世界中で開発される戦闘機は数多くありますがグレー主体の色が多い印象です。しかし自衛隊F-2ダークブルーという一見すると鮮やかにも思えるほどの色彩をまとっています。なぜなのでしょうか。

F2のカラーはなぜ青色なの?

世界中で開発される戦闘機は、数多くあります。しかし2024年現在、北大西洋条約機構(NATO)の構成国を中心とした、いわゆる西側諸国のほとんどは、視認性が低いといわれるグレーもしくはダークグレーのロービジ塗装になっています。

そうした中において、同じ西側陣営である航空自衛隊が運用するF-2戦闘機はダークブルーという一見すると鮮やかにも思えるほどの色彩をまとっています。この世界的にも稀なブルーの戦闘機にはどのような意味があるのでしょうか。青い戦闘機の歴史を追ってみましょう。

兵器として使用され始めたころの航空機は、実にさまざまな色に塗装されていました。史上初めて戦闘機が運用されるようになった第一次世界大戦では、自らを誇示する意味を込めて、赤や黄色など派手なカラーに塗装するパイロットも数多くいました。

しかし、一般的には空中での戦闘においては、先に戦闘機を発見した方が戦闘を有利に進めることができるというセオリーがあり、各国軍では、戦闘機をなるべく目立たなくする努力を行っていたようです。

第二次世界大戦が始まると、太平洋が主戦場となったアメリカ海軍戦闘機は、機体上面を濃紺、胴体の中央部をブルーグレー、下面を白色で塗装した戦闘機を導入しました。

これは、上空から見れば、戦闘機の濃紺は洋上に融け込み、下面から見れば、大空の青に溶け込みやすくなる塗装で、自然界においてもペンギンや魚の多くが同様のカラーをしている、理にかなったカラーリングです。 このアメリカ海軍の行った塗装は、非常に効果的だったようで第二次世界大戦の後半まで続けられました。その後は、機体の上面と下面を判別しにくくするという効果を狙って、機体全面をダークブルーに塗装するようになりました。

東西冷戦の時代に突入すると、アメリカ海軍戦闘機は「核爆発の熱線にも強い」といわれるガルグレーの塗装に統一されていきます。各国の戦闘機も洋上で対艦攻撃を担当する戦闘機(戦闘爆撃機)であっても、地上の攻撃を兼任することが多く、陸上で目立ってしまうため、洋上での飛行に特化したような塗装を行う国はなく、青色の戦闘機は現れませんでした。

対艦任務のために青色を研究し続けた自衛隊

しかし、青い戦闘機を研究し続けていた国がありました。それが日本です。航空自衛隊では1970年代、戦後初の国産戦闘機であるF-1支援戦闘機を開発しました。このF-1は、洋上を海面すれすれに飛行しながら敵艦艇のレーダーをかいくぐって対艦ミサイルを投下するという対艦攻撃任務に特化した戦闘攻撃機です。

実際に運用されたF-1は緑と茶の迷彩でしたが、運用開始後も、制式採用には至りませんでしたが、茶色部分を青色に塗り替えたF-1が試験的に運用されるなど、洋上迷彩の研究が続けられていたといわれています。

その研究が結実したのが、F-2戦闘機の登場です。F-1戦闘機の任務を引き継ぐ形で運用が開始された同機は、機体をダークブルーとブルーの2色に塗り分けられて登場し、世間を驚かせました。

同機は対艦ミサイルを最大4発搭載可能という、諸外国からみても、特に対艦攻撃任務に特化した多用途戦闘機(マルチロール機)となっています。そのため、日本の海の色に非常に溶け込みやすい塗装がほどこされており、実際に同機が飛行する洋上を上空から見ると、F-15F-35などほかに航空自衛隊が保有する戦闘機よりもかなり視認が難しいとのことです。海面すれすれを飛行しレーダー網をかいくぐり、敵艦艇に対艦ミサイルを撃ち込むというF-2の任務には適しているカラーリングといえます。

ただし、この洋上迷彩も完璧とは言えません。F-1と同じく、F-2の主任務は対艦攻撃ではあるものの、空対空戦闘、対地攻撃を行うこともあり、洋上だけが戦場ではないからです。

また、近年ではレーダーによる索敵範囲も広がり、空中警戒管制機などによりレーダー網の穴も少なくなっていうことから、カラーリングにより目視での発見を避けるよりも、レーダー波吸収材を含んだステルス塗装の方が重要になっているとも言われています。

しかしそれでも、海に囲まれた日本で、洋上での対艦戦闘を主任務と想定しているF-2にとっては、海の色に溶け込むカラーリングである、「サムライブルー」ともいえるこの青色が非常に重要なのです。

ちなみに、このF-2のカラーリングを「洋上迷彩」と文中でも表記していますが、この用語はアメリカ海軍でも自衛隊でも使用されておらず、どうやらF-2の部隊配備とおなじころに航空雑誌などの記事の中から生み出された言葉のようです。さらにロシア軍機に関しても青色をベースとした迷彩パターンを使うことがありますが、こちらは空の色との識別困難性を重視して施されているものとなっています。

航空自衛隊のF-2戦闘機(画像:航空自衛隊)。