日本のテレビドラマを見ていて、まさか第2のイーストウッド俳優が見つかることになるとは思わなかった。



『恋する警護24時』(テレビ朝日)公式サイトより



 毎週土曜日よる11時から放送されている『恋する警護24時』(テレビ朝日)の岩本照は、信頼のおける存在感で終始画面内にいる。役柄だけでなく、俳優としても。


「イケメンとドラマ」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、本作の岩本照を思わず肉体派アクションスターの系譜に連ねたい理由とは。


◆岩本照の物言わぬカッコよさ
 2024年元日の特番『さんタク』(フジテレビ)で、明石家さんま木村拓哉コンビが、Snow ManのYouTube番組撮影に乱入していたのだが、そこで興味深い瞬間があった。


 メンバー9人、結構なわちゃわちゃ感の中にさんまと木村が追加されたことで、折り紙付きの騒がしさとなる。ひとり割と物静かなのが、岩本照で、その毅然とした佇まいに思わず釘付けになった。


 フリップに「さとう」と書いて提示する岩本は、砂糖が意味するような甘いフェイスにも関わらず、ほとんど無表情に近く、まったく甘々ではないかに見える。でも何だ、この物言わぬカッコよさは……。


◆俳優としての資質




 きっと彼は演技をしても相当な映りと画力(えぢから)になるんじゃないか。まだ岩本の演技を一度も目にしていなかった筆者は、『さんタク』での一瞬の表情から、むしろ俳優としての資質を読み取った。


 するとちょうど、岩本の単独初主演ドラマ『恋する警護24時』が1月クール放送ときた。これは見るしかない。第1話、ワンショット目からいきなり岩本の姿。最初に背中を捉え、すぐに正面へ切り替わる。冒頭から岩本の前後を押さえた。


 眉はきりりと、真一文字に口を結び、やっぱり真顔で立っている。単に立っているというよりは、その場に存在感ましましでそびえているという感じ。いい具合に威圧感もある。やっぱりすごい佇まいだ。


◆肉体派アクションスターの系譜




 岩本扮する北沢辰之助は、ボディガード。襲撃された弁護士・岸村里夏(白石麻衣)の身辺警護を担当する。


 本作のボディガードは、塚本和江(松下由樹)が社長の民間会社所属だが、警視庁所属ならSPと呼ばれる。岡田准一がアクション俳優であることを決定的に証明した『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ、2007年)が懐かしい。


 あるいは、ケヴィン・コスナーがレーガン大統領の元シークレットサービスを演じ、ディーヴァ、ホイットニー・ヒューストンの身代わりになる、ずばり『ボディガード』(1992年)。


 翌年公開作には、クリント・イーストウッドケネディ大統領の元シークレットサービスを演じた『ザ・シークレット・サービス』がある。今挙げた3作品の中では、岩本はイーストウッドに一番近いかもしれない。


 イーストウッドこそ、物言わぬ佇まい俳優の世界代表みたいな存在。現在93歳なのに、まだ主演ははるし、監督も兼任する。


“第2のイーストウッド”とまでは言わないが、屈指の肉体派(同時に知性派でもある)アクションスターの系譜に岩本を日本代表として連ねてみたい気がするのだが。


◆単独初主演作品の共通点
 2022年公開映画『モエカレはオレンジ色』では、とにかく正義感が強い消防士役を好演していた。同作は岩本にとって、映画単独初主演作。


『アイ・アム・冒険少年』(TBS)の企画「脱出島」で、強靭な肉体に裏打ちされた驚異の火起こし術もすごかったが、ボディガードにしろ消防士にしろ、どうも単独初主演作品では肉体派の職業を演じることが共通している。


 相葉雅紀が平凡なサラリーマンからヒットマンに変身する『今日からヒットマン』(テレビ朝日、2023年)最終話では、ちょっとした友情出演で目配せ。


 エレベーターで乗り合わせるのが、なんと警護中の北沢辰之助という、同局内ドラマだからこその垣根越えが清々しく感じられた。


 いずれにしろ、どの役柄も無骨だけれど、ある瞬間には微笑んでもみせる。ギャップ萌え必至のキャラクターを見事にモノにしている岩本だが、『恋する警護24時』ではそんなキャラクター性がうまく解説されている。


◆表情で見せる配慮と信頼のおける人間性




 第3話。里夏が勤務する弁護士事務所内でのこと。彼女から離れず警護を続ける辰之助を横目に、里夏にやや恋愛マウントをとる戸口美央(岡本夏美)が会話をする場面。


 どうやら美央は辰之助のことを狙っているらしい。的をしぼる彼女が彼のことをこう説明。


「クールで侍っぽい」


 北沢辰之助というキャラクターを説明するにはひとまず十分だ。何せ岩本のあの佇まいが、ドラマ展開の都度、裏書されるうち、だんだん辰之助が確かに侍に見えてきた。美央がクッキーを渡しに行くと、辰之助の目が一瞬泳ぐ。


 単に無骨ではないお茶目なところもいい。基本は無表情を貫く演技だから、セリフは多くはない。「考察系アクション・ラブコメディー」と銘打たれる通り、セリフ以外にも細かなヒントが張り巡らされている。


 重要な小道具となるサバ缶を見て、つい思い出してしまった。玉置浩二が缶詰工場の工場長として奮闘する『コーチ』(フジテレビ、1996年)。


 売れないサバ缶を売れるサバカレー缶へと変貌させるべく、試作を重ね、味見する場面の寡黙な玉置を岩本に重ねて見たくもなってしまう。


 わずかな心の揺れをモノローグで説明しながらも、多用はせず、きちんと岩本の表情で変化を見せてくれる。


 本作全体に張り巡らされた配慮を感じ取ると同時に、何とも信頼のおける岩本の人間性がにじむように思う。


<文/加賀谷健>


【加賀谷健】音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu



『恋する警護24時』(テレビ朝日)公式サイトより