自宅でお店のようなコーヒーを飲みたいと思っている人も多いのではないでしょうか? 奥が深いコーヒーの世界……少しの工夫でいつものコーヒーがさらに美味しくなるかもしれません。家庭でも挑戦できる美味しいコーヒーの淹れ方について、著書『至高のコーヒーの淹れ方』(エクスナレッジ出版)より、畠山大輝氏が解説します。

美味しいコーヒーを淹れるのに重要なアイテム

コーヒーを淹れるには、そのための器具や道具が必要です。ここではまず、それらのアイテムについて解説しましょう。

器具の中でも特に重要なのが、お湯を注ぐためのドリップポットです。ドリップポットは、お湯の注ぎ口の太さや形状によって、ドリッパーへのお湯の注ぎやすさが大きく変わってきます。

まず、注ぎ口の太さですが、当然、口が細い方がお湯を細く、ゆっくりと注ぐのに向いています。コーヒーの粉面の狙ったところにお湯を落とすといったコントロールもしやすくなります。

半面、口が細いと、お湯を太く注ぐことはできません。一方、太い口であれば、太く注げるのはもちろん、練習をすることで細く注ぐこともできるようになります。これからいろいろな抽出法をやってみたいという人は、練習覚悟で、やや太めの注ぎ口を持つドリップポットを選ぶというのもいいでしょう。

次に、注ぎ口の形状ですが、口が下のほうに向いているものと、上で切れたような形をしているものがあります。口が下のほうに向いているものは、真下に近い方向にお湯が落ちていくイメージ、上で切れた形のものは、口の先から放物線を描くようにお湯が落ちていくイメージです。この落ち方の違いによって、ドリッパーの中でコーヒーの粉が攪拌されるときの具合が変わってきます。

ドリップポッドの注ぎ口の太さや形状に注目

注ぎ口が細いタイプは、細いお湯をゆっくりと注ぐことができます。口先が下のほうに向いていると、粉面に対して垂直に近い角度でお湯を落とすことができます(写真1はCAFECの「Tsubame」)。

こちらは注ぎ口が途中で切れているタイプ。上のタイプに比べると、お湯が注ぎ口からやや放物線を描いて粉面に落ちていくイメージになります(写真2はボナヴィータの「グースネック」)。

持ったときに重く感じないポットを選ぶ

私がふだん使っているのは、ボナヴィータの「グースネック」というポットと、CAFECの「Tsubame Pro」というポットです。「グースネック」は、注ぎ口は細めですが、注ぎ口の形状は上で切れているタイプです。IH機能付きの電気ケトルで、1Lのお湯を沸かせます。90℃、88℃、85℃、83℃など、抽出する目的に応じて湯温を1℃単位で設定でき、そのままの湯温で保温も可能です。

一方、すごく細くゆっくりと、コーヒーの粉にお湯を載せていくようなイメージで抽出するときは、「Tsubame Pro」を使います。こちらは、超細口ともいえるタイプで、今まで私が使ったドリップポットの中で、これがいちばん細く抽出できるのではないかと思います。

もちろんこれら以外にも、ハリオ、メリタ、カリタといったおなじみのメーカーからも、使いやすいドリップポットが出ています。先述した注ぎ口の太さや形状などをチェックしつつ、まずは1つ、ドリップポットを手に入れてみてください。道具は、使っていくうちにだんだんその個性に慣れてきて、自分なりに使いこなせるようになるものです。

選び方で1つ付け加えるなら、ポットの「重さ」を確認すること。すごくかわいい見た目にも関わらず重たいポットも存在します。それだと、ハンドドリップしていてもその最中に手がくたびれてしまい、最後までコントロールするのが難しくなります。

選ぶ際は、できれば店頭で実物を持ってみること。それができなければ、せめてカタログで重量を確認して、自分が片手で無理なく持てる重さかどうかを検討しましょう。

ドリッパーの形や素材で味が変わる

次に必要なのが、ドリッパーペーパーフィルターです。ドリッパーには、「基本のレシピ」で紹介した円すい型のほかに、台形型や円筒型など、いろいろな形のものがあります。使われる素材も、樹脂や陶器、ステンレス、ガラスなど多岐にわたります。こうした形や素材の違いがコーヒーの粉の撹拌やお湯の抜ける速さ、ドリッパー内の湯温などに影響を与え、それによってコーヒーの味わいが大きく変わってきます

ペーパーフィルターは、ドリッパーの形やサイズに合ったものを選ぶ必要があります。お互いの形や角度、サイズがフィットしていないと、正確な抽出はできません。また、酸素漂白されているペーパーと無漂白のペーパーで紙の匂いに違いがあったり、紙の表面加工によって粉の目詰まり具合に違いが出たりする場合があります。

コーヒーサーバーもあったほうがいいアイテムです。ドリップしたコーヒーの量や色がわかりやすいガラス製や樹脂製の透明なタイプが定番です。透明感のある美しさでいえばガラス製、日々使ううえでの耐久性の高さで言えば樹脂製がおすすめです。

 

コーヒースケールが必須なワケ

コーヒースケールは、豆やお湯の量だけでなく、ドリップ中の経過時間(秒)も確認できるはかりです。差し当ってはキッチンスケールとキッチンタイマーなどでも代用できますが、いずれはコーヒー専用のスケールを手に入れることをおすすめします。専用品は高精度で反応速度が速く、より正確にコーヒーを抽出することができます。

コーヒー豆を挽くためのミル(グラインダー)は、手動式(手挽き)と電動式がありますが、それぞれピンからキリまで価格差が大きく、豆を砕く刃の作りなどの仕様がコーヒーの味を左右するので、しっかりと選ぶ必要があります。

メジャーカップは豆をすくうためのスプーンです。ドリッパーに樹脂製のタイプが付属しますが、こだわるのであれば、真ちゅうやステンレスのタイプを選ぶこともできます。

キッチン温度計は、お湯の温度を測るために使います。コーヒーを淹れるときのお湯の温度は味や香りに大きく影響を与えるので、正確に測れることはもちろん、お湯に差したときに温度が素早く表示されるもの、温度の目視がしやすいものを選びましょう。

ペーパーフィルターに2回湯通しをする理由

ここからは淹れ方の基本を解説します。

ドリッパーにペーパーフィルターをセットしたら、コーヒー粉を入れる前にペーパーにお湯を回しかけます。これはペーパーの原料となるパルプや木材に由来する匂いを取るための作業。いわばペーパーの湯通しともいうべきプロセスです。

この匂いは、人によって感じ方が違うので、特に気にならないという人は、この工程を省いてもらっても構いません。ただ、作業自体はそれほど大変なことではないので、「ちょっと匂いが気になるな」と感じる人は行ったほうがいいでしょう。私の場合は、1度お湯が落ちきった後にもう1度お湯をかける、合計2回の湯通しを行っています。

これを行うことで、ドリッパーの中でペーパーフィルターが安定するほか、ドリッパーやサーバーを温めておけるというメリットもあります。

特にドリッパーは、あらかじめ温めておくことで、抽出する際のお湯の熱がドリッパーに奪われにくくなるので、意図した湯温で抽出することができます。

コーヒー粉は平らにならしてから蒸らす

ペーパードリップでは、1投目にコーヒー粉の蒸らしを行います。蒸らしのお湯の量は、使うコーヒー粉の倍量が目安。私の「基本のレシピ」の場合、粉量が15グラムなので、その倍量の30ccのお湯を蒸らしに使います。

蒸らしのお湯をかけて30秒待つ間に、コーヒー粉の中にあるガスが抜け、2投目以降のお湯がコーヒー粉の1粒1粒にしっかりと浸透しやすくなります。

蒸らしで大事なのは、コーヒー粉にお湯をまんべんなくかけること。粉の1部が濡れて、1部が乾いているようでは、2投目以降の抽出にばらつきが出てしまいます。

さらに、蒸らしのお湯を投入する前に、コーヒー粉を平らにしておくことが大切です。ドリッパーを振ったり、側面をトントンと叩いたりして、表面をならしましょう。その際、強く振ったり叩いたりするのはNG。豆を挽いたときに出る「微粉」が粉の層の下に集まって、ペーパーの目を詰まらせる原因になります。あくまでやさしく、ふんわりとしたコーヒー粉のベッドを作ってやるイメージで行いましょう。

お湯は真ん中を多め、外側を少なめに注ぐ

私の「基本のレシピ」では、コーヒーの粉面にお湯を注ぐときは、真ん中を多めに、外側を少なめにします。

最初に粉面の中心からお湯を注ぎはじめ、だんだん外側へと円を広げるように注ぎ、外側までいったらまた中心に向かって円を狭めていきます。1投目の蒸らしから3投目までは、基本的にこの動きを繰り返します。4投目以降は円の大きさを少し小さく、500円玉程度にします。

これは、コーヒーの粉の層が中心にいくほど厚く、外側にいくほど薄くなる円すい型のドリッパーを使用しているためです。台形型ドリッパーや円筒型ドリッパーなど、使うドリッパーの形状によっては必ずしも当てはまらない場合もあります。

そのほか、お湯を注ぐ回数や、注ぐときのお湯の太さ、粉面に対するお湯の角度などによっても、コーヒーの味や香りは変わってきます。

 

お湯を注ぐ回数と時間で味をコントロール

ドリップのお湯を、何回に分けて注ぐかも、コーヒーの味に影響を与えます。

例えば、私の「基本のレシピ」の場合、15グラムのコーヒー粉に対して、合計230ccのお湯を注ぎますが、蒸らしに30ccを注いだ後に、残りの200ccを1回で注いだ場合と、5回に分けて注いだ場合とでは、コーヒーの味や香りはかなり変わってきます。

これは、コーヒーの粉から溶け出す成分が時間の経過ごとに変わってくることと、お湯が注がれるたびに粉が撹拌されることで「抽出力」が上がることが原因です。

これに加えて、抽出を行うトータル時間も、味や香りの違いの決定的な要因になります。

簡単に言えば、時間が短ければあっさりした味、時間が長ければ濃厚な味といったところですが、「おいしさ」という意味ではそう単純なものでもありません。

ちょっと複雑に感じるかもしれませんが、ここがコーヒーのおもしろさの核心とも言える部分なので、ぜひついてきていただければと思います。

サーバーの中で楽しむアロマとは

抽出が終わったら、いよいよコーヒーを味わいましょう。

いきなりサーバーからカップに注いではいけません。ドリッパーからサーバーに落ちたコーヒーは、はじめのほうに抽出された濃度の高い液と、後から抽出された薄めの液が層になった状態で溜まっています。それらをしっかり撹拌して、濃度を均一にしてあげることで、ようやくおいしいコーヒーの状態になるのです。特に多めの分量を淹れたときには、しっかりと撹拌するようにしましょう。

やり方は簡単です。サーバーを持って水平にクルクル回した後に少し傾ければOK。ワインに空気を含ませるためにグラスを回転させますが、あれと同じ要領です。そのほか、スプーンなどを使って混ぜてやるのもいいでしょう。

サーバーを持ってクルクルと水平方向に回転させ、最後に少し傾ければ濃度が均一化します。コーヒーに空気を含ませるような感じで撹拌しましょう。

もう1つ、カップに注ぐ前におすすめしたいのが、撹拌後にサーバーから立ち上るアロマを楽しむことです。口に含んだときのフレーバーとは異なる、繊細な芳香を鼻で感じてみてください。上手に淹れたコーヒーは、きっといいアロマを感じることができます。

カップにコーヒーを注ぐ前に、サーバーの口から立ち上る淹れたてのアロマを楽しみましょう。サーバーはカップに比べてより強くアロマを感じることができます。

畠山 大輝

Bespoke Coffee Roastersオーナー

コーヒー焙煎士/コーヒー抽出士

(※写真はイメージです/PIXTA)