高級食パンの次は、から揚げ



から揚げ専門店が閉店ラッシュ。いったいなぜ?



 こんにちは、食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。


 毎年さまざまな食べ物がブームとなり行列グルメを生み出しますが、そのうちの多くが終焉を迎えています。わかりやすいのが高級食パンで、今では話題の専門店を探すのが一苦労。


 そして次に苦境に立たされているのが、から揚げ専門店のようです。2023年1~11月の倒産件数は過去最大の22件(※帝国データバンク倒産集計より)で、今後もより多くのお店が淘汰されると予測されています。いったい、どうしてなのでしょうか?


 結論から申し上げると、理由は原料高騰や競争激化以上の理由があると私は考えます。そこで今回は、食文化研究家やスーパーマーケット研究家の立場から、から揚げ専門店閉店ラッシュの理由をあげながら、“本当に愛されるから揚げに必要な条件”について考えてみたいと思います。


から揚げ専門店はマクドナルドよりも多い



から揚げブームの火付け役は、日本唐揚協会に他なりません



 現在から揚げ専門店は全国で4000店を超えています。


 この数、コロナ禍に急増した影響も強く、実は日本のマクドナルドの店舗数(約3000店)よりもはるかに多い数値。ちなみにケンタッキーフライドチキンの店舗数は約1200店ですから、明らかに過剰な数値であることがわかります。


 ここ数年で店舗数が急増したことにより、競争に負けた店が閉店に追い込まれるニュースが目立つ状況になっていますが、から揚げ業界をじっくり観察していくと、勝ち組が存在することもわかります。


から揚げ業界は、ラーメン業界に似ている



らんまん食堂恵比寿店は、フライドチキンレモンサワーの店



 例えば、東京を拠点に店舗数をじわじわ広げている「らんまん食堂」。店舗によってフライドチキンタイ料理などテイストを変えたり、たっぷりの野菜と一緒に食べるというシーン提案も巧妙で、上手に年輪を重ねている名店です。


 つまり単に美味しいから揚げを作り続けているだけでは勝てない環境になり、変化や成長が求められる厳しい戦国時代に。から揚げ同様に国民食として愛されるラーメン業界と構図が似ているといっても過言ではありません。


スーパーマーケットから揚げが脅威に



スーパーマーケットから揚げは、各店がしのぎを削る看板メニューになっています



 そしてもう一つ、スーパーマーケット研究家の立場から声を大にして言いたいのが、スーパーマーケットから揚げがどんどんおいしくなっていることです。


 心に残るおいしい漬けダレを徹底的に研究し、揚げ方や他総菜との組み合わせにもこだわりを発揮しています。


 一般社団法人全国スーパーマーケット協会が取材するお弁当・お惣菜大賞2024の受賞を見ていくと、「函館風!白・黒の旨みザンギ」(スーパーアークス)、「若鶏から揚げシークワーサー風味」(タウンプラザかねひで)と、ハイレベルな商品が登場しています。


 もともと来店頻度が高く、専門店に比べてから揚げの価格が圧倒的に安いことに加えて、品質向上や多様化が加われば、スーパーが大いなる脅威になることは間違いありません。


唐揚げが、行列グルメになり切れない最大の理由とは?



いまだに行列を作っている「アイムドーナツ?(I’m donut ?)」。から揚げとドーナツは何が違うのでしょうか?



 次に、から揚げが行列必至の繁盛店になり切れない理由を考えてみました。


 これは2022年3月東京・中目黒にオープンし、いまだに行列の絶えないドーナツ専門店「アイムドーナツ?(I’m donut ?)」と比較してみると、大きな違いを発見することができます。


 同店は、従来のドーナツとは食べ心地が大きく違う「生ドーナツ」を看板商品にしながら、身近なオヤツとしてのドーナツをオシャレスイーツに大変身。また、B級感のない本格的な味わいは、お店に並ばなければなかなか手に入れることができません。


 一方から揚げは、プラスチック製のパックに爪楊枝割り箸が添えられるようなカジュアルな世界。行列グルメを作る上で重要な鍵を握るスイーツ好きの女性が憧れる特別感とはやや異なります。


 そうです、最近のトレンドフードには女性の心をつかむことも重要なのです。


◆家庭の揚げたてが永遠の憧れ!?



我が家のから揚げ。揚げたてはやっぱり最高です



 最後に、から揚げの理想形について思いを馳せてみましょう。おいしいから揚げの条件として、“揚げたて”の魅力というのはもはや鉄板でしょう。


 ではその次元をはるかに超えた、お母さんやお父さんの味。おばあちゃんでもいいかもしれません。「家族の誰かが丹精込めて作ったから揚げ」をイメージしてみてください。


 家庭料理が最高! なんでも手作りが正解! など偉そうに言うつもりはまったくありません。家庭の味に対するあこがれの強弱は人によってさまざまであり、他人に押し付ける価値観ではないと思うからです。


 しかしながら家庭のから揚げは、その人の心の中で市販モノとは比較できない存在として温められている可能性があります。もしかすると理想のから揚げは、プロの味ではない場合も……。


 専門店のから揚げの成功のヒントは、家庭の味とは一線を画し、お客にとって頻繁に頼りたくなる2番の座をねらうことなのかもしれません。今後もから揚げ業界の進化から目が離せません。


<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>


【スギアカツキ】食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12