大事件ばかりがニュースではない。身近で巻起こった仰天ニュースを厳選、今回はラブホ従業員に聞いた裏側に注目し反響の大きかったトップ3を発表する。第1位の記事はこちら!(集計期間は2023年1月~2023年12月まで。初公開2023年5月4日 記事は取材時の状況)
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 元ラブホ従業員の和田ハジメと申します。およそ6年もの間、渋谷区道玄坂にあるラブホテルにて受付業務および清掃業務に従事してきました。

 ラブホの従業員と聞くとなんとなく暇そうな印象を抱く方も多いことかと思われますが、筆者が働いていたのは都内でも屈指の繁華街であり、なおかつ近隣他店と比較しても相当にリーズナブルな価格帯でお部屋を提供している激安店。

 多少の繁閑差こそあれど、基本的にはせわしくお客様の応対に追われる日々を過ごしてきました。そして土地柄からか、“お行儀の悪い”お客様もかなりの頻度で来店され、トラブルを引き起こすこともしばしば……。

 そこで今回は、元ラブホ従業員である筆者が遭遇した迷惑客というテーマで少しだけお話をさせていただければと思います。

◆迷惑客①:客室備品を盗むお客様

 ラブホ従業員の間ではあるあるなのかもしれませんが、とにかく客室備品はよく盗まれます。とりわけタオルやバスローブは盗まれる備品の代表格。

 上述の通り筆者が勤めていたところは激安店であり、備品のクオリティは推して知るべしといったところなのですが、それでもやはりしれっと持ち帰る方が相当数いらっしゃいます。

 とはいえ、​​タオルやバスローブの盗難はまだマシなほう。こちら側も盗まれることを見越して常にストックを用意していたので、それらが盗まれたからといって客入りが滞るといったことはまずありませんでした。

◆全客室の“エアコンのリモコン”が行方不明

 これまででいちばん困った盗難品は“エアコンのリモコン”です。

 盗まれた日はある年の夏の盛り。ふらっと訪れた真面目そうな若い男性が、なんと2階の全客室からエアコンのリモコンを盗んで退室されました。

 当初は気づかなかったものの、ほどなくして2階の客室に入室されたお客様の「エアコンのリモコンがないんだけど!」というクレームによって発覚。予備のリモコンの用意もなかったため、客室はまるで蒸し風呂状態。お客様に全額返金し、お部屋を後にしていただきました。

 多くのラブホテルは利用客の性質上、宿泊者名簿を記入することなく利用できる施設であることは皆様ご存じのことかと思われます。その匿名性が盗難に対する心理的なハードルを下げるのか、激安店だから何をしても許されるという思い上がりなのか、はたまたラブホの備品を収集してる好事家の方が想像以上に多く存在しているのか……。

 真意はわかりかねますが、客室備品を盗むことはれっきとした犯罪行為。そもそも受付には監視カメラが設置されているので、犯人を割り出すのは容易いこと。その気になれば、損害賠償だって請求できてしまう。

 率直に申し上げます。いくらラブホだからってカジュアルに物を盗るのはやめてくれ(笑)。

◆迷惑客②:ダイナミックに客室を利用する常連のお客様

「安かろう悪かろう」を体現している筆者の元職場。

 雰囲気やサービスにこだわらず、ただ“やるだけの部屋”として利用したい方にとってはまさにうってつけの場所だったと思います。そのため、お客様のおよそ8割が女性をデリバリーしてもらうための場所として利用しており、リピーターの方も一定数おられました。

 そんな常連客の中でも筆者にとって“悪い意味で印象深い”のが「ダイナミックに客室を利用するお客様」。詳細は後述しますが、スタッフの間では通称“黄猿”と呼ばれていました。どことなく動物園の猿を彷彿とさせる顔つきで、身につけているアイテムは基本的に黄色のものが多かったんです。

 また、いつも小脇に本を抱えており、大体は「自己啓発書」か「少年ジャンプ」でした。

◆黄猿の“猿”たる所以

 かなり個性的な人物である“黄猿”ですが、なにも外見的な特徴だけでそう呼んでいる訳ではございません。

 黄猿の本当に“猿”たる所以は別のところにございます。

 まず、週5のペースで来店してくる(笑)。それも毎回、デリバリー利用。週7で来店されたこともございます。1日で複数回利用することも珍しくなく、同じ日に4度来店されたことも。嬢を出口まで送った直後に踵を返し、再び受付で会計を済ませて入室した姿を見た時は、なんといいますか、尊敬の念さえ抱きました。

◆客室の家具を勝手に移動させる

 さて、そんな黄猿ですが、本当に迷惑な客でした。

 金払いはいいし、客室に長く居座ることもない。仮に利用時間を超えたとしても、文句を言わずに延長料金を支払ってくれる。そこだけ見れば優良客なのですが、その長所を持ってしても補いきれないほどの欠点が黄猿にはありました。

 黄猿はとにかく、“客室の家具を勝手に移動させる”のです。

 サイドテーブルを浴室に、ソファーを客室のど真ん中に、そしてベッドを玄関先に移動させるのが黄猿の基本的なスタイル。どう考えても自分ひとりで移動させているようには思えず、おそらくは嬢と協力していたのでしょう。女性との共同作業に興奮を覚えるタイプなのか、はたまた先進的な感性をお持ちなのか、とにかく後始末が面倒。

 何度か口頭で注意しても「すみません」の一言で済ませ、その次も平然とやらかす。常連中の常連とはいえ、正直とても迷惑なお客様でした。

 それともう一つ。黄猿はいつもバイクに乗って来店するのですが、いつも入口の前に駐車するので本当に邪魔でした。一度黄猿のバイクが駐禁を切られる瞬間を目撃したときは、思わず笑みがこぼれてしまいましたね(笑)。

◆迷惑客③:電気ケトルで“尿を沸かす”女性のお客様

 酔っ払った勢いでそのような行為に及んだのか、それともただの好奇心なのかは知る由もありませんが、電気ケトルで“尿を沸かした”お客様がいらっしゃいました。

 文面だと笑い話の範囲に留まってしまうのが悔しいところ。安直な例えですが、まるで化学兵器かと疑ってしまうほどに強烈な悪臭を放っていました。今でもトラウマとして、電気ケトルを見ると嫌な思い出がよみがえってきます。

 犯人は女性のお客様でした。夜中に一人で来店され、そのまま宿泊して退室された、特別変わった様子は見受けられない方でした。

◆悪臭には慣れているはずの清掃スタッフが…

 しかし女性客の退室後、清掃を担当していた外国人スタッフが部屋に向かうや否や、すぐさま受付に戻ってきて筆者に助けを求めてきました。

 その時スタッフが涙声で発した「クサイ……」という言葉。悪臭には慣れているはずのスタッフが音を上げるほどの緊急事態。これはただごとではないと察知し、急いで筆者も問題の客室に向かいました。

 ドアを開けると、まるで宿泊した形跡が見受けられないほどに整えられた客室。そしてその空間とは不釣り合いな刺激臭……。サイドテーブルに置かれた電気ケトルはまだ生暖かく、中身を覗くと琥珀色の液体が……。

 客室にこびりついた臭いは半日かかっても取れず、結局その日は使用禁止に。もちろん電気ケトルは早急に処分しました。

 ところで、今になって思い返してみると、なぜ部屋があんなに綺麗だったのかが気がかりです。入浴も就寝もせず、ただ電気ケトルで尿を沸かすためだけに客室を利用していたのなら、それは相当に不気味だなと思いました。迷惑であることには変わりはないのですが(笑)。

<文/和田ハジメ>

【和田ハジメ】
およそ6年にわたり、渋谷区道玄坂の激安ラブホにて受付業務および清掃業務に従事。繁華街で様々な人間を見てきた経験をもとに、迷惑客の存在やスタッフの裏事情などをテーマに執筆(していく予定)。

※写真はイメージです