宮藤官九郎が脚本を手掛け、阿部サダヲが主演を務めるドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系、金曜よる10時~)が1月26日から放送開始された。1986年に暮らす中学校の体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)が主人公の本作。ある日バスに乗った市郎は、2024年にタイムスリップしてしまった。



画像:TBSテレビ『不適切にもほどがある!』公式サイトより



 こんな流れではあるが、SFが主題の作品というわけではなさそうだ。昭和の価値観を持つ中年男性が令和の価値観とぶつかりながら、“今の時代”を生きる人たちの生き辛さに荒々しく寄り添うヒューマンドラマとなっている。


◆昭和のやばさを全力で表現する阿部サダヲ
 1話の冒頭から、市郎は自身の娘・純子(河合優実)を起こす際に「起きろブス! 盛りのついたメスゴリラ」と叫ぶ姿を見せる。学校では、顧問を務める野球部の練習中に水を飲んでいる部員に「練習中、水飲んでんじゃねぇよ。バテるんだよ、水飲むと」と指導したり、「連帯責任だ」と言って部員たちを並べて“けつバット”したり、教室内で喫煙したりなど、現代では考えられない言動や行動をいくつも披露。




 そんな市郎は令和時代でも、バスの中で喫煙したり、コンビニで煙草を買う際に番号ではなく銘柄を叫び続けて店員を困惑させたりなど大立ち回り。市郎のやばさ、もとい昭和のやばさをまざまざと見せつけられた。しかし、後半では令和もなかなかにやばい時代であることが顕在化される。


◆令和の“極悪非道なハラスメント上司”とは
 市郎は一度令和に行った時に気になったシングルマザー・犬島渚(仲里依紗)に会うため、再びタイムスリップする。その後1人で居酒屋に行くと、隣の席では会社員の男性・秋津(磯村勇斗)が、上司の田代(咲妃みゆ)と鹿島(菅原永二)から責められている様子を偶然目撃。




 具体的な会話内容は、秋津が後輩女性・加賀(木下晴香)にパワハラしたことを咎めるというもの。加賀は秋津から「期待してるから頑張ってね」と声をかけられたことが精神的な負担になり、「パワハラを受けた」と主張しているらしい。さらには、スマホの入力が速いことから秋津に「速いね、さすがZ世代」と言われたことにもメンタルを傷つけられたようだ。これらの“凄惨なハラスメント”被害から、加賀が裁判の準備を進めていることを秋津は聞かされる。


◆「ハラスメント」「時代」で思考停止していないか
 田代は「こういう時代だから褒める時も言葉選ばないとね」と諭すが、ハラスメントをしていた自覚がなかった秋津は動揺を見せる。


 そんな中、隣の席にいた市郎が突如「どういう時代?」と会話に割って入ると、田代は「多様性の時代です」とお手本通りの回答。しかし、市郎は「『頑張れ』って言われて会社休んじゃう部下が同情されてさ、『頑張れ』って言った彼が責められるって何か間違ってないかい?」「だったら彼は何て言えば良かったの?」と止まらない。




 これに田代は「何も言わなきゃ良かったんです」「ミスしても決して責めない。寄り添って一緒に原因を考えてあげれば彼女の心は折れなかった」と“ベストアンサー”を口にするが、市郎は「気持ち悪」と一蹴。「『頑張れ』って言われたくらいでくじけちゃうようじゃ、どっちみち続かねえよ」と続けると、田代は「そういう発言が今一番まずいの」と声を荒げる。


 しかし、市郎から「『そういう発言が今一番まずいの』ってヒステリックに叫んで話終わらせるのはいいの? 何ハラだかにはなんないの?」と言い返されると、「ハラスメント」や「時代」という言葉を盾に言葉を並べてきた田代たちは、逆にその盾を向けられためにそれ以上は反論できずに口を紡ぐしかなかった。


◆「論破」で終わりにしない展開が気持ち良い
 田代と鹿島は居心地が悪くなりその場を去ろうとするが、秋津は「話し合いましょう、たとえわかりあえなくても」と歌い出す居酒屋は急にミュージカルステージとなり、秋津は話し合うことの必要性、さらに田代は組織に期待せずに心を殺して働いている現在の心境を歌に乗せて吐露。“開演”した時は困惑していた市郎だったが「我慢しなくたっていいだろ、『幸せだ』って言いづらい社会、なんかおかしくないかい?」と歌い、「『幸せだ』って叫ぶ俺の価値観も認めてくれよ」と訴える。


 ひとしきり歌って満足した秋津は「話してもラチがあかないんだから歌ってもダメですよね」と急に絶望感をポツリ。すると“パワハラ被害者”の加賀が登場。彼女も歌に乗せながら、秋津から優しい言葉ばかりをかけられ、叱ってもらえなかったことが苦しかったと話す。それを聞いた秋津は「それは言ってくれないとわからない」と言って笑顔を浮かべ、「話し合えて良かった」と本音をぶつけ合えたことに満足する様子だった。


 根性論で上から従わせる昭和、過剰な配慮が求められて腫れ物に触るように接しなければいけない令和。どちらが正しいか間違っているかではなく、結局はいつの時代も話し合わなければいけない。市郎が田代を論破するような展開になったが、ただただ田代を言い負かして終わりにするのではなく、何が人付き合いで大切なのかを示す内容で見ていて気持ち良かった。また、ミュージカルの中で言いたいことを主張するため、説教くさくなくなかった点もさすがの一言。


 市郎がこれからどのように令和の問題点を浮き彫りにして、生きやすい社会を築くためのヒントを示していくのか期待したい。


<文/望月悠木>


【望月悠木】フリーライター。主に政治経済社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki



画像:TBSテレビ『不適切にもほどがある!』公式サイトより