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 ネット社会では、エコーチェンバー現象も相まって、偏見や十分な証拠もないまま、陰謀論にのめりこむ人も多い。

 そんな陰謀論に対する私たちの感受性はどのようにして形成されるのか、その心理的背景が画期的な研究によって明らかになりつつある。

 170件の研究データを分析した結果、陰謀論を信じるのは個人の性格的なものだけでなく、確実なものを求める心理や、社会から誤解されていると感じる心など、より深い動機づけ欲求によっても影響されることが判明した。

 この研究は『Psychological Bulletin』誌に発表されている。

 

【画像】 陰謀論とは?なぜ根拠もないのに広がるのか?

陰謀論」は、人間の文化の複雑な側面を表している。

 根拠の有無にかかわらず、何か重大な事件や出来事の原因を、「特定の力を持つ集団(秘密結社や政府、企業など)が人知れず裏で操っている悪意ある計略だ」と断定したり信じたりするものである。

 陰謀論は通常、確たる証拠がないまま広まり、暗示、曖昧、偶然に頼る、多分に憶測の域を出ないものだ。

・合わせて読みたい→陰謀論を信じているのは案外普通の人たちであることが判明(オーストラリア研究)

 陰謀論はたいてい、ときに重大でトラウマになるほどのショッキングな出来事に伴って現れ、公的な説明や一般的な理解に疑問を投げかける別の説を展開する。

 こうした陰謀論の中には、現実に根拠があると判明するものもあるが、ほとんどは信じがたく、経験的証拠によって裏づけられるものではないと考えられる。

 それでも相変わらず、一部の人たちの想像力と信念をとらえて離さない。

 正しい情報だけでなく間違った情報もあっと言う間に拡散してしまう今のネット時代において、陰謀論を信じる心理を理解することは、これまでになく重要になってくる。

 特にSNSの発達により、閉鎖的空間内でのコミュニケーションを繰り返すことによって、特定の信念が増幅または強化されてしまう「エコチェンバー現象」が発生する。

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陰謀論は一度信じると考えを変えるのが難しい

 既存の研究では、この現象のさまざまな側面を調べ、個人の性格特性、動機要因、社会的影響がどのようにして陰謀論を信じる心理に影響するのかを掘り下げてきた。

[もっと知りたい!→]何を言っても通じない。陰謀論を信じる人の論法とそれに対処する方法

 しかし、研究数が多いにもかかわらず、こうしたさまざまな要因がどのように互いに作用しているのか、包括的な理解はまだまだ不足している。

 こうした知識不足への懸念が、多様な研究をまとめて全体像を把握するために、これまででもっとも大規模な研究を行うことにつながった。

陰謀論信仰がとくに興味深いのは、それが自ら強く思い込んでしまう信念で、その考えを変えるのが難しいからです。

非常に重大な結果をもたらしてしまう可能性が高いため、こうした思い込みに外部から介入するなんらかの方法を確立することが大切なのです

 アメリカ、ヴァンダービルト大学の研究者で、本研究の筆頭著者であるシャウナ・ボース氏は語る。

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陰謀論を信じる人の心理を掘り下げて研究

 ボース氏ら研究チームは、異なる複数の研究から得られたデータを組み合わせて、強力な統計手法であるメタ分析を行い、より広範な洞察と傾向を導き出した。

 この方法は、研究結果が多様で、ときに矛盾が生じてしまうこともある心理学のような分野での分析に役立つ。

 研究チームは、まずは広範な文献研究から始めた。査読済みの学会誌記事、学位論文、未発表データなど、膨大な文献をふるいにかけていったのだ。

 これらの検索は、Google ScholarやAPA PsycInfoなどの電子データベースを活用して行われた。

 研究に関連する包括的なデータを確実に確保するために、特定のブール検索語法を使用し、分析は合計15万8473人の参加者を含む170件の研究と1429のエフェクトサイズに及んだ。

 次に対象となる研究から52の動機づけ変数とパーソノロジカル変数をコード化した。

 これら変数はこの分野の既存の枠組みに基づいて、動機付け領域(認識論的、実存的、社会的)やパーソノロジー領域(精神病理学、一般/正常範囲性格)などのより広い領域に慎重に分類された。

 注目すべきは、程度の差こそあれ、これら変数のほとんどすべてが陰謀論を信じる傾向と関連づけられたことだ。

(52の変数のうち)評価された変数のおよそ90%が、陰謀論を有意に予測したという事実には驚きました。この結果は、当初想定されていたよりも陰謀論にはより複雑な心理的要因が絡んでいることを示しています

 ボーズ氏は語る。

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陰謀論を信じる人の動機

 この結果は、陰謀論を信じる発想には、3つの動機モデルがあることを裏づけている。

 このモデルから、陰謀論思考は以下の3つの主要な欲求によって駆り立てられると仮定される。

・その人の環境の理解(認識論的)
・安心や安全を感じること(実存的)
・自分自身と自分のいるグループが優れているというイメージ(社会的)

分析的な思考の欠如が重要な予測因子に

 さらに分析思考の欠如が、重要な予測因子として浮上してきた。

 分析的な思考や認知的反応があまりできない人は、陰謀論を支持する傾向が強かったのだ。

 これら要因の関係性は、情報処理に対してあまり疑問をもたず鵜呑みにする人ほど、裏付けのない考えや憶測を受け入れやすい傾向にあることを示している。

 さらに、実存的な動機も大きく寄与している。陰謀論を信じる傾向は、無力感、自分の存在が脅かされる、世間を斜めに見る皮肉な感情と強く結びついている。

 今回わかったことは、世界をより脅威的、制御不能なものとして見る人ほど、陰謀論思考に陥りやすいことを浮き彫りにしている。

 こうしたつながりは、不確実で混沌とした環境に対する心理的な反応として理解することができ、そんな中で信じる人にとっては、陰謀論は理解とコントロールの感覚を与えてくれる心強いものになる。

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疎外感があり自尊心が低い傾向にあると陰謀論を信じやすくなる

 本研究では、陰謀論的発想における社会的要因の役割にも注目している。

 疎外感を感じやすかったり、自尊心が低い傾向にあると、陰謀論を信じやすくなる。さらに、他者集団は脅威だと感じ、否定的になることも同様だ。

 このことから、自分と社会との関係性や社会環境をその個人がどのように認識するかが、陰謀論に対する感受性に影響を与える可能性があることがわかる。

 更に研究者らは、陰謀論信仰が、異常範囲と正常範囲の境を区別する個人の特性とどのように関係しているかを調べた。

 すると、陰謀論的思考は統合失調症、妄想症、異常体験傾向、精神病傾向、敵意など異常範囲の特性と強く関連していることもわかった。

 これら特性は、機能障害や他者に対する否定的な認識とも結びついている。

 一方で、正常範囲の性格特性は、陰謀論を信じる傾向との関連は非常に少なかった。

 この特性は多少の影響はあれども、異常範囲の特性ほど陰謀論信念の大きな影響は受けないことを示している。

「謙虚さ」がないとより陰謀論を信じやすくなる

 興味深い発見のひとつは「謙虚さ」に関することだ。

 一般的な謙虚さと知的謙虚さは両方とも重要で、とくに正直な謙虚さと知的謙虚さの包括的な特徴を測定する場合、陰謀論信仰とは有意な負の相関関係を示した。

 つまり、謙虚さがないとより陰謀論を信じやすくなるという顕著な指標といえる。

 これらの発見は、陰謀論を信じる傾向は、その人の人格機能よりも精神病理学や特定の人格障害と密接と結びついていることを強く示している。

陰謀論を信じる最強の予兆

 全体を通じて、もっとも重要な変数はいったいなんなのだろうか?

 「陰謀論を信じる傾向を予測する要因はたくさんあり、すべてが同じように強い要因というわけではありません」ボーズ氏は言う。

陰謀論を鵜呑みにするもっとも強力な要因は3つです。

1.奇妙な信念や体験をしやすい傾向
2.脅威や危険を認識しやすい傾向
3.自分が他者よりも勝っている考え、やたら相手を敵対視する傾向

これら3つの領域には、実存的、認識論的、社会動機と欲求という陰謀論信仰のもっとも強い相関関係が含まれています(ボーズ氏)
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ただしこの研究には限界も

 この研究は全体を包括的にとらえたものだが、それでも限界はある。

 研究のほとんどは西側諸国の英語圏で行われ、この結果が異文化圏にも当てはまるものなのかどうかという疑問が出てくる。

 もうひとつの大きな限界はデータの横断的な性質で、観測された関係性の因果関係や一時的な順序を判断する能力を妨げてしまうことがある。

今回の発見は相互に関連性があるものです。もっとも強い相関関係が本当に陰謀論を信じる原因になっているのかどうかは、まだはっきりしません。

陰謀論信仰の原因追及には、長期的、実験的、発展的な取り組みが必要です。

原因のもっとも強い相関関係は、脅威と危険のふたつの領域に大きく分けられ、社会的脅威の認識がもっとも強い肯定的予測因子で、信頼がもっとも強い否定的予測因子です。

これら変数は、将来の研究で考慮すべき特に重要な点だと考えます(ボーズ氏)

References:APA PsycNet FullTextHTML page / Why do people believe in conspiracy theories? Here's what the science says / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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なぜ人は陰謀論を信じるのか?科学が示す心理的背景