『ダム・マネー ウォール街を狙え!』(2月2日公開)




 コロナ禍の2020年、米マサチューセッツ州の会社員キース・ギル(ポール・ダノ)は、全財産の5万ドルを、実店舗でゲームソフトを販売する「ゲームストップ社」の株につぎ込んでいた。

同社は、もはや時代遅れで倒産間近とうわさされていたが、キースは「ローリング・キティ」という名で動画を配信し、同社の株が過小評価されているとネット掲示板で訴え続けた。

 すると、彼の主張に共感した市井の個人投資家たちがゲームストップ社の株を買い始め、翌年初頭に株価は大暴騰し、同社を空売りしてひともうけを狙っていた大富豪たちは大きな損失をこうむった。この事件は連日メディアをにぎわせ、キースは一躍時の人となるが…。

 社会現象となった「ゲームストップ株騒動」にまつわる実話を映画化。ベン・メズリックのノンフィクションを基にクレイグ・ギレスピーが監督し、事件の内幕を描く。

ピート・デビッドソン、ビンセント・ドノフリオ、アメリカ・フェレーラ、シャイリーンウッドリー、デイン・デハーン、セス・ローゲンらが共演。

 まず、2020年9月から翌年の2月までに起こった出来事を、すぐさま映画化してしまうという素早さには恐れ入ったが、株取引の世界は複雑で難解なので、例えば『ウルフ・オブ・ウォールストリート(13)や『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15)のように、どうしても説明が多くなり、その分テンポも悪くなる。株取引はドラマチックなので映画向きかと思われるが、実は映画にはしにくい題材だと思う。

 ところが、この映画は、コロナ禍という特殊な状況下、情報のやり取りはネットの掲示板やSNS、株取引はパソコンやスマホで行うという現状を見せながら、主人公のギルを中心に、実際に株の売買に参加していた女子大生看護師、ゲームストップの実店舗に勤める従業員といった市井の人々と投資家たちの動静を並行させ、テンポよく描いている。

 それ故、庶民(個人)対富豪の闘いという図式が分かりやすく示され、しかも留飲が下がる逆転劇でもあるので、投資や株のことがあまり分からなくても楽しめる映画になっている。株取引を扱った映画にしては、よく整理されているという印象を受けた。ギルを演じたダノの怪演も光る。

神さま待って!お花が咲くから』(2月2日公開)




 小児がんで幼い頃から入退院を繰り返してきた11歳の少女・森上翔華(新倉聖菜)は、主治医の脇坂(北原里英)の許しを得て、6年生の1学期から再び学校へ通うことに。

 ところが、翔華が目にしたのは、まとまらないクラスと自信を失った気弱な担任教師(秋本帆華)の姿だった。奇跡を信じる翔華は、周囲の人々を笑顔に変えていくことを決意。そんな彼女の存在は、次第に人々の心に変化をもたらしていく。

 広島県の福山を舞台に、小児がんを患いながらも、12年の生涯を明るく生き、絵本『そらまめかぞくのピクニック』を残した実在の少女のエピソードを基に描く。

 オーディションで選ばれた新倉が映画初出演で主役を務め、翔華の両親を布川敏和と渡辺梓、小学校の校長を高畑淳子、入院患者を曽我廼家寛太郎、病院に現れる謎の女性を竹下景子が演じる。監督は『天心』(13)『ある町の高い煙突』(19)と“実録もの”を撮った松村克弥。今回も形は違うが実録ものだ。

 子どもを主人公にしたいわゆる“難病もの”は数多く作られており、見ていてつらくなるのは必定。この映画も主人公の翔華が明るくポジティブに振る舞い、新倉も好演を見せるので、余計けなげに見えてやるせない思いがしたが、よくある“お涙ちょうだい物”にはしなかった点に好感を持った。

 製作意図としては、翔華が周囲に与えた影響を通して、彼女がまいた種が実る様子や、彼女は確かに生きたという証しを描きたかったのだろう。その点では、実話ではないが、ジョン・タートルトーブ監督、ジョン・トラボルタ主演の『フェノミナン』(96)と重なるところがあると感じた。

田中雄二

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