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(写真:時事通信

連続ドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)の原作者・芦原妃名子さん(享年50)が急逝したことをうけ、『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(ともにTBS系)などの人気ドラマを手掛けた脚本家の野木亜紀子氏が、原作のある作品を映像化する際のプロセスを明かした。

芦原さんは、1月26日にX上で、『セクシー田中さん』の9話、10話の脚本を自分が手がけた経緯を説明していた。芦原さんは漫画の原作が完結していないことなどから《ドラマ化するなら「必ず漫画に忠実に」。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく》などの条件を提示していたが、これらの条件はまもられず、毎回、原作を大きく改編したプロットや脚本が提出されたため9話、10話については芦原さんが脚本を担当したという。

野木氏は1月31日に自身のXを更新。《こんな悲しい結末になってしまうまでに幾つかのポイントがあり、そのどれもがよくない方に働いてしまったであろうことが残念でならない》とし、《これまで実写化に関わった/いま関わっているすべての人にとって他人事ではない》と原因の究明が今後同じ悲劇を繰り返さないためにも重要であると指摘し、賛同を集めていた。

芦原氏の訃報を受けて原作者と脚本家の関わり方に注目が集まっているなか、その疑問に答えるかのように野木氏は2月2日にXを更新。《原作がある作品の脚本を手がける脚本家が、事前に原作者に会う/会わないの話ですが》と、自分の知る範囲でと前置きした上で脚本家の実情を明かした。

野木氏によると《「会えない」が現実で、慣例》だとし、その理由を《良くいえば「脚本家(あるいは原作者)を守っている」のであり、悪くいえば「コントロール下に置かれている」》と考察。

脚本家からの働きかけで原作者に会うことはできないが、仮に原作者から脚本家に「会いたい」と要望があれば《それを断る脚本家もいない……というか、会いたくないなんて断った時点で脚本家チェンジでしょう。原作がある作品において、脚本家の立場なんてその程度です》と脚本家の立場の弱さを説明。続く投稿でも脚本家が原作者に会いたいと《自分から言うのは恐れ多いと感じる人の方が多い気もします》ともコメントしている。

■「原作の先生がどう思ったかは、脚本家としてめちゃくちゃ気になる」

また、脚本を作っていく中でのやり取りについては、《脚本家からしたら、プロデューサーが話す「原作サイドがこう言ってた」が全てになります。私自身も過去に、話がどうにも通じなくて「原作の先生は、正確にはどう言ってたんですか?」と詰め寄ったり、しまいには「私が直接会いに行って話していいですか!?」と言って、止められたことがあります》と、脚本家が直接原作者と意思疎通できるわけではないことも解説。

また、プロデューサーも原作者と直接コミュニケーションをとっているとは限らず、出版社の担当者等を通じた《伝言の伝言》になるため、誤解や齟齬が生じることもあるという。

そのため《個人的には、先生からのご指摘や感想のお手紙(メールなど)が脚本家に直接開示される状態のほうが、誤解や齟齬が少ないし、安心だなと思えます》とし、《原作の先生がどう思ったかは、脚本家としてめちゃくちゃ気になることなので。原作がある作品に携わっている多くの脚本家は、ほとんどがそういう気持ちなんじゃないかなと思います》と脚本家としての思いを述べた。

また、《過去に自分が関わった作品のチームの話になりますが、プロデューサーも私も監督も、原作の先生が喜んでくださったり、褒めてくださったりするだけで、大喜びしていました。ご意見にも一喜一憂していました。演じる役者さんも、原作者さんがどう思われているのか、とても気にします》と制作に関わる全員が原作者に敬意を払っている現場があったことも明かした。

それでも、《ドラマ・映画制作は集団作業なので、少しのかけ違いや様々な要因でうまくいかないこともたくさんあります。これは原作もの/オリジナルに関わらず、難しいなと常々思わされている点です》と映像制作の難しさにも言及している。

■「テレビ局は元々、作家の権利を蔑ろにしがち」と危うさも指摘

こうした背景について野木氏はさらに、別の投稿で《テレビ局は元々、作家の権利を蔑ろにしがちなんですよ。それは原作者だけでなく、オリジナルドラマを書く脚本家に対しても同じ。こっちは一個人で、向こうは圧倒的に巨大な組織で》とコメント。とはいえ《もちろん、それじゃいかんと作家のために戦ってくれる社員さんもいます。人によるし、それができるかは立場による》と付け加えている。

原作者と立場の弱い脚本家の対面が基本難しい現実や、プロデューサーが非常に重要な役割を果たすという実際の状況にXでは驚きの声があがっている。同時に、野木氏の真摯な制作スタイルに心を打たれた人々の声も多く寄せられた。

《この方の手掛けた作品が自分の琴線に触れた理由がわかったような気がする とても誠実な方》
《脚本家としてお心を痛めておられるのが伝わる誠実な言葉をありがとうございます》
《アニメだとアフレコ現場に差し入れとか打合せ毎に来てたり来なくても密に連絡したりと監督脚本原作者が連携しているイメージですけど、テレビドラマって随分プロデューサーにコントロールされているんですね。勉強になった》
《こういう話が知りたかった。何故、原作者と脚本家が直接会って、お互いの困ってる事や、やりたい事が通じ合わないのかが。悪しき慣例がそれを許さなかったのか。問題点の一つが浮き彫りになった気がする》
《ちょっと泣きそうになった。同じ職業でも意識が違うんだろうな 野木さんと言う脚本家がいてくれて良かった》