日本にある約386万社の企業のうち、7割超を占める「非上場オーナー企業」。対峙する業界・競争立地・競争環境はさまざまですが、共通した経営課題を抱えているといいます。本稿では、企業の経営変革を支援する株式会社TS&Co.の創業者兼代表取締役グループCEOである澤拓磨氏が、非上場オーナー企業ならではの経営課題について概観します。
非上場オーナー企業とは何者か
結論から述べると、ここでいう非上場オーナー企業とは日本企業368万4,049社のうち266万1,434社(日本企業全体の約72%)を占める企業である。以下、内訳をみていこう。
・令和5年6月27日に総務省・経済産業省が公表したデータによると、現在、本邦企業経営界では368万4,049社が活動している ・うち、日本取引所グループの2024年1月29日時点における集計データによると、上場企業数が3,930社。従って、非上場企業数は368万119社 ・うち、では、非上場オーナー企業266万1,434社とは、どのような企業か。
代表的な企業としては、
いずれも、上場企業たる水準を大きく上回る事業規模を誇るものの、各社固有の戦略的背景に基づき、非上場オーナー企業として事業を展開している。例えば、YKK株式会社では、非上場オーナー企業で在り続ける戦略的背景を以下の通り説明している。
・YKKグループの連結売上高は2023年3月期で9,000億円弱の見込みだが、YKK(ファスナー事業)もその子会社であるYKK AP(建材事業)も株式を上場していない ・創業者の𠮷田忠雄氏は、株式を「事業への参加証」ととらえ額に汗して働く社員こそ株を持つべきだと説き、現在、YKKの筆頭株主は従業員持ち株会である「YKK恒友会」で発行済み株式の2割強を保有している。社員が給与の一部を拠出し株購入に充てるもので、社員にとっては給与や賞与に加えて配当も収入になる。1人が1度に拠出できる限度口数が決まっており、給与の多寡にかかわらず皆平等。社内預金と同様、社員には資産形成の手段、会社には設備投資の原資確保の手段になっている ・YKKは、資金面(社内預金制度や社員持ち株制度を設け社員に貯蓄を促し、会社に集まった資金を設備投資に充当。実質無借金経営を続けており上場し資金調達をする必要性を感じない)でも、上場による知名度や信頼度の向上面でも株式上場が必要とは考えていない ・ただし、非上場でも企業統治(コーポレート・ガバナンス)は上場企業並みを意識。1999年には経営の執行と監督を分離する執行役員制度を導入。日本企業で初めて採用したとされるソニー(現ソニーグループ株式会社)の2年後で、上場企業と比較しても早いほうといえる ・2003年には社外取締役制度を導入、2008年には社外取締役2人を含む任意の指名・報酬委員会を導入。また、社長を含む執行役員の上限年齢を65歳とする内規を定め、社長自身の任期に制限を設けた。日本を含む72ヵ国・地域に拠点をもつYKKグループを経営していると、世界中の思想・宗教・文化等さまざまな考え方に触れることになり、多様性を受け止めて共存していくには自らを律すること、さらには公正であることが必要と考えているなお、ここではあえて分かりやすく代表的な非上場オーナー企業を事例に挙げたが、非上場オーナー企業266万1,434社の大多数は年商10億円未満の企業だ。そして当然ながら、
非上場オーナー企業ならではの典型的な 経営課題とは何か
非上場オーナー企業266万1,434社とは何者かを明らかにするため、次に、非上場オーナー企業ならではの典型的な経営課題とはなにかを考察する。
前述の通り、
昨今の潮流として、事業承継はイメージしやすいかもしれない。
ここでいう事業承継とは、事業を承継するためにM&A(合併・買収)等を活用するオーナー主導のコーポレート・アクションを指す。
過去、筆者がコンサルティングに携わった案件では、オーナー兼社長自体の年齢はまだ40代と若かったものの、
しかしながら、ご多分に漏れず後継者がおらず、
矢野経済研究所が算出したデータでは、2035年まで中小企業において事業承継を企図する社数は増え続け、2025年に92,175社、2030年に94,655社、2035年95,234社を見込む。
2035年には、非上場オーナー企業266万1,434社中95,234社と、実に3.5%の企業がこの課題と向き合うことになる。経営者の高齢化や後継者不在に
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