退職金の額は努力だけでどうこうできるものではありませんが、退職金の額自体は変わらなくても「手取り」を増やす方法があるのをご存じでしょうか? 本記事では、講演、執筆、個人マネー相談等で幅広く活躍するお金のプロ、頼藤太希氏・高山一恵氏による著書『1日1分読むだけで身につく 老後のお金大全100』(自由国民社)から、退職金をお得に受け取るためのポイントを解説します。

ちょっとした工夫で退職金の手取りは増やせる

退職金の額は減少傾向にあります。もっとも、そもそも退職金は支払いが義務付けられているお金でもありません。それに、政府はリスキリング( 学び直し)を通じて成長分野の人材を増やそうとしています。ひとつの会社で勤め上げて退職金をたくさんもらうという雇用の形態自体が、今後は少なくなっていくかもしれません。

しかし、退職金自体は増やせなくても、退職金の手取りを増やす方法はあります。

退職金にも所得税や住民税といった税金がかかりますが、この後で解説するように受け取り方を考えて、退職所得控除や公的年金等控除といった控除をうまく活用すると、退職金の手取りを多くすることができます。

また、再就職・再雇用時の契約で給与の一部を退職時の退職金に回して後払いしてもらったり、退職するタイミングを1日ずらしたりするだけでも税額が減り、手取りを増やせます。退職金のほかにiDeCoの資産がある場合も、どちらを先に受け取るかによって手取りが変わるのです。

このように工夫するかしないかで、退職金の手取りに百万円単位の差がつくこともありえるのです。ちょっとの違いで損することのないように学び、実践しましょう。

残念ながら退職金からも「税金」が引かれる

毎月の給与と同じように、退職金にも所得税と住民税がかかります。退職金にかかる所得税・住民税は、退職金の受け取り方によって金額が変わってきます。

退職金の受け取り方には、大きく分けて「一時金」「年金」「一時金&年金」の3種類があります。

退職金を一時金として一括で受け取るときには「退職所得」という所得になります。退職所得は分離課税といって、他の所得とは区別して課税されます。退職所得に所定の税率をかけ、控除額を差し引くことで、所得税や住民税の金額を算出します。なお、一時金の場合は社会保険料の負担がありません。

退職金を年金で受け取る場合は「雑所得」という所得になります。雑所得は、他の所得と合わせての総合課税。雑所得に所定の税率をかけ、控除額を差し引くことで、所得税や住民税の金額を算出します。また、年金で受け取る場合は社会保険料もかかります。

退職金を一時金&年金で受け取る場合は、一時金の部分は退職所得、年金の部分は雑所得として税金を計算します。

「一時金」か「年金」か…損しない退職金の受け取り方

退職金を「一時金」「年金」「一時金&年金」で受け取った場合の手取りはどう違うでしょうか。「2,000万円を一時金で受け取った場合」「2,000万円を年金で受け取った場合」「1,000万円を一時金、1,000万円を年金で受け取った場合」の3パターンのシミュレーション結果が下の表です。

収入の合計が「額面合計」、そこから税金・社会保険料を差し引いた金額が「手取り合計」です。額面合計が最も多いのは年金受取ですが、手取り合計が最も多いのは一時金受取です。退職所得控除の税優遇が大きいため、手取りを増やしたいならば一時金がいい、というわけです。

退職金の額が退職所得控除より多い場合は、退職所得控除の金額までは一時金で受け取り、残りは年金で受け取る「一時金&年金」を利用すれば、退職所得控除も公的年金等控除も活用しながら税金を減らせます。

一方、「一度に大金を手にすると無駄遣いしてしまいそう」ならば年金受け取りも一案。一定額ずつ振り込まれるので無駄遣いもしにくくなりますし、会社の運用によって額面の総額も増やすことができます。

退職日が1日違うだけで損をすることも!

退職金を一時金で受け取るときに利用できる退職所得控除の金額は、勤続年数によって変わります。この勤続年数は「年未満の端数」を切り上げて計算します。

たとえば、22歳から60歳まで、38年間にわたって1つの会社に勤めてきた方の場合、退職所得控除は800万円+70万円×(38年−20年)=2060万円となります。しかし、退職日を1日のばして「38年と1日」で退職すれば、勤続年数は「39年」とカウントされます。そのため、退職所得控除は800万円+70万円×(39年−20年)=2130万円となります。

勤続年数20年超の退職所得控除の金額は、退職日の1日の違いで70万円変わるのです。20年以下で退職した人の場合も同様の考え方で、1日の違いで40万円変わる可能性があります。

退職所得控除の金額が退職金よりも多ければ、退職金に税金はかかりません。退職金に税金がかかりそうという人は、会社に退職日をずらせないか相談してみるといいでしょう。  

頼藤 太希 株式会社Money&You 代表取締役

高山 一恵 株式会社Money&You 取締役

※本記事は『1日1分読むだけで身につく 老後のお金大全100』(自由国民社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。