ドイツ

ドイツでは、極右政党が伸張したり、それに反対する市民のデモが広がったり、農民が補助金削減に反対してトラクターを繰り出して抗議活動を行ったり、社会に混乱が拡大している。

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■AfDの勢力拡張

ドイツでは、2013年に発足した極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢いを増している。移民排斥などの過激な主張を展開しているが、昨年6月にはチューリンゲン州のゾンネベルク郡でドイツ初のAfDの郡長が生まれた。次いで7月には、ザクセン・アンハルト州ラグーン・エスニッツの町長選でAfDの候補が当選した。12月にもザクセン州ピルナでAfDの市長が誕生した。

これらの自治体は、いずれも旧東ドイツにあり、旧西ドイツよりも貧しく、住民の不満が高く、それがAfDの支持につながったようである。アメリカで繁栄から取り残された地域の貧しい白人の労働者が、トランプを支持した状況に似ている。

AfDは、地方自治体で行政の長のポストを獲得したのみならず、地方議会の選挙でも躍進している。10月には、旧西ドイツヘッセン州バイエルン州で勢力を拡大した。

最近の世論調査では、野党CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)に次ぐ第二党に躍り出て、ショルツ首相与党のSPD社会民主党)は第3位に甘んじている。それだけ、ショルツ政権の人気がないということである。難民の急増、インフレの高進が原因である。

 

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■農民の反乱

今のショルツ政権は、SPD、緑の党、FDP(自由民主党)の連立政権である。中道左派のSPDに加えて、環境保護政党の緑の党がメンバーであるために、地球温暖化対策に熱心である。

そこで、原発を廃止し、再生可能エネルギーに切り替えた。これまでは、安価なロシア産天然ガスを輸入し、それがドイツ経済を支えてきた。しかし、ウクライナ戦争のためにロシア依存を止めざるをえなくなり、電気代をはじめエネルギー価格の高騰を招いた。

政府はエネルギー政策の一環として、農業用ディーゼル燃料の税控除廃止など補助金の削減を決めたのである。それでなくても、インフレで生活が苦しくなっている農民が怒って、12月になってベルリンをはじめ各地で道路をトラクターで塞ぐなどして抗議活動に出たのである。その政府批判に乗じて、AfDが勢力を拡大している。農民の中には、あからさまにAfD支持を表明する者もいる。

政府は、1月4日には補助金削減計画の一部を修正したが、農民はそれでは不十分として抗議活動を続けている。政府の施策に不満を持つ多くの国民は農民を支持している。

 

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■突然のAfD攻撃

こうして苦境に立たされたショルツ政権であるが、突然、AfDへの逆風が吹き始めた。それは、1月10日のことで、テレビが、「ワイデル共同党首などAfDの政治家がポツダムのホテルで秘密会合を開き、移民・難民をドイツから追い出す計画を立案した」と報じたからである。最大200万人を追放する計画だという。

これは、ナチスによるユダヤ人迫害を連想させるものであり、国民の間に一気に批判が高まり、「民主主義を守れ」、「ナチスの再来はごめんだ」といったスローガンを掲げて、反AfDのデモがドイツ各地で繰り広げられている。

ショルツ政権にとっては神風が吹いたようなものだが、政府による世論工作としてでっち上げられた話題であるという説もある。真相は不明だが、この件もドイツ社会の混乱を深めている。

1月8日には、旧東独の社会主義政党の流れをくむ左派で人気政治家のザーラ・ヴァーゲンクネヒトが新党BSW(ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟)を立ち上げた。左派ポピュリストであり、反移民でもあり、AfDと競合する。

6月には欧州議会選挙、今秋には旧東独のザクセンチューリンゲンブランデンブルクで州議会選挙が行われる。EUの主軸であるドイツの政治動向は世界に大きな影響を与える。

日本はドイツにGDPで抜かれ、4位に転落したが、それは、GDPがドル表示であり、ドイツインフレ、円安の影響だ。GDP3位などというのは、ドイツでは話題にならないくらいに、国内政治が深刻なのである。

 

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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「ドイツ」をテーマにお届けしました。

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