現在、毎週土曜23時からBS松竹東急で放送中のドラマ「アイドル失格」は、人気アイドルとガチ恋オタクの恋愛を描いたセンセーショナルな作品。原作の同名小説は、現役アイドルであるNMB48の安部若菜が書き下ろしたことでも注目を集め、ドラマでは阿部と同グループに所属する山本望叶が主役の小野寺実々花を演じている。

【写真】凛々しい表情を見せる小林亮太

アイドルグループ「テトラ不動のセンター・実々花に恋心を寄せる吉野ケイタ役を務めるのは、近年映像作品での活躍もめざましい小林亮太。自身もファンから応援される立場として、小林は“推し”と“オタク”の複雑な関係を描く本作にどういう思いをもってケイタを演じたのだろうか。作品への率直な思いや役作り、撮影エピソードなどドラマの裏側に迫る話題に加えて、近況などパーソナルな部分にも迫って話を聞いた。

■オファーを受けて「応援してくださるファンのみなさんが浮かんだ」

――今回の出演はオファーとのことですが、ケイタという役についてまずどう感じましたか?

【小林亮太】オタクの役かぁ!っていうインパクトが、まずありました(笑)。それで、演じるにあたって「“オタク”“推し”ってなんだろう」と改めて考えてみたときに、やっぱり応援してくださるファンのみなさんが浮かんだんですよ。日常の中で感じていることやその日の出来事、報告みたいなことをメッセージやお手紙でいただくことが多いんですが、それがケイタの気持ちを理解することに繋がった部分もあって、ケイタを身近に感じられたような気がします。オタクってステレオタイプなイメージで一括りにされてしまいがちだけど、あくまでひとりの人間として内面から演じたい、と思いました。

――原作を読まれて、繊細な描き方に惹かれた、というコメントも出されていました。

【小林亮太】原作のいい意味でキラキラしていない感じというか、日常の中で目に入る光景や感じる匂いというものが、すごく繊細に表現されていて、それが僕の感覚にも近いものがあって好きだなと感じたんです。台本ではそういった部分が変わっていたところもあったので、どう表現すればいいんだろうって悩んだりもしましたが、映像が完成して作品から自分が一歩離れたときに、ドラマオリジナルの部分があることがよかったんだなと思いました。あと、人間のきれいじゃない部分も原作では結構描かれているんです。同じシーンがドラマになくても、どこかでそういうものを表現できないかなと、要所要所で意識して撮影していました。

――具体的にはどういうことでしょうか?

【小林亮太】「言葉ではいくらでも嘘をつけるから」と監督から言われたことが、すごく印象的で。自分だけがわかる“本心じゃない言葉”ってあるじゃないですか。SNSを当たり前に使っている文字のやりとりの中で、どんな温度で発信しているのかって伝わりづらいと思うんです。ケイタと実々花はメッセージでのやり取りも結構あるので、その表面的な言葉ではなく、本質的な内面にあるものを大事にしようと意識しました。

文字として台本に書かれているものを具現化するのが俳優の仕事ですけど、言葉で表現されること以外のものも多いなっていうことに改めて気付かされて。そこに原作にあるような要素を投影することができるんじゃないか、と考えて演じました。そういう部分にも注目して観てもらえたらうれしいです。

■役をつかむのに重要だったライブシーンの撮影

――一方で、普段は応援される側のお仕事をしていると、推しと繋がりを持つ役どころには難しい部分もあったのではないでしょうか?

【小林亮太】僕も表に出る身なので、現役アイドルの方が書いた原作ということに興味を惹かれましたし、どんな内容なのか気になって読んでみたら、作品のテイストがすごく好きだったんです。そのうえで、ケイタをはじめオタクと呼ばれる彼らは何がうれしくて、何が悲しくて、何を考えて日常を生きてるかっていうことを一緒に学んだように思います。

オタクという肩書きのケイタの役作りに悩みや不安がある中で、その気持ちが大きく変わったのがライブシーンの撮影でした。エキストラ参加のファンの皆さんの姿がすごくリアルというか、これだけの思いを持って“推し”に向き合ってるんだっていうことに気づかされました。自分にそれだけ思えるものがあるか考えても見つからないくらい。一緒に観ていた僕も彼女たちのパフォーマンスに圧倒されて、彼女たちを推す人たちの気持ちが理解できたというか。オタク仲間のネギ(大津尋葵)と二人で「これは推すわ」って話したりしながら、ケイタができていった感じです。

――役をつかむうえで重要な撮影になったんですね。

かなり大きかったです。リアルな瞬間に立ち会ったことで、事前準備でどうにも補えなかった部分が埋まった気がします。これは体感しないと、やっぱりわからなかったですね。

――それは撮影スケジュールの中でどのくらいのタイミングだったんですか?

【小林亮太】中盤の手前くらいですね。順撮り(台本の流れ通りの撮影)ではなかったので、作中でライブシーン前後の明確な変化というのはわからないと思いますが、大変なスケジュールながらも、みんなが熱を持って同じ方向を目指して最終日まで駆け抜けることができた楽しい現場でした。

BSの作品だからこそ攻めたこともできるし、監督やプロデューサーを含めて、みんながおもしろいドラマにしようと情熱を持っている現場で、「民放のゴールデン番組と戦おう」って毎日のように誰かしらが言っていたような気がします。僕らキャストも、その熱量を芝居で打ち返すしかないという気持ちでしたね。

■頭の中にずっと実々花という文字を浮かべていた

――一言で言うのは難しいかもしれないですが、ケイタを演じるうえで一番大切にしていたことはどんなことですか?

【小林亮太】実々花と出会ってからずっと、ケイタとして、頭の中に実々花という文字を浮かべているというか…。僕を応援してくださっている方も多分、勉強や仕事をしているときも、どこか頭の片隅にはずっと推しのことがあったりするんじゃないかなって。それくらい、頭の中を支配する存在が推しなんだろうと思います。

でも、現場にいるときは、極力フラットな自分自身でいるようにしました。この作品に入る直前、僕がすごく好きなお芝居をされる事務所の先輩の福山翔大くんに相談したんです。オタクの役作りとか、見ている人にオタクだとわかるアプローチってどうしたらいいんだろうって頭の中がぐるぐるしていて。そうしたら、彼が「普段の亮太でいけばいいじゃん」って言ってくれて、それがすごく腑に落ちたというか。

普段、僕は自分と近い部分を必ず探して役に挑むんですが、例えるなら自分という核があって、その周りを役作りで足していった膜が覆っているようなイメージですね。自分と離れている役であればあるほど膜が厚くなるけれど、今回はその膜を削って薄くしていった方がいいなと思ったんです。自分が日常で恥ずかしいとか嫌だったとか、悔しいってことをケイタだったら…と置き換えたりして演じました。個人的に恥ずかしい部分もあるし、大丈夫かなって思うこともありましたけど、監督がOKを出してくれたなら、と。

繊細な感情を演じなきゃいけないシーンが多かったので、どうしようって悩んだりもしました。俳優って孤独っていいますけど、改めてそれを感じて、でもこの孤独ってケイタが感じてるものと近いな、みたいな感じで自分自身とリンクさせていくことも多かったですね。

――役柄だけじゃなく芝居のアプローチとしても、今までとは違う姿が見られるドラマなんですね。

【小林亮太】そういう部分もおもしろがってもらえたり、「そういうことってあるよね、わかる」みたいに共感してもらえたりしたらうれしいなと思います。

■笑ってやり過ごすのはラクだけど…

――以前に、“子役時代に周りの空気をよくするためにニコニコするのがクセになっていたけど、それをやめるようにした”というようなことを聞いていたので、本心を表に出せないケイタに共感するところもあったのかなと思ったのですが。

【小林亮太】笑ってやり過ごすのって、ある意味ラクですからね(笑)。もちろん初対面の人やチームでの関係値を築くとか、最低限のマナーとしてやらなきゃいけない部分はあると思うんです。だから、正直でいることがすべていいわけではないけど、そういうことを続けていると自分自身が精神的にしんどくなったり、考えこむことがあるなと思うので…。

――大人になって、そのあたりのバランスが自分なりに取れるようになってきた?

【小林亮太】人っていきなりは変われないけど、日々こうやって自分の思っていることをお話しさせてもらったりとかすると、ふと浮かぶ顔とかがあるわけじゃないですか。自分がどんなことを考えて、どう感じているかに向き合う時間の繰り返しで変わっていくのかなって。

去年でいうと、ハンバーガーの連載が終わったあとくらいから、1日1ページぐらい日記をつけ始めたんですよ。あのときにこう言ってもらったとか、逆にあの人のあの行動が嫌だったってことを書き留めておくことが、生きていくうえでふと思い出せる瞬間に繋がるかなと思って。あとで見返すと、役に引っ張られていたのか、ケイタのテンションで日記を書いてる日もありました(笑)。仕事のことだけじゃなくて、現場がない時期とかも日常で感じたことをちょこちょこ書き留めていたんですよ。最近で言えば、それも自分の変化につながっているかもしれないです。

――日記を書こうと思ったのは、何かきっかけがあるんですか?

【小林亮太】お世話になっている方が誰かに勧めているのを聞いて、「僕も書きます」って言ったんです。3日坊主にならず、ちゃんと半年ぐらい書けていますね。忘れっぽいので、日々書き留めておかないとエピソードとか忘れちゃうんですよ。それを携帯に残すんじゃなくて、あえて自分の手で書く方がいいなと。それに、頭の中が整理されるから、後悔とか反省を翌日に引っ張らなくなったかも。今までも反省はしていたけど、落ち込むんじゃなくて、じゃあどうしたらいいのかっていうのをより具体的に考えられるようになったかもしれません。

――では最後に、作品にちなんで最近の推しについて教えてください。

【小林亮太】ダンス動画を見るのにハマる時期があるんですが、今、その周期がきています。最近特に好きなのがTHE D SoraKiくんというダンサー。グローバルダンスバトルイベント「Red Bull Dance Your Style」の第2回大会で優勝した方で、体から音を鳴らしてるみたいな表現がすごい。体からあふれ出るパッションみたいなものがうらやましいところもあって、すごくエネルギーをもらっています。ぜひ皆さんにも観ていただきたいです。

撮影=八木英里奈

取材・文=大谷和美

ドラマ「アイドル失格」でガチ恋オタクを演じている小林亮太