ハイエースユーザーの多くが語る、2WDモデルは雪道に弱いという言説を、青森県の積雪地を走ったら実体験しました。地元ドライバーによると、あえて荷室に重量物を積むことでスタックを防ぐこともあるそうです。

市街地と郊外で明らかに道路状況が違う!

「雪道に弱いハイエース2WD」

これは、ハイエースユーザーの多くが口を揃えて言っていることで、ハイエースの購入を検討している将来の新規ユーザーも気になっている部分です。

実際に、ハイエース2WDは雪道に弱いのでしょうか。筆者が積雪地まで行き検証してきました。場所は厳冬期の青森県八甲田山麓です。

そもそも、ハイエースはトヨタ自動車が製造するワンボックスタイプの商用バンです。日本のみならず世界的に人気がある車種で、バリエーションは極めて多く、法人利用のみならず、近年のアウトドアブームで個人利用も多くなっています。

足回りは後輪駆動(いわゆるFR)の2WDと全輪駆動の4WDの2種類がありますが、降雪の少ない地域では価格が安く燃費も良好な2WDの方が人気です。その一方で、積雪地域や山間部などでは価格や燃費が多少悪くとも、走破性に優れた4WDが根強い需要を持っています。

筆者(武若雅哉:軍事フォトライター)が暮らす静岡県富士山周辺は、まさに2WDと4WDの両方が使われており、雪が舞った時などに冒頭のセリフがよく聞かれます。しかし、それは本当なのでしょうか。

筆者が青森県を訪れたのは1月31日の深夜でした。到着して感じたのは、全く雪がないということ。歩道などに除雪した際の雪の塊はありましたが、アスファルトはしっかりと見えており、凍結している場所も見当たりませんでした。

本来であれば喜ばしい環境なのですが、これでは雪道の弱さを検証することができません。

その一方で、翌日は雪予報であったため、きっと朝になれば雪が積もっているだろうと思い、その日は就寝しました。

スコップで雪かき出しても抜け出せない…

翌朝、外を見て見ると予報通りの積雪でした。未明から降り始めた雪が一面を銀世界に替えていたのです。「これで検証もできる」と、青森市内から南へハイエースを走らせました。向かう先は八甲田山の麓です。

とはいえ、筆者が青森を訪れていたのは自衛隊の取材のためです。この日は第9師団第5普通科連隊が行う「八甲田演習」を撮影するため、自衛隊の広報担当者と待ち合わせしていたのです。

指定された場所は、冬季通行止めになる県道40号線(青森田代十和田線)にありました。

八甲田山雪中行軍遭難史料館を過ぎたあたりから、道路は徐々に上り基調になります。傾斜が急になったり、カーブがあったりするため、スタッドレスタイヤを装着していたとしても、時折、後輪がスリップします。

このまま、予定通り目的地へ行けるな。そう思った矢先でした。遂にハイエース2WDが雪に行く手を阻まれてしまいました。

そこは、一般道からそれた脇道。グググっと車体が沈み込む音がしたので嫌な予感がしたのですが、まさに的中しました。15cmほどの積雪がある場所でスタックしてしまい、前にも後ろにも進むことができなくなってしまったのです。

一応、そういったことも想定して、スノースコップを持参していたので、それを取り出してタイヤ周辺の雪を掻き出したのですが、それでもハイエースは動きません。

ただ、自衛隊を取材するということで、筆者と待ち合わせていた数名の自衛官が応援に駆けつけてくれました。彼らが車体を押してくれたことで、その場所からは脱出できたものの、指定された駐車場まであと10mという目前で再びスタック

ここでも再度、数名の自衛官に車体を押してもらい、なんとか駐車することができ、無事に取材に参加することができました。

前後の車軸に係る重みの差も

改めて、ハイエース2WDが雪道に弱いということを実感しましたが、その理由はタイヤの荷重バランスが原因だったようです。

筆者のハイエースは標準ボディ、標準ルーフの「スーパーGL」と呼ばれるモデルで、この2WDでは車両重量が1940kgです。エンジンは車体前方に積まれているのですが、駆動輪は後輪です。

この場合、空荷だと前輪の車軸に1120kgの荷重が掛かる一方、後輪の車軸には820kgの荷重しか掛かっていません。それでいてFR車なので、タイヤに掛かる荷重が足りなくなって、雪道でタイヤが空転してしまうのです。

一般的なフロントエンジン・前輪駆動の2WD車(いわゆるFF車)であれば、前軸の上にエンジンなどがあるため、それら重量物が前輪に対して荷重を常にかけてくれます。これにより、空荷状態でもタイヤにエンジンのパワーがしっかり伝わり、同じ2WD車であっても雪に対してしっかりタイヤがグリップして、スタックせずに走ることができます。

こういった理由から、「ハイエース2WDは雪道に弱い」という定説ができたようです。今回はそれを実証することができました。

とはいえ、ハイエース2WDは雪道を走れないのかといえばそうではありません。前述したような経緯から、取材帰りには持参していたタイヤチェーンを装着し、ほぼ同じエリアを走りましたが、今度はスタックすることなく安全に行き来することができました。高い荷重が掛かっている前輪は、しっかりとグリップしたため、ハンドルが効かないということもありませんでした。

地元住民が教えてくれた「生活の知恵」とは?

今回の件に関して、地元の方に話を聞いたところ、冬季は使用しないサマータイヤや、スタックした時にも使える砂を積んでおくと言っていました。これは、ハイエースは貨物を搭載して走ることを前提に設計されているクルマなので、あえて200kgから300kgの荷物を積んで、後部を重くしているとのこと。そうすれば、ハイエース2WDでも後輪の空転を防ぐことができるのだそうです。

普段は都市部でハイエース2WDに乗っているものの、もし仕事やレジャーなどで雪山に行く必要が生じた場合は、タイヤチェーンとスノースコップをクルマに積むのはもちろんのこと、わざと後部を重くすることで後輪のグリップ力を高め、雪道でもスタックを防げるようになるということがわかりました。

しかし、いくら入念な準備をしていたとしても、雪道の走行は危険を伴うことは言うまでもありません。

筆者は以前、雪道でも安定して走れると定評の三菱自動車デリカD:5」にも乗っていたことがあります。このクルマは確かに安定感ありましたが、4WDとはいえちょっとした場所でスリップするといったことも間々あったため、たとえ雪道やオフロードに強いとされるクルマでも決して油断してはいけないと、常に感じていました。

どんなクルマに乗っていても、雪道であれば運転技術や装備を過信することなく、「急」が付く動作を回避し、すぐに止まれるスピードで、前車との車間距離を保ちつつ、通常よりも安全運転を心掛けながら、冬のアクティビティを楽しみましょう。

最後に、スタックした時に助けてくれた自衛官の皆様に、この場をお借りして深く感謝いたします。

2024年2月1日、積雪によって白く染まった青森市郊外を走ることになった筆者の2WDハイエース「スーパーGL」(武若雅哉撮影)。