住宅購入当時、ローン利用の際に金利が上がるかもしれないと、35年間の固定金利を選んだものの、低金利が続く状態のなか、変動金利に借り換えを検討する人も少なくありません。しかし、年収は十分、返済の延滞がない人であってもローンの審査に通らないこともあるようで……。本記事では、FP事務所・夢咲き案内人オカエリ代表の伊藤江里子氏が、住宅ローン借り換えにおける注意点について解説します。

妻の管理で家計は健全、円満な家庭で夫の唯一の不満は…

Jさん 47歳男性 上場企業勤務の会社員 年収1,000万円

妻 44歳 人材系企業勤務の会社員 年収400万円

子ども 長男(私立高校3年生)、次男(公立中学3年生)

Jさんは、主要都市に住む会社員。15年前に新築戸建てを4,000万円の住宅ローン・全期間固定金利(3.08%)を利用して購入しました。妻は、子どもの教育費を計画的に準備するため、定期的に保険の見直しや住宅ローンの繰り上げ返済も行う、どちらかと言えば倹約家タイプで、次男が小学校に入学してから再就職し収入も得ています。

倹約家タイプとはいえ、食生活もそれなりに充実していて家族でたまに外食したり旅行の機会もあるので、Jさんは妻のおかげと高く評価していました。ただ「お小遣いをもう少しだけでいいから増やして欲しい」ということを除いては……。

周りと比べて少ない小遣いがさらに減額に

もともとJさんは、物欲やこだわりもなく、お小遣いの使い道は「スポーツジム」と「飲み代」。飲みに行く場所もチェーンの居酒屋なので使う金額もさほどかかりません。PTA行事のあとのお父さん同士の打ち上げ、スポーツジム仲間など会社外での人付き合いがよく、「誘われたら断らない」「2次会、3次会など最後までつきあう」タイプだったのです。

コロナ渦でJさんが飲みに行く機会も減り、長男が私立高校に入学が決まった際、次男も中学に入学し塾代・部活動にお金もかかるということで、もともと月々3万円だったJさんのお小遣いを、2万5,000円に減らすことになりました。

コロナ渦から徐々にもとの生活にもどって…

Jさんは妻の提案を一旦受け入れましたが、徐々にコロナの制限がない生活になると、以前のように「お誘い」も増えてきました。

コロナ渦で貯めたヘソクリがなくなり、お金が少し足りない。「あと1万円増やして」と、妻に言えない。そこで、Jさんが考えたのが、カードローンで1万円借りることでした。金融機関によっては一定期間無利息といった特典があり、スマホで簡単に申し込めて審査も速い。

その後も「無利息期間」だけ、と1万円程度を何度か借り、給与振込とは別の「経費立替金精算口座」に入金されたお金から返済したり、別の金融機関で無利息のあいだだけ借りて返済するなど上手くやりくりしていました。

銀行や消費者金融のカードローンは6社、借入残高の合計は多くても5~6万円。Jさんは、利息も払っていないし借金だという感覚もありませんでした。

住宅ローンの見直しがきっかけで、秘密の借金が発覚

住宅購入当時、ローン利用の際は金利が上がるかもしれないのが不安で、借入期間35年間変わらない固定金利を選びました。しかし低金利状態も続いているので、ようやく変動金利に借り換えを検討することにしました。ネットで銀行の借り換え審査を申し込んだのですが、その結果は、意外にも否決という結果。

Jさんが問い合わせても「当行の審査基準による総合判断の結果ですので、あいにくですが、対応できません」と理由は教えてくれませんでしたが、担当者とのやりとりから「心当たり」を感じました。複数のカードローンの利用ではないか……と。

収入もあり、これまで住宅ローンの延滞もないので不審がる妻に、Jさんは、正直に話しました。妻も驚きましたが、借入残高も数万円程度で、利用目的も仲間との飲み代だと知ってホッとしたのか、話し合ってJさんのお小遣いの金額についても見直すことになりました。

もちろん、すべてのカードローンの借り入れを精算し、利用解約の手続きも済ませています。Jさん夫婦は、再度別の金融機関での借り換えが可能かどうかチャレンジする予定です。

家族構成別、サラリーマンのお小遣い事情と教育費

新生銀行の「2023年会社員のお小遣い調査」によると、お小遣い(1ヵ月)の平均金額は、男性全体で4万557円ですが、「中高生のみがいる世帯」と「中高生と大学生がいる世帯」は、2万6,370円~2万7,776円と全体と比べて65~68%も少ない金額となっています。

中高生以上の子どもがいる年代となると、年収は高い40~50歳代が多いと考えられるにも関わらず、このようにお小遣いの金額が少ないことから教育費の負担が大きいことが想像できます。

そして同調査で、この1年でお小遣いがダウンした方の理由は次のとおりでした。

1位 給料が減ったから 2位 生活費(携帯代、光熱費など)にかかるお金が増えたから 3位 子供の教育費がかかるようになったから、子どもの教育費が増えたから

多くの家庭で、教育費をしっかり確保したいと考えていることがわかります。

「学年別の教育費」を見ても、小学校が私立の場合を除いて、兄弟姉妹が「中学生と高校生」「中学生・高校生・大学生」という時期は教育費がかかります。

「カードローン」とは、銀行や消費者金融が個人向けに提供しているサービスで、銀行のキャッシュカードやローン専用のカードを使って、契約時に決められた限度額の範囲内で借り入れができます。いったんカードローンを契約すると、場所や時間を問わず借りられ、返済も自由なので1日しか借りなければ1日分の利息だけで済みます。

金利は、住宅・自動車購入資金や教育資金のためなど使途を定めたローンに比べて高く設定されていますが、借り入れする金融機関によっては、1週間までなら無利息。契約してから一定期間(30~180日)は無利息というところもあります。

また、金融庁委託調査「貸金業利用者に関する調査・研究 <調査結果>」(2019年3月29日)によると、サンプル調査ですが20~70代で約6割の人が「クレジットカード会社のキャッシング・カードローン」「消費者金融からの借入れ」を利用したことがあるという結果でした。

借り入れ理由も「生活費の不足を補う」「欲しいものがあるがお金が足りない」が約69.4%と最も多く、クレジット会社や消費者金融のカードローン利用申込では資金使途を聞かれることもありませんし、審査も速く、スマホで簡単に手続きできる手軽さから、ちょっとしたお金を借りるために利用されていると思われます。

ライフイベントとマネープラン、夫婦でしっかり共有しよう

今回のJさんは、妻も承知の間柄の人たちと飲みに行くためのお金で、かつ少額だったので夫婦間では大事になりませんでした。しかし、仮にギャンブルのためもっと多くの金額を家族に内緒で借り入れをしていたとなると大きな問題に発展していたはずです。

カードローン・キャッシングは資金使途を聞かずに手軽に借りられる分、金利も高く設定されていて、住宅ローンや教育ローン、車のローンなど目的がある借り入れとは異なります。金融機関によって、審査基準はさまざまですが、遊行費でもなににでも使えるカードローンやキャッシングの利用が複数あると住宅ローンなどの審査に影響する場合があります。

そして、家族のマネープランについて、お互いに共有し意見を言えることが大切です。特に3歳差の子どもがいる場合中学と高校、高校と大学の入学時期が重なりますので大きな出費が予想されます。

家族の年齢とライフイベントを書き出し、キャッシュフロー表などを活用して長期的にみて将来の備えもある程度確保できることがわかれば、Jさんの妻のようにお小遣いを減らさなくてもいいということも見えてきます。

マネープランを共有・可視化することは、単に金銭的な安定をもたらすだけでなく、家族間の信頼関係を深めることにもつながります。

<参考> 金融庁委託調査「貸金業利用者に関する調査・研究 <調査結果>」(2019年3月29日)

伊藤 江里子 FP事務所 夢咲き案内人オカエリ 代表

(※写真はイメージです/PIXTA)