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 2023年2月、ニューヨークセントラルパーク動物園の柵が何者かによって破壊され、そこで生まれ育ったユーラシアワシミミズクの「フラコ」(当時13歳)が逃げ出してしまった

 野生下では生きられないのではと心配されていたが、フラコの適応能力は素晴らしく、獲物(ネズミ等小動物)を狩ることを覚え、度々その姿が目撃されていた。

 あれからもうすぐ1年、ニューヨークの街中を飛び回り、そのニューヨーカーぶりもすっかり板についたようだ。

 フラコはライバルの鳥たちに突かれたり、金切り声で追い立てられたりしながらも、たくましさの象徴として多くの人々を魅了している。

【画像】 脱走フクロウ、フラコは1年間ニューヨークで生き延びる

 2023年2月2日、フラコは何者かが壊したセントラルパーク動物園の飼育囲いから脱走した。彼がアメリカ最大の都市に飛び出して、自由を謳歌し初めてから早1年が過ぎた。

 広げると180cmにもなる己の翼の能力を、生まれて初めて試してみた1年でもあったろう。

これは非常に珍しいことです。フラコは世界で2番目に大きなフクロウの仲間ユーラシアワシミミズクで、その名が示すとおりユーラシア大陸が原産です。

彼らの通常の生息域は西ヨーロッパから極東で、北米にはいません

 著名なサイエンスライター、ジェニファー・アッカーマン氏は語る。

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本来ならニューヨークでは目にすることのない立派なユーラシアワシミミズクが、セントラルパークやマンハッタンを飛び回り、ねぐらで休んでいるのを観察でき、その鳴き声を聞くことができるなんて、本当にすばらしいことです

The great escape of Flaco the New York City owl

 アッカーマン氏は、自著『What an Owl Knows: The New Science of the World's Most Enigmatic Birds』の出版が、2023年のフラコの逃亡時期と偶然にも一致していることに喜びを隠せない。この本はベストセラーになっている。

私はあらゆるフクロウのリストサーブ(メーリングリスト)に参加しているので、フラコの逃亡のことは当初から知っていましたが、最初はまったく信じられませんでした。

とても不思議で、大変興味深いことです。フラコの環境への適応能力に誰もが魅せられているのだと思います

フラコの生い立ちと脱走までの経緯

 フラコは2010年、まだヒナだったころにノースカロライナ州の鳥類保護区からニューヨーク大都会に連れてこられた。

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 13歳になるまでセントラルパーク動物園の狭い檻の中で暮らしていたが、2023年2月2日に脱走した。

 ニューヨーク市警の報告書によると、この日の午後5時から8時半の間に、何者かに破壊された檻からフクロウが逃げた、との通報を受け出動したという。

 それからまもなく街中を飛ぶフクロウが目撃されたが、犯人の行方はつかめなかった。

 1年たった現在でも、檻を破った犯人は逮捕されておらず、捜査は続いている。

 一方で逃亡したてのフラコは、マンハッタンでもっともファッショナブルなショッピング街で騒ぎを起こしたりもした。

 バーグドルフ・グッドマン・デパート近くの歩道に降り立ち、群衆やニューヨーク市警の注目を引いたのだ。

 警官たちがあたりに非常線を張り、ケージを待機させて捕獲を試みたが、そんな騒ぎをあざ笑うかのように、フラコは美しいまだらの翼を優雅に羽ばたかせ、プラザホテル前の木に飛び移った。

 Xで8万6500人以上のフォロワーを誇る、バードウォッチャーに人気のマンハッタン・バード・アラートの創設者デビッドバレット氏は、この騒動の翌日にセントラルパーク南東にあるハレット自然保護区でフラコに遭遇したと語った。ここはフラコが脱走した動物園に近い。

その日は一年でもっとも寒い夜でした。フラコは風速25マイルの突風にさらされながら、裸木にとまっていて、アカオノスリに悩まされていました。

フラコにとって厳しい一日だったと思いますが、それで却って彼は自分の立場を確立したようです

 それ以来、バレット氏はフラコの写真や動画を数多く撮っているが、ほかの野鳥観察者と同様に、フラコが自力でエサを獲ったり、遠くまで飛ぶスタミナやノウハウがないのではないかと心配した。

フラコは動物園の狭い檻の中でしか飛んだことがないはずです。

脱走して初めて自由に大空を飛んだ日は1ブロックか2ブロックほどしか飛べなかったと思われます。それ以上飛ぶ持久力はなかったのではないでしょうか

フラコはどんどん力強い野生動物に

 しかし、一週間もしないうちに当初の懸念は杞憂であることがわかったという。フラコは〝優雅にしかも力強く〟飛んでいたのだ。

 2023年2月11日、フラコが齧歯類の死骸らしきものと毛皮が混じったペレットを吐き出すのが目撃された。つまり、フラコは自力で獲物を捕食した証拠ということになる。

驚くのは、フラコがたった数日のうちにネズミ狩りの方法を独学したということです。なんといっても捕食は生存に欠かせません。その時点でフラコは大丈夫だとほっとしました

バレット氏は言う。

フラコが吐き出した齧歯類の骨や毛皮が混じったペレット

 10年以上も鳥類について執筆し、この4年間は世界中でフクロウの研究をしてきたアッカーマン氏は、ユーラシアワシミミズクは非常に順応性の高い鳥であることは確かだが、この眠らない町でフラコが生き残る助けになっているのは単に本能だけではないと語る。

ニューヨーク市警19分署:
いやあ、おもしろかった。この小さなお利口さんを助けようとしたけれど、彼は群衆を集めるだけ集めると、飽きたのか飛び去ってしまった。同胞たちよ、警戒を怠るな。彼が最後に目撃されたのは五番街の南の空だ。

動物園育ちのフラコだが知能が高く学習能力も高かった

 「フラコはニューヨーク上空を飛びながら、新たな縄張りマッピングしているのです。最高の狩場を見つけて、それを頭に叩き込んでいるといっていいでしょう」アッカーマン氏は語る。

 「非常に速く物事を学習していて、ほかの多くの鳥と同様、本当に知能が高いことがよくわかります」

 フラコはほかの鳥を観察することで狩りの仕方を学んだ可能性が高く、確かに鳥類は社会の中で学習していくことが多いという。

 また、フラコがユーラシアワシミミズクという種であることも、野鳥が新たなライフスタイルを見つける場合に有利に働いているという。

 この種はフクロウの中でももっとも強力なハンターなので、フラコの超能力的な感覚もプラスになっているようだ。

ひとつには、彼らは暗闇の中でも物がよく見えるという利点があります。さらに非常に鋭敏な聴力を持っているため、ネズミが木の葉の間でカサカサたてるほんのかすかな音まで聴き分けることができます。

そして音もたてずに飛ぶことができるため、獲物に気づかれることなく近づき、急降下して捕食することが可能なのです(アッカーマン氏)

フラコは捕まらない

 セントラルパーク動物園を運営する野生動物保護協会(WCS)は最初、フラコ捕獲チームを立ち上げ、罠を仕掛けたり、ネットで追いかけたり、メスの鳴き声を録音した音源を流したりした。

 しかし、こうした取り組みがフラコの〝ファン〟から反発を招き、「フラコを自由にせよ」という嘆願書に1600人以上が署名するという騒ぎになった。

 2023年2月12日のWCSの発表によると、フラコを罠で捕らえる試みは少なくしているという。

「脱走初日の夜以来、動物園関係者は日夜、セントラルパークでのフラコの行動をつぶさに監視している」という。

数日前は、フラコが狩りに成功し、獲物を捕らえて食べるのを観察した。彼の飛行スキルは急速に向上し、自信をもって公園内を縦横無尽に飛び回っている。

当初誰もが思った、ちゃんと飛んで無事に食べていけるのか、という心配はもうない

 野生動物保護協会(WCS)は、フラコの脱走1周年に関するコメントは拒否した。

 動物園がもっともフラコに接近したのは、脱走1週間後に実験用ラットをおとりに使った罠をセントラルパーク内にあるヘクシャー・ボールフィールズに仕掛けたときだったという。

仕掛けられた罠のそばに立つフラコ。捕獲はあえなく失敗

フラコは罠のネズミに関心をもち、しばらく見ていて近づいてきました。罠が作動しましたが、うまく彼を捕らえるところまではいきませんでした。

彼はすぐに罠から逃れ、チームスタッフが慌てて駆けつける間に飛び去ってしまいました。ほんの数秒の差でした

 この様子を撮影していたバレット氏は語った。

 それからフラコはセントラルパークの南端を飛び回り、ノースウッドの方へと移動、堆肥の山にいるネズミを捕食したり、建設現場をうろついたりした。

 黄色い掘削機の上にとまっているフラコの写真を撮った人は何人もいる。

「2023年にもっとも多く撮った鳥の写真はフラコです。彼は世界でもっとも有名なニューヨーカーの鳥になりました」バレット氏は言う。

 バージニア州に住むアッカーマン氏は、10月にセントラルパークを訪れた際、生フラコを実際に見たという。

 アッカーマン氏がフラコと遭遇してから数週間後、彼はこれまででもっとも長い旅をした。

 マンハッタンのイーストビレッジとローワー・イーストサイドを1週間以上探索してから、個人宅の庭や集合住宅の中庭で羽を休めた後セントラルパーク付近に戻った。

 こうした行動の変化は、フラコがセントラルパークでほかの鳥からいじめられたか、メスを探していたせいではないかと、バレット氏は言う。

もちろん、フラコの仲間はいません。彼は北米に生息する唯一の野生のユーラシアワシミミズクなのですから。でも本人は当然そんなことは知りません

 アッパーマンハッタンに戻ってきて以来、フラコは個人宅の中庭、窓辺、バルコニーの手すり、エアコンの室外機などがお気に入りになったらしい。

こうしたものはフラコに休息の場を与えてくれ、避難所にもなるようです。人間の住まいの近くに来るようになったことは、この2ヵ月でフラコに起きた大きな変化でしょうか

 フラコはお気に入りの狩場をまた訪ねているようだ。今年の1月13日、ノースウッズ湖近くの木の枝で毛づくろいしたり、飛び移ったりしたりしているフラコが目撃されている

逃亡中のフラコのタイムライン

2月2日 午後8時半 フラコがセントラルパーク動物園の壊された囲いから姿を消したと報道される。急遽、動物園職員が捕獲チームを動員する。

ニューヨーク市警19分署が5番街マンハッタンの歩道にいたフラコの写真をSNSに投稿。

2月11日 ABCニュースがフラコがネズミの遺骸や毛皮の混じったペレットを吐き出すのを目撃。彼が自分でエサを捕食していることが証明される。

2月12日 動物園職員がフラコの捕獲を断念。だが監視は続ける予定。

2月18日 セントラルパークで初めて雪を体験。

2月25日 セントラルパークの南端からノースウッズへ移動。

3月14日 「レイト・ナイト」の司会者セス・マイヤーズがフラコについて、これは今すぐにでも我々が必要とするような話だと発言。

4月26日 フランスのル・モンド紙がフラコを特集し、「この鳥の話はウォルト・ディズニーの脚本に値する」と書く。

7月22日 セントラルパーク、ヘクシャー・ボールフィールズのピッチャーマウンドにいるのが目撃される。

10月31日 セントラールパークからイーストヴィレッジへ最長飛行をする。

11月6日 イーストヴィレッジの彫刻ガーデンで目撃される。

11月14日 セントラルパーク付近に再び現れる。セントラルパークの貯水池の向かい側にある5番街のビルで目撃される。

12月9日 セントラルパーク西211の22階建てのベレスフォード・ラグジャリー・ビルの足場の上でしばらく鳴いているのが目撃される。

12月25日 マンハッタン、アッパーウェストサイドのビルの給水塔の上で、クリスマスを過ごす

本物のニューヨーカーとなったフラコの魅力

 フラコの魅力は、ニューヨークだけでなく世界中に広まった。2023年4月、フランスのル・モンド紙はフラコを特集し、「この鳥の物語は、ウォルト・ディズニーの脚本に値する」と書いた。

 3月には「レイト・ナイト」の司会者、セス・マイヤーズが番組でフラコのことを取り上げ、「あらゆるニューヨーカーがセントラルパークに住みたいと思っているのに、この御仁は信託資金もないのにいきなりセントラルパークに住み始めた。信じられないね」と冗談めかして言った。

12月、ウォールストリートジャーナルは、人のうちの窓を覗き込むフラコの新たな習慣を〝のぞき屋〟と表現し、「レイト・ショー」の司会者、スティーヴン・コルベアは、「頭を360度回転させるのは相当良くない。それは君の2番目に不気味なところだな」とジョークを飛ばした。

 アッカーマン氏によると、人間は数万年も昔からフクロウに魅せられてきて、最古の洞窟壁画にもフクロウが描かれているという。

それは、私たち人間にとって見慣れた姿だからなのかもしれません。

フクロウは私たちと同じように目は前を向いているし、丸い頭をしています。同時に、フクロウは夜の生き物であり、夜に狩りをするための並外れた能力を持っているという、ダークサイドの存在と結びつけられます。

ですから、人々がフクロウを身近なものであると感じると当時に、異世界の神秘的なものであるとも考える、その対局が非常に魅力的なものになるのではないでしょうか

 バレット氏によると、セントラルパークにはフラコのほかのもフクロウがいるという。

 2021年には公園の保守車両に轢かれて死んだバリーというアメリカフクロウの追悼式のために何百という弔問客が集まったという。

 しかし、フラコのように人々の注目を集めた鳥はほかにはいないという。ウィキペディアにもフラコのことは掲載されているし、Xやインスタのアカウントも持ち、ニューヨークの壁画にも描かれるほどだ。

人々はフラコを自由の象徴としてだけでなく、弱者のチャンピオンとしても見ていると思います。

確かに彼は最初は囚われの弱者だった。ずっと人間に飼われていたフラコが、野生で生き残れる確率は非常に低かったのに、彼はそれをやってのけたわけですから(バレット氏)

References:Owl Who Escaped the Central Park Zoo a Year Ago Becomes a True New Yorker - Parade Pets / A year in the concrete jungle with Flaco, the 'most famous owl in the world' - ABC News / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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あれから1年、動物園を脱走したフクロウは本物のニューヨーカーとなる。フラコ1年間の軌跡