現在、全国の劇場で大ヒット公開中の映画『ゴールデンカムイ』。原作はご存知、野田サトル氏による累計発行部数2700万部超えのベストセラーコミックだ。そのあまりに壮大なスケールから、“映像化不可能”と長らく業界内で囁かれていた本作が、あの「キングダム」シリーズを大ヒットに導いた制作プロダクション=CREDEUSとWOWOWの手により、オールスターキャスト陣総集結で映画化に漕ぎつけた!

【写真を見る】原作ファンの期待を超えた再現度。大人気キャラの鶴見中尉を演じた玉木宏のこだわりとは

舞台は美しくも厳しい大自然が広がる、明治末期の北海道。鬼神のごとき戦いぶりで数々の戦地を生き抜き、味方からも“不死身の杉元”として畏れられた主人公、杉元佐一(山崎賢人)は、ある理由から北海道で砂金取りに明け暮れていた。そこで偶然知り合った男から、アイヌ民族を惨殺し莫大な価値のある金塊を奪った男、通称=“のっぺら坊”の存在を聞く。現在服役中の“のっぺら坊”は、刑務所内で24人の囚人の体に金塊のありかを刺青で彫りこみ、全員を脱獄させた。刺青は24人が全員揃って初めて、隠し場所を示す暗号になるという――。

杉元とタッグを組むアイヌの少女、アシリパ(山田杏奈)を筆頭に、多くの者たちがこの一大金塊争奪戦に続々と参戦。そのなかでもひと際エキセントリックな空気を漂わせるのが、大日本帝国陸軍最強と謳われた第七師団の中尉、鶴見篤四郎だ。圧倒的なヒールでありながら、原作ファンからも熱狂的に支持される鶴見を演じるのは、玉木宏。クセの強い人気キャラクターを完全再現するにあたっての苦労、「鶴見には玉木さんがピッタリだと思います」と熱く語っていたという原作者、野田氏との貴重な交流経験などを語ってもらった。

■「野田先生からお墨付きをいただけたことが本当にうれしく、自信になりました」

今回のオファーを受ける前から、原作を一読者として楽しみながら読んでいたという玉木は、「当然読んでいる時は、自分が鶴見を演じることになるとは思うわけもなく…」と苦笑い。「どんな役をいただくにしても、自分はそこに近付いていこうという意識しかありません。鶴見に関してはかなり振り切れたキャラクターではあったので、比較的イメージがしやすい役でした。ただここまでの人気漫画ですから、原作ファンの方々に納得していただけるものにするには、かなり大変かもしれないとは感じました」。

だが一斉に解禁されたキャスト情報で、玉木宏鶴見中尉舘ひろし土方歳三、と、両名の名前が同時に発表された時は「Wひろし」がトレンド入り。原作ファンもこのドンピシャなキャスティングにおおいに沸いた。「それは本当にありがたいことだと思いました。原作ファンの方々の中には、それぞれがイメージしている映像やキャラクターが必ずあるはずですが、ひとりでも多くの方に納得してもらえたのであればうれしいです。鶴見に限らず“ダークヒーロー”的な存在というものは、固定の熱狂的なファンがいらっしゃるという印象です。鶴見のやっていること自体はかなり狂っていますし、残忍なシーンなんかもありますが、それでも部下がついてくる魅力が鶴見にはある。狂った面はともかく、上司としてはかなりいい人物なのではないでしょうか。『この人についていけば大丈夫』と思えるカリスマ性のようなものがある。でないと、あれだけの軍人たちを束ねられないと思う。彼なりの信念はちゃんとある人なのかなと演じながら思いました」。

実は原作者の野田氏も、玉木に鶴見を演じてほしいと熱望していたとか。当初はそれを「知らなかった」という玉木だが「この作品の生みの親である先生にそう言ってもらえる、こんなにうれしいことはありません」としみじみ。「この作品への想いが一番強いのは当然ながら先生ですし、その先生にお墨付きをいただけたのは自分の中の自信に繋がりました」。

その後、撮影現場を野田氏が訪れた時に初めて対面を果たした2人。野田氏の印象を「とても物腰が柔らかい方だけど、どこかユーモアがあるすてきな方」と振り返る。ちなみにその時の玉木は、上から下まで完全に鶴見としての扮装だった。「一番印象的だったのは、お会いした瞬間に先生の目がすごく輝いたように僕には見えたんです(笑)。僕にというより、鶴見に会うのを楽しみにされていたのだろうというのが、瞬時に伝わってくるくらいワクワクされている感じがして。その表情を見られて僕も安堵しました」。会話をしながらも、どうしても鶴見のビジュアルが気になるらしく「鶴見の衣装や傷メイク、額あてなどの質感をとても気にされていました。特に衣装は『ちょっといいですか?』と少し触ってみて、質感を確かめられたりしていました」。

■「そもそも『鶴見の脳汁ってなんだろう?』と(笑)」

原作から抜け出したような鶴見を作り上げるにあたり、久保茂昭監督、各部署のスタッフの「熱烈な鶴見愛」をひしひしと感じたとも。「皆さん、鶴見のことが大好きなんです(笑)。特に久保監督は鶴見の衣装合わせの時はすごくテンションが上がっていて、鶴見への愛情が深い方なのだとうれしくなりました。演出面では細かいことは特に言われませんでしたが、撮影前に“鶴見ノート”をいただいて。鶴見について原作からいろいろな部分を抜粋したものがびっしり書き込まれているもので、演じるうえでヒントになることがたくさんありました。最初から監督と僕の、鶴見の方向性が一致していたのもありがたかったです」。

鶴見のメイクテストは3回に及び、鶴見の象徴でもある“額あて”の質感はギリギリまで微調整が続いたという。その中には玉木からの提案やリクエストも盛り込まれた。「撮影ではよくあることですが、額あてがあまりにもツルツルしたものだと、そこにいろんなものが反射して映り込んでしまいます。だからできるだけマットなものにしてはどうでしょう?という提案はさせていただきました。あとは真冬の北海道で撮影をするので、熱を全部吸収してしまう素材だと、僕のおでこが凍ってしまうかもしれない(笑)。凍傷になったり、くっついて取れなくなったら困るので、隙間にスポンジのようなものを1枚かませてもらいました。鶴見は目をカッ!と見開く芝居も多いので、当初より目の可動域も広げてもらい助かりました。本当にたくさんのスタッフが、愛情をもって細やかに鶴見を作っていってくださいました」。

原作ではお約束の鶴見の“脳汁”も、スタッフ間で試行錯誤が繰り返された。「CGの脳汁もありますが、実際に後ろから管を通して液を垂らしているシーンもあります。タイミングがなかなか合わなかったり、僕も特殊メイクをしているので垂れてくる感覚がつかめなかったりして、演じるのがすごく難しかったです。そもそも皆で『鶴見の脳汁ってなんだろう?』と話し合ったり(笑)。誰も見たことがないですから」。

その狂気や常軌を逸した言動が注目されがちな鶴見だが、クライマックスではまさに鶴見の本領発揮!杉元を執念で追い詰める大がかりなアクションもしっかり用意されている。玉木自身の豊かな乗馬経験が功を奏し、雪で凍った危険な道での馬を使ったアクションも無事ケガなく終えることができた。「馬に乗ってのアクションは30代を超えたころから一気に増えて、随分鍛えられました。馬は本来臆病な生き物だと思うので、乗る時はちゃんと目を合わせて心を通わせるようにしています。ただ日本の馬はよく調教されていて賢いので、今回もそれほど大変ではありませんでした。後半の落馬→猛ダッシュ→銃を構える一連の動きは、できるだけ原作のスパイスを入れ込んだつもりです。銃を構える時に小指を立てるところも原作を意識しました」と、こともなげに語る玉木だが、原作ファンが歓喜しそうな完コピぶりは随所に散りばめられている。夢に出てきそうなあの名台詞ろうそく、ボリボリしちゃおうか?」の恐るべき再現度は、是非劇場で確認してほしい!

山崎賢人の「崎」は「たつさき」、アシリパの「リ」は小文字が正式表記。

取材・文/遠藤薫

『ゴールデンカムイ』で鶴見篤四郎を演じた玉木宏にインタビュー/撮影/興梠真穂