●「脱派閥政治」を持論としてきた菅前首相の存在もあらためてクローズアップされている。●次期総理本命のはずが、わずか数日間で自派閥がガタガタになってしまった茂木幹事長。●自派閥の事務方が政治資金問題で立件される窮地に、いきなり勝負手を打った岸田首相。●突然の岸田派解散宣言で「派閥は全部悪」という流れをつくられ、後手に回った麻生副総裁。
●「脱派閥政治」を持論としてきた菅前首相の存在もあらためてクローズアップされている。●次期総理本命のはずが、わずか数日間で自派閥がガタガタになってしまった茂木幹事長。●自派閥の事務方が政治資金問題で立件される窮地に、いきなり勝負手を打った岸田首相。●突然の岸田派解散宣言で「派閥は全部悪」という流れをつくられ、後手に回った麻生副総裁。

「派閥を解散するだけでは意味がない、政治資金の問題をきちんと解明しろ」そんな批判をよそに、大揺れの自民党内では新たな権力闘争が進行中だ。そのスイッチを入れたのは、これまで散々「優柔不断だ」「何も決断できない」などと言われ続けてきた岸田文雄首相。まさかの「勝負師」爆誕か!?

【写真】最近明らかに不機嫌な麻生副総裁ほか

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■一手で潰された麻生・茂木シナリオ

「参加議員の多くが深刻な顔をしている自民党政治刷新本部の席上でも、岸田さんだけは飄々(ひょうひょう)としている。官邸でのぶら下がり会見でもニコニコ顔が増えた。とにかく吹っ切れたというか、晴れやかな表情が目につきますね」

そう言うのは政治評論家の有馬晴海(ありま・はるみ)氏だ。

昨年末以来、安倍派を中心とする派閥の裏金問題で現職議員が立件され、内閣や党の要職者の辞任も相次ぐなど、自民党には大逆風が吹いている。にもかかわらず岸田文雄首相が上機嫌なのは、党内で進んでいた「早期退陣シナリオ」を、自身の一手で叩き潰すことに成功したからだ。

全国紙の自民党番記者が解説する。

「退陣シナリオを描いていたのは、これまで岸田政権を支えてきた麻生太郎副総裁です。支持率低迷に業を煮やした麻生氏は、今春に予定されている国賓待遇での訪米を花道に、岸田さんに代えて茂木敏充幹事長を次の首相に据えることを狙っていました。

麻生氏は『日米結束の再確認』という名目で1月9日に訪米しましたが、これも永田町では、首相の訪米を当初予定の4月上旬から3月へと早める調整のためだろうとみられていました。

それまでに岸田氏に退陣を受け入れさせれば、2024年度予算成立直後の3月末から4月頭に前倒しの自民党総裁選(本来は9月予定)を行ない、内閣総辞職と新政権発足を経て、〝ご祝儀〟で支持率が上向いているであろう4月中に衆院解散・総選挙を仕掛けることができるからです」

自身の影響力を堅持できる「茂木シナリオ」を、これまで支えてきた岸田首相に崩された麻生副総裁。最近明らかに不機嫌
自身の影響力を堅持できる「茂木シナリオ」を、これまで支えてきた岸田首相に崩された麻生副総裁。最近明らかに不機嫌

しかし、岸田首相は座して死=退陣を待つことはしなかった。もはや打つ手なしかという状況から放った電撃的な反撃の一手が、1月18日岸田派解散宣言だ。

「これは完全に岸田さんの独断です。岸田派と共に主流3派として政権を支えた麻生派、茂木派は、自派閥から裏金問題が出ていないことを理由に存続を基本線としていたにもかかわらず、事前になんの相談もなし。寝耳に水だった麻生さんは激怒したと聞きます。

決断力に乏しいと言われ続け、特に自身を担ぎ上げたキングメーカーの麻生さんには頭が上がらなかった岸田さんが、ここまで思い切るとは驚きました」(前出・有馬氏)

他派閥に先んじて「解散」を打ち出した効果は絶大だった。翌19日に安倍派二階派、25日に森山派、谷垣グループが続々と解散を表明。

ついには麻生派タッグを組んで派閥存続に動いていた茂木派まで「いわゆる派閥としては解消し、お金と人事から決別する」(会長の茂木幹事長)と発表し、大きな流れにのみ込まれつつある。気がつけば、自民党の〝派閥村〟には麻生派がポツンと残るのみだ。

カネとポストを差配する力を持つ派閥が離合集散し、数の論理で次のボスを決めてきたのが自民党の歴史だ。ところが、茂木派も解散となれば、衆参全議員の約85%が無派閥に。こうなると、麻生氏でも「岸田降ろし」を仕掛けるのは難しい。

「根強い派閥批判に直面し、多くの自民党議員は、派閥にこだわると次の選挙で落選しかねないとおびえている。そんなムードを読み切って勝負に出た岸田さんの解散宣言によって、派閥領袖クラスの政治家たちの力は弱まり、人事権を握る総理・総裁のパワーは相対的にアップする。当面の求心力、主導権の維持には成功した印象です」(有馬氏)

■大物同士があわやつかみ合いの大ゲンカ

当然、岸田首相の大バクチで党内は大混乱に陥り、派閥解散後の〝落ち着き先〟を求めて議員たちは右往左往した。茂木幹事長の後援会関係者が証言する。

「ある日、付き合いのない安倍派の議員から電話がかかってきました。何事かと聞くと、『派閥を維持する見込みの茂木派に加入したいので、茂木幹事長を紹介してくれないか』というんです」

安倍派=清和政策研究会創設者の孫である福田達夫議員は若手30人余りを引き連れて新たなグループを立ち上げる見込み
安倍派=清和政策研究会創設者の孫である福田達夫議員は若手30人余りを引き連れて新たなグループを立ち上げる見込み

安倍派では派閥解散にとどまらず、萩生田光一前政調会長ら幹部5人に対し離党要求の声が上がっている。さらに、安倍派清和会を創設した福田赳夫元首相の孫である福田達夫元総務会長(衆院)が同派の中堅・若手30人以上の議員を引き連れて新グループ結成を宣言するなど、結束もないボロボロの惨状だ。

ところが、この安倍派議員が駆け込み寺のように頼った茂木派も、数日後には泥舟と化した。派内のエースだった小渕優子選対委員長が、党の政治改革大綱に「党役員の派閥離脱条項」があることを名目として派閥を離脱。この動きに同調して、関口昌一参院会長ら4人の参院議員も退会してしまったのだ。

「退会に先立つ1月23日には、茂木さんが自分の頭越しに派内の参院有力メンバーに派閥解散の可能性を相談したことに関口さんが激怒し、あわやつかみ合いの大ゲンカを演じています。これほどガタガタの状態ですから、今後も退会は続くでしょう(編集部注:1月30日時点で大臣経験者ら衆院2人が退会)。

表向き解散するかどうかにかかわらず派閥の分裂・縮小は確実で、茂木さんの次期総理候補という地位も危うくなってきました。ちなみに『茂木派も解散を検討』というニュースが流れると、例の安倍派議員からは『あの話はなかったことに』と断りの連絡が入りました(苦笑)」(後援会関係者)

一方で、この混乱を千載一遇のチャンスととらえる動きもある。党内では一匹狼扱いの高市早苗経済安保担当大臣が1月27日長野県で行なった講演で、2025年大阪万博の延期論を突然ぶち上げたのだ。

「少なくとも現状では、万博は予定どおりに実施するというのが岸田政権の公式方針。この発言は閣内不一致と指摘されかねず、本来であれば辞職ものです。

ただ、安倍派の右派議員を中心に、高市氏を次期総裁に推そうとの動きも出ている。いち早く万博の延期論を発信することで、総理・総裁候補としての存在感をアピールしようとの計算でしょう。事実上の総裁選出馬宣言という見方もあります」(前出・自民党番記者)

■解消でも刷新でもなく事実上の派閥再編

そして、それ以上に注目されているのが、安倍派が壊滅したことで〝事実上の最大派閥〟となった無派閥組の動きだ。岸田首相が自派閥の解散を宣言した翌日の1月19日には、無派閥議員による「情報交換会」が正式に立ち上がっている。

菅 義偉前首相を慕う若手議員らで構成される「ガネーシャの会」や、旧石破グループのメンバーを中心に、その発起人は19人。菅氏は次期首相に石破茂元幹事長を推しており、この「情報交換会」がさらに膨れ上がって、石破支持が広がる可能性もある。

政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう語る。

「今起きていることは、派閥解消でも政治刷新でもない。事実上の派閥再編、権力闘争と考えるべきです。9月の総裁選が近づくにつれ、必ず派閥に似たグループが形成されていくはずです」

これまでとは様相の違う、自民党内の新たな権力闘争はどうなっていくのか。

〝第一ラウンド〟を制した岸田首相の今後について、鈴木氏はこう予測する。

「岸田さんは通常国会が終了する6月末までにできる限りポイントを稼ぎ、支持率を上げる必要があります。まずは予算を仕上げ、訪米で外交面をアピール。ひょっとしたら北朝鮮への電撃訪問もありえますし、経済面では春闘での賃上げ、6月には減税も予定されています。

これらの上積みで岸田さんが『行ける』と判断すれば、夏前にも解散・総選挙に打って出る可能性はゼロではない。選挙に勝てば総裁選で大きく優位に立てますから。

ただ、問題は派閥解散を主導したことが党内でのインパクトほど世間に響いておらず、あまり支持率が上がっていないこと。この先、狙いどおりに進むかどうかはまだまだ未知数です」

早期退陣はいったん免れたが、「裏金辞職議員」の後釜選びを含めた4月末の衆参補選で逆風に勝てなければ岸田政権は危うい
早期退陣はいったん免れたが、「裏金辞職議員」の後釜選びを含めた4月末の衆参補選で逆風に勝てなければ岸田政権は危うい

前出の有馬氏も、やはり最後は支持率が勝負になると指摘する。

「岸田さんの頭には今夏の衆院解散断行のほかにも、秋口から年末にかけての『年内解散』や、来夏の『衆参ダブル選挙』というシナリオがチラついているかもしれません。ただ、このまま支持率が20%台でもたつくようでは、総裁選も不透明になりますし、解散を打てずに息切れするリスクも大きい。

越えるべき最初のハードルは、4月28日の国政補選です。ここで野党に負け越すようだと、また強烈な岸田降ろしの風が吹くでしょう」

肝心の裏金問題が宙ぶらりんなこともあり、自民党に対する国民の目は変わらず厳しい。突然見せた「勝負師の顔」は果たして本物か?

写真/時事通信社

●「脱派閥政治」を持論としてきた菅前首相の存在もあらためてクローズアップされている。●次期総理本命のはずが、わずか数日間で自派閥がガタガタになってしまった茂木幹事長。●自派閥の事務方が政治資金問題で立件される窮地に、いきなり勝負手を打った岸田首相。●突然の岸田派解散宣言で「派閥は全部悪」という流れをつくられ、後手に回った麻生副総裁。