ゲーム遺伝子があるようです。

スウェーデンカロリンスカ研究所(KI)が双子を用いてゲーム頻度に関する年齢別調査を行った結果、特に少年においては年齢を経るごとに育った環境よりも遺伝子の影響が大きくなる傾向が示されました。

一方、少女の場合は、少年よりも遺伝子の影響が少なく、環境による影響がより大きくなっていました。

今回の研究はゲーム頻度と遺伝子の影響を総合的に調べた初めての縦断的双生児研究となります。

研究内容の詳細は『JCPP Advances』にて公開されています。

目次

  • 現在世界中で30億人がゲームをプレイしている
  • 男の子はゲーマー遺伝子の影響を受けやすい

現在世界中で30億人がゲームをプレイしている

ゲーム好きになる「ゲーマー遺伝子」が存在すると判明!
ゲーム好きになる「ゲーマー遺伝子」が存在すると判明! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

ゲームと遺伝子の関係を語る前に、近年のゲーム研究で判明した興味深い事実の幾つかを紹介したいと思います。

現在、世界人口は80億人を突破していますが、そのうちどのくらいがゲームをプレイしているのでしょうか?

ビデオゲームが発売された当時では、世界人口のなかでゲームに接することができる人々は極めて限られていました。

ゲーム筐体やファミコンなどの家庭用ゲーム機は最先端の技術を取り入れた高価な商品であり、アクセスできるのは先進国の裕福な人々に限られていたからです。

しかし現在、世界中で約30億人がビデオゲームに没頭しており、その数は増加の一途をたどっています。

特にヨーロッパでは、学生の60%が学校日に、70%が休日にゲームを楽しんでいるとのこと。

平均すると、ゲーマーは週に7~16時間をこのデジタルな娯楽に捧げており、コアゲーマーと呼ばれる熱心な層では、一日に4時間以上(週28時間以上)もゲームに熱中しています。

そして21世紀に入るとスマートフォンや仮想現実機器の登場により、ゲームはさらに高度でインタラクティブ(双方的)な体験へと進化しました。

これにより、ゲームは以前にも増して身近な存在となり、オンラインでのプレイが日常化しています。

朝の通勤電車の中でゲームプレイに没頭しているサラリーマンの多さを見れば、ゲームの日常化に納得できるでしょう。

同じような光景は今や、世界中で見かけることができます。

米国でもゲームをプレイする人口の割合が2003年の7.8%から2021年には14.0%へと倍増しました。

(※米国ではボードゲームも盛んに行われており、これも数値に含まれています)

それに伴いゲームに対する研究も盛んに行われるようになっており、ゲームには問題解決能力や社会性の向上に寄与するという肯定的な結果も得られています。

また高齢者がゲームをすることで、認知能力や反射能力の改善がみられるとする研究結果も報告されています。

また興味深いことに、ゲーム時間には周期性があり、20~84%の人々はゲームをする時期とそうでない時期が交互にやってくることが報告されました。

ゲームをしている時期は「たまたまハマるゲームに出会っただけ」と思ってしまいますが、周期性が存在するという結果は「たまたま」ではない何かが、人間とゲームの間に存在することを示唆しています。

一方で、過剰なプレイは精神的なストレスや睡眠障害、学業成績の低下といったゲーム障害を引き起こす可能性が指摘されています。

ゲーム障害になると①ゲームプレイ時間の制御ができない、②ゲーム最優先の生活により他の趣味が消失している、③成績低下などマイナスの影響が出てもゲームを続けてしまう、といった慢性的な症状がみられます。

また注目すべき点として、ゲーム障害も他の精神疾患と同じように、遺伝子の影響を受けている点があげられます。

英国の16 歳の双子 2,635 組を対象とした研究では、オンラインゲームに費やされた時間の39%は、遺伝的な要因によって増加していることが示されました。

5,247組の双子を対象とした「強迫的なインターネット使用」に関するオランダの研究では、強迫的なインターネット使用において、遺伝子が原因と考えられる要因は48%と報告されています。

ただこれらの研究は時間による変化を追跡しておらず、遺伝子の影響が年齢ごとにどのように作用しているかは明らかにされていません。

そこで今回、カロリンスカ研究所は、双子のサンプルを使用することで、ゲームに対する遺伝子と環境の影響が年齢を経ることにどう変化するか調べることにしました。

男の子はゲーマー遺伝子の影響を受けやすい

ゲーム好きになる「ゲーマー遺伝子」が存在すると判明!
ゲーム好きになる「ゲーマー遺伝子」が存在すると判明! / Credit:Anders Nilsson et al . The genetics of gaming: A longitudinal twin study . JCPP Advances (2023)

遺伝学の研究では、双子は重要な位置を占めています。

一卵性双生児は同じ遺伝子を持つことがしられており、彼らの類似性や差異を調べることで、知能や学歴、恋人の好みなど特定の項目における遺伝子の影響の強さを調べることが可能になります。

例えば、里親に出された双子を追跡することで、異なる環境(家庭)における遺伝子の影響を調べることが可能になります。

これまでの双子研究では、音楽や数学、文章の才能などにおいては育った環境よりも遺伝子の影響が極めて強いことが報告されています。

今回の研究では、スウェーデンのデータバンクに登録された3万2006人の双子が対象とされ9歳、15歳、18歳のそれぞれの時期にビデオゲームとコンピューターゲームをプレイする頻度が調査されました。

またゲーム頻度は「全くしない・月1回程度、週に1、2回、週に3~6回、ほとんど毎日」の5段階で評価されました。

すると興味深いことに、上の図のように、少年はどの年齢層でも「ほぼ毎日する」との答えが最も多くなったものの、少女では年齢が上がるにつれて「全くしない」と答える割合が多くなっており、男女で大きな差がうまれていることが判明します。

また遺伝子の影響も男女差が大きくなっていました。

ゲーム好きになる「ゲーマー遺伝子」が存在すると判明!
ゲーム好きになる「ゲーマー遺伝子」が存在すると判明! / Credit:Anders Nilsson et al . The genetics of gaming: A longitudinal twin study . JCPP Advances (2023)

上の図ではゲーム頻度に対する遺伝子と環境の影響度を視覚化したものとなります。

少年では年齢が上がると遺伝子の影響が増え、環境の影響が減ります。

一方少女の場合、年齢による遺伝子の影響はほぼ同じであり、より環境から大きな影響を受けることが示されました。

具体的には、9歳から15歳までの少年では遺伝的寄与が31.3%から62.5%とほぼ2倍に上昇しました。

逆に環境の影響は年齢とともに大きく減少していきました。

遺伝子がゲーム頻度に影響するという結果は、ゲーム好きになる「ゲーマー遺伝子」が存在しており、少年では大きな影響を発揮していることを示しています。

同様の研究結果は知能などでも観察されており、知能の遺伝的寄与は幼児期では20%に過ぎませんが、成人では80%に増加することが知られています。

この結果は、年齢を重ねるにつれて人間はより遺伝子に忠実な存在になっていくことを示しています。

しかし、女の子の場合、ゲーム行動に対する遺伝的影響は、19.4% から 23.4% の範囲で、年齢を問わず比較的安定しており、環境因子の与える影響が9歳で70.5%、15歳で61.8%、18歳で60.5%と大きくなっていました。

どうやらゲーム頻度を高める「ゲーマー遺伝子」を持っていても、少女ではゲーム頻度にあまり影響を与えていないようです。

簡単にまとめれば、少年がゲーム好きになるのは主に遺伝子のせい、少女がゲーム好きになるのは主に環境のせいと言えるでしょう。

研究者たちも「女の子と男の子の大きな違いには少し驚きました」と述べています。

(※少女では、ゲーム頻度の遺伝子の影響は20%前後と少年より低くなっていますが、決して低すぎる値ではありません。スウェーデンのような男女格差が最も少ない国での研究という点でも重要でしょう)

このような男女差のある結果は、ギャンブルにおいてもみられます。

これまでの研究で「問題のないギャンブル」でも遺伝子の影響は男性で47%、女性で28%となっており、さらに男性ではギャンブル好きになるかは、ほぼ環境とは関係ないことが示されています。

遺伝子の影響に男女差がある理由について研究者たちは、単純な性差の他に、現代的な生育環境には少年のゲーマー遺伝子を刺激し、遺伝的影響を増強させている可能性があると述べています

今回の研究は双子を使った継続的なゲーム頻度の研究としては世界初であり、青年期のゲーム行動を調べる際の重要な基礎データになると考えられます。

今後ゲーマー遺伝子がどんな配列をもつかが決定されれば、遺伝子診断を行うことで、自分とゲームとの距離を適切に保つ助けになるかもしれません。

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参考文献

Groundbreaking research unpacks genetic factors linked to gaming habits
https://www.psypost.org/2024/01/groundbreaking-research-unpacks-genetic-and-environmental-factors-linked-to-gaming-habits-221095

元論文

The genetics of gaming: A longitudinal twin study
https://acamh.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jcv2.12179#:~:text=The%20study%20show%20that%20gaming,mapping%20gaming%20behaviors%20among%20adolescents.

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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