アクションでは見え方が大事なんだなって痛感しました。真剣佑さんは見せ方が上手だし、当たり前ですけどアクションも「さすが」の一言。そんな方と一緒にアクションができて、めちゃくちゃ勉強になりました。


◆新田真剣佑からのアドバイス



ディズニープラス「スター」独占配信中『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』 (C)2024 Disney



――新田真剣佑さんから、具体的なアドバイスなどはあったんですか?


奥平:直接、口で言うわけではないんですが、僕がやりやすいように動いてくださるのが伝わってくるんです。それって周りの人から見ても分からないと思うんですけど、目の前で一緒にアクションをやっているからこそ分かることでした。


――休憩中に、新田真剣佑さんとどんなコミュニケーションを取っていましたか。


奥平:お互いにゲームが好きなので、それをきっかけにお話しするようになって、お兄ちゃんというよりは、1~2個上の学校の先輩みたいな感じで気を許せる方でした。


◆同世代俳優たちとの交流



ディズニープラス「スター」独占配信中『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』 (C)2024 Disney



――ナギを演じた中島セナさんの、印象はいかがでしたか?


奥平:映像作品を見ていて、たくさんの役者さんが出演している中で、どうしても目が行く役者さんっているじゃないですか。その力を持っているのがセナさんですね。それってお芝居の上手下手ではなく、生まれつき本人が持っている魅力だから、大切にしてほしいですし、セナさんの強みだなって思います。


あと、しっかりしていますね。ナギの親友・ソンを演じたエマくん(エマニエル由人)くんと3人で一緒にいることが多くて。一見するとセナさんってクールな印象ですけど、僕とエマくんがふざけていると、そのノリに合わせてくれるんです。でも3人の中で一番年下のセナさんが、一番大人でした(笑)。


◆20歳を迎えて



ディズニープラス「スター」独占配信中『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』 (C)2024 Disney



――年齢のお話しで言うと、奥平さんは昨年20歳になりましたが、何か変化はありましたか?


奥平:大人になったことによって、いろんな責任が生じてくるから、考えることが多くなった気がしますね。今回のドラマもそうですが、大きな作品で主演を任せていただけるのは、嬉しいことですけど、責任も伴ってきますし、生半可な気持ちではやれません。ただ一方で無理に大人にならなくてもいいのかなと。童心というか、はしゃぐ気持ちも持っていていいんじゃないかって思います。だからエマくんともはしゃいでいたんですが(笑)。


◆役作りの大切さを、身を持って分かった



ディズニープラス「スター」独占配信中『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』 (C)2024 Disney



――今回のドラマのように規模が大きい作品に出て、新たな発見はありましたか。


奥平:スタッフさんの数も多かったですし、セットの規模もすごくて、撮影に使っていたクレーンも今まで見た中で最大でした。中でもすごいなと思ったのは、衣装の完成度です。何度も衣装合わせに行かせていただいたので、一から作る過程を見ることができて。「こういうふうにしてほしい」という監督のリクエストに対して、ちゃんと衣装さんは次に答えを出してくる。衣装一つに、ここまでこだわれるのって、なかなか普段のドラマや映画の現場ではできないことなので、ディズニープラスのすごさを感じました。撮影期間が4カ月間、準備期間も含めると半年間ぐらい。長期に渡って作品に関われたことで、タイムに没頭できたのも、なかなかできない貴重な経験でした。


――最初に「あまり役作りをしない」というお話がありましたが、そこの意識にも変化はありましたか。


奥平:僕のキャリアでは、まだ役作りの正解は出ていないんですが、タイムを演じるにあたって、ちゃんと役作りをしていったおかげで、できるお芝居もあったし、タイムのことが理解できる感覚もありました。役を通して自分も成長できるのが面白かったですし、役作りの大切さを、身を持って分かったのは今回が初めてのことです。


その一方で、今も現場での感覚を大事にしたい気持ちは強いので、そこの両立を上手いことできればなと思います。簡単にできたら苦労しないんですけど、いろんなことを試している途中なので、そんなときに今回の作品に出会えて、良いきっかけになりました。


クラシック好き



――最後にプライベートについてお聞きしたいんですが、昨年5月に別媒体でお話を伺ったときに、レコードプレイヤーを買って、キング・クリムゾンのライブアルバムを入手したというお話をしていました。最近、新しくレコードは購入しましたか?


奥平:自分で買ったわけではないのですが、久石譲さんがジブリの曲をロイヤルフィルハーモニー管弦楽団と一緒に録音した『A Symphonic Celebration – Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki』を、友達からプレゼントしてもらいました。もともとクラシックも好きなので、すごく良かったですね。


キング・クリムゾンに関してはレコード購入当時、サブスクに入っていなかったんですけど、後でストリーミング配信が始まっちゃったんです。もちろんレコードで聴く良さもありますが、やっぱりサブスクで聴くほうが手軽で……。だから、うれしくもあり、悲しくもありな出来事でした(笑)。
<取材・文/猪口貴裕 撮影/武田敏将>


【猪口貴裕】出版社勤務を経て、フリーの編集・ライターに。雑誌・WEB媒体で、映画・ドラマ・音楽・声優・お笑いなどのインタビュー記事を中心に執筆。芸能・エンタメ系のサイトやアイドル誌の編集も務める