少子高齢化が進み、多くの企業で人件費の高い年配者のウェイトが高くなるなか、組織の若返りを図っていきたいと願う企業は多いでしょう。人材が豊富な大企業であれば「早期退職」を促すことも容易ですが、中小企業で同じことを行えば、愛社精神や仕事への前向きな気持ちを破壊することにもなりかねません。社員数50名の新聞販売店を23年間経営し、多くの企業の経営支援に携わってきた米澤晋也氏が、日本の中小企業が効率よく、合理的に組織の若返りを図るにはどうするべきか、興味深い実例等を交えて詳しく解説します。

「早期退職制度」は使い勝手の良い制度…?

日本型雇用の象徴とされてきた終身雇用が終焉を迎え、今では早期退職制度が当たり前になりました。

人件費削減を目的とした希望退職と違い、社員のキャリア形成を支援するためというのが名目となっていますが、実際は「肩たたき」のツールとして使う企業が多くあります。

少子高齢化が進み、多くの企業で人件費の高い年配者のウェイトが高くなっています。加え、目まぐるしく変化する時代になり、昔の経験が役に立たなくなっています。意思決定層の若返りを狙う企業にとって、早期退職制度は使い勝手の良い制度だと思います。

しかし、人材が豊富な大企業と違い、中小企業で導入したら、愛社精神や仕事への前向きな気持ちが破壊され、組織の機能不全を招く危険性があります。

中小企業は、いかにして組織の若返りと、社員の活力を両立させるべきでしょうか。

ヒエラルキー組織では人材が「消費」される

昨年、私が主催するセミナーに、大企業に勤める方が参加されました。セミナー終了後の交流会で、その方が「上司から早期退職を提案された」話をしてくれました。提案を受け入れれば退職金は割り増し。会社に残った場合、配置転換の可能性があることを告げられたそうです。配置転換とは、事実上「窓際」を意味します。

その方は、自分のことを負け組と呼び、「使い捨てかよ…」と嘆いておられました。

その姿を見て痛感したことがあります。出世競争の厳しさはもちろん、ピラミッド型のヒエラルキー組織では、出世するのは限られた人で、人材は「詰まる」宿命にあるということです。

同時に、人材が「消費」される様子を見た周りの社員の希望も奪われてしまうと思ったのです。

組織が大きければ出世のルートはたくさんあるので、若いうちは希望を持つことができるかもしれません。しかし、中小企業ではそうはいきません。

中小企業には「出世こそが希望」という論理ではない、詰まることのない組織運営が求められます。社員が消費されることなく組織が刷新され、活力を維持する組織運営です。それを実現するためには、ピラミッド型のヒエラルキー組織を根本から見直す必要があります。

組織には、新しいものを生み出す「イノベーションの段階」と、生み出されたものを効率よく運用する「オペレーションの段階」があります。

ヒエラルキー組織は、オペレーションに適した組織形態で、業績が安定した大企業に向いています。経済成長期が長く続いたことで、中小企業でもヒエラルキー型が定着しましたが、外部環境の変化が激しい時代には向いていない組織形態であり、イノベーションの足かせになります。

中小企業には、変化する状況に応じ、変幻自在に変わることができる柔軟な組織が求められます。

“プロジェクトチーム”で人材の流動性を高める

中小企業でイノベーションを実現するためには、限られた人材でトライアンドエラー(たくさん試して、上手くいく方法を探る)に耐えられる、柔軟な組織をつくる必要があります。そのためにはプロジェクトチーム(以下、PT)をつくる技術が求められます。

イノベーションの段階にいるとしても、オペレーションがなくなるわけではありません。ほとんどの社員はオペレーションに就いているはずです。

人材にゆとりがない中小企業では、イノベーション専用の人材を採用し、特命チームをつくる余裕はありません。日々の業務を回しながらイノベーションに挑戦しなければなりません。

そこで、部署を超えた有志でPTを結成するという方法が有効です。イノベーションと言うと大上段に構えてしまいますが、小さなプロジェクトで構いません。

結成の手続きが非常に重要です。失敗するPTの典型は、メンバーを選考し、集めてからゼロベースでやることを決めるというスタイルです。これまで私は、様々なプロジェクトに関わってきましたが、この方法で上手くいった試しはありません。

良いメンバーが集まっても、そこで決まったことは、みんなが60%の熱意しか持てないのです。

優れたPTは、アイデアを持った熱量の高い1人のもとに立候補制で人が集まり結成されます。誰か1人が面白いことを言い出して、そこに共感した人が集うのです。キャンドルリレーのように、1人の炎(熱量)が周りに伝播していくのです。

PTは途中で頓挫したり、失敗に終わることもありますが、それで「ジ・エンド」ではなく、何度も挑戦することができます。

PTが自然発生する組織になれば、社員を消費しなくても流動性の高い組織になり、出世以外の新しい希望を持つようになります。

50代社員の年収が70万円増えた新聞販売店の事例

私の経営支援先の事例を紹介します。従業員数60名ほどの新聞販売店を営むN社では、数多くのPTを立ち上げ、衰退するビジネスを復活させました。

新聞市場は1997年ピークに、その後インターネットの普及、特にスマートフォンの普及の影響を受け、衰退の一途を辿っています。求人をしても若者からの応募はほとんどありません。

経営の選択肢は、縮小均衡し会社をたたむか、他社に吸収されるか、新しい業態に転換するかのいずれかになります。

同社では、これまで、社員は新聞の営業に多くの時間を割いてきましたが、最近では売り込みや面会を嫌う生活者が増え時間を持て余していました。その時間を使い業態転換に挑戦したのです。

地域の高齢化を受け、「地域の高齢者のパートナーになる」という事業コンセプトを立ち上げ、電球の取り替えやエアコンの掃除、ハウスクリーニング、健康教室、スマホの活用セミナーなど、数々のPTが立ち上がりました。社内には、常に2つか3つのプロジェクトチームが走るようになりました。

30代~40代の若手がプロジェクトの発起人になることが多く、集うメンバーは老若男女、様々です。メンバーは、それぞれの得意分野を活かし協働します。

ある50代中盤の男性社員は、社歴20年を超えるベテランで、集金や営業などを通じ、地域の方たちと豊かな人間関係をつくってきました。

高齢者向けサービスの展開のためには、地域コミュニティを巻き込む必要がありますが、コミュニティには排他的な性質があるので、見ず知らずの人が提案しようとしても、なかなか受け入れてくれません。その男性社員は、豊富な人脈を活かしコミュニティとのジョインという大役を果たしました。

プロジェクトの中には頓挫したものもありましたが、成功したアイデアを大切に育てた結果、高齢者向けのビジネス構想は見事開花しました。会社の業績が向上したことで、男性社員は、出世せずとも450万円だった年収が、およそ520万円になりました。

大企業で出世をした人に比べると年収は低いですが、出世競争の中で人材が消費されることはありませんし、人が活かされ続け、いつまでも希望を持つことができるのです。

本記事で紹介した方法は、どの企業にもそのまま当てはまるものではありませんが、考え方として参考にしていただければと思います。

(※写真はイメージです/PIXTA)