モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。1月31日(水)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「能登半島地震の被災者支援パッケージ『北陸応援割』の効果は?」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。


※写真はイメージです



◆政府の打ち出す「被災者支援パッケージ」の内容は?

政府1月26日(金)、能登半島地震の被災者への支援策「被災者の生活と生業(なりわい)支援のためのパッケージ」に使う予備費を閣議決定しました。

吉田:塚越さん、この被災者支援パッケージにどのような支援策が盛り込まれたのか、教えてください。

塚越:政府は2023年度の予備費から1,553億円の財源確保を閣議決定しました。支援策はさまざまありますが、代表的なものを紹介すると、まず「生活の再建」です。半壊した家屋の解体費用の自己負担を特例でゼロにするという支援があります。

他にも「なりわいの再生」として、中小企業の施設復旧のために1事業者あたり最大15億円の補助制度や、伝統産業の再生に最大1,000万円の補助などもおこなうというものです。

なかでも特に注目されているのが、観光業支援の「北陸応援割」。こちらは、新型コロナウイルス感染拡大により打撃を受けた観光・旅行事業者への支援策として実施された「GoToトラベル」や「全国旅行支援」のようなものです。1泊あたり2万円を上限として旅行代金の50%を割り引きます。この「北陸応援割」の対象は石川、富山、福井、新潟県の4県。ゴールデンウィーク前の3〜4月に実施する方向です。

◆相次ぐ旅行のキャンセルに苦しむ北陸

吉田:「北陸応援割」に関しては、効果を疑問視する声もあがっているようですね。

塚越:そうですね。「北陸復興のために良いじゃないか」という声もありますが、一方でそのお金を「被災者への直接支援に向けるべき」といった意見や、「恩恵があるのは、それほど被害がなかった地域になるのでは?」といった否定的な意見もあります。

この点に関して、まずデータからお話すると、能登半島以外の石川県やその周辺県では、震災後から宿泊キャンセルが相次いでいます。岸田文雄首相によれば、1月は北陸4県で宿泊キャンセル数が17万件になっているとのことです。石川県の旅行業協会の調べでも、8億円近い金額の予約がキャンセルになっていて、さらに膨らむだろうと予想されています(※番組放送時点)。

また、富山県でも宿泊のキャンセルが続き、およそ3億円の損失が出ているとのことです。過度な自粛ムード、あるいは東京などの被災地域以外では「今は現地に迷惑をかけないように」という気持ちが生まれてしまい、それが結果的に北陸地域に経済的なダメージを与えてしまっているということかなと思います。

こういった事情もあって、例えば富山県の旅館協同組合の理事長は「北陸応援割」を歓迎すると朝日新聞の取材に答えています。実際、震災で設備に被害が出たところもありますが、すでに通常営業していると話していて、簡単に言えば、特に被害が強い能登半島以外は(全てでないにしても)日常に戻っているそうです。そういった地域にお客は戻っていないということですね。そういう意味では「北陸応援割」は、いいのではないかと思います。

◆恩恵を受けるのは「被害の少なかった地域」だけ?

ユージ:「実施するタイミング」についても、疑問視する声があるようですね。

塚越:「実施するタイミング」や経済効果を疑う声もあります。被害の大きかった能登地方では、観光資源の海産物の提供や、宿泊の再開を3月~4月にできるかどうかは見通しが立っていません。そういったなかで応援割を押し出せば、被害が相対的に小さかった他の3県に観光客が流れる可能性もあります。

例えば、実際に2016年4月に起きた熊本地震の際にも、その年の7〜12月まで熊本とその他、九州地方6県を対象とした「九州ふっこう割」を実施しました。このときは、被害が相対的に少なかった大分県に比べると、被害の大きかった熊本県の観光客の増加は少なかったということもありました。こういったケースも考慮すると、支援のあり方はもっと工夫が必要なように思います。

例えば、応援割の対象を県ではなく、損失が大きかったが、すでに通常営業に戻っている地域に限定して、さらに実施のタイミングを2月にするなど、もっと早くする方法もあります。

また、能登地方の復興の目処がたった時点で、能登地域に限定したものを打ち出すのも手だと思います。政府は能登地域が観光客の受け入れが可能になった際には、割引率を70%まで増やすという策も検討しているとのことですが、いずれにせよ今の策は「機敏で効果的な政策」とは言えないように思います。

◆より有効性や実効性を考えたやり方を

ユージ:この被災者支援パッケージについて、塚越さんはどうご覧になりましたか?

塚越:被災者支援パッケージが必要ないかというと、そういうことではないです。もっと、有効性や実効性を考えたやり方があったのではと思います。政治の役目は「限りある資源の配分」にあるので、やり方をもう少し考えてほしかったです。コロナの対応でも思ったことですが、もう少し機敏に動けないのかなという思いがあります。

もう1つは、政治にとっては「言葉の力」も重要だと思います。いろいろな制度を調整するのも大事ですが、例えば岸田首相が「今年は北陸に旅行しましょう」と、言葉と心を込めたメッセ―ジを発信すれば、旅行割など関係なく自発的に「行こう!」と思う方も増えると思います。

政治家の言葉の力、心の力も大事なので、そういうところをもっと考えてもらいたいです。今、政治に期待できない部分があるので、心や言葉の力が大事だということを、私たちも覚えていかないといけません。


吉田明世、塚越健司さん、ユージ



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1月31日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2024年2月8日(木) AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/one/
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