30年近く続いたデフレを脱し、インフレへと移行しつつある日本。企業の収益は異次元のスピードで増大し、巨額の余剰資本が株式市場に流れ込むとみられています。今回は、若林栄四氏の著書『The Ultimate Prediction 2028年までの黄金の投資戦略』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、「新たなブルマーケット」が到来しつつある現状について解説します。

30年間続いてきたデフレの裏返し

いまもプロも含めて日経平均の33年ぶりの上昇に懐疑的な人が結構いるようだが、これは日柄やシンクロなどサイクルを勉強していない人にはわからない。なぜ日本株はこんなに上がるのか。外国人が買ってくるだとか、そういうことではない。

問題は何が起こりつつあるのかだ。

その正解とは、脱デフレに他ならない。30年間続いてきたデフレの裏返しとして、インフレが到来してきているとする認識である。

そうすると何が起こるのか? いろいろあるが、なかでも大きいのは民間に積まれてきた3200兆円の資金が一気に拡大再生産に入るということだ。これは複利で運用するならば、すぐに100兆円ぐらい増えてしまうし、さらにすごいのは、インフレになると名目GDPが強烈に増えてくることであろう。

実際に生活に関わるのは、「実質GDP」ではなく「名目GDP」

いままで、我々が行なってきたGDPが増えた、減ったという議論は「実質GDP」についてである。これはインフレ率の変動による影響を差し引いたもので、言い方は悪いが、経済学者のお遊びに属する数値と考えるべきである。

実体経済を表すのは、その時点における市場価格で評価した「名目GDP」のほうなのだ。この名目GDPが我々のポケットに入ってくる実際のお金の総和である。名目でGDPがいくら増えるかが、日本経済にとって重要であることはいうまでもない。

よく考えてみれば、税収は名目GDPの関数といえる。「お宅の会社はいくら儲かったのか。そのうち実質いくら儲かったのか」とインフレ率を差し引いて、税金を弾き出すなど、そんなややこしいことをするわけがない。

「名目GDPが上がらなくても豊か」な状況が続いたデフレ時代

先般の日経新聞エコノミスト、アナリストたちの予測として、「2023年の日本の名目GDPは確実に前年比で5%は上がる」というコメントが載っていた。これは大変なことで、2022年の名目GDP500兆円から5%増だとすると25兆円増えるわけである。

日本の名目GDPは1995年から2022年までずっと500兆円のままであった。その間に実質GDPが増えても、ずっとデフレだったから、人々のポケットに入るお金は少しも増えなかったのである。

デフレだとモノ、サービスの価格が下がる。したがって、収入が増えなくても支出が減るから、豊かになるというのが実質経済成長の不思議な定義である。

もともとインフレ経済を想定した発想だから、手取りが増えてもインフレで実体はそれほど豊かになっていないのですよ、とのたまうための実質経済成長率のはずが、収入が増えなくても豊かになっているというまやかしの詐術にエコノミストなる連中が持っていったわけである。

だから、日本の名目GDP500兆円は延々27年間も変わらなかった。それがここにきて、初めて5%の増加をみるのだ。

アメリカの場合27年前のGDPは7兆ドル、いまは25兆ドルとしっかり増えている。我々の経済もこれからは、アメリカには及ばずとも、ゼロ成長の時代から3〜5%の名目成長を達成するところまで戻りそうだ。

経験則を無視して相場は上昇する

経済活動が活発化し、株式投資が急速に増える時代へ

当然ながら、これが毎年5%増えるとは思わない。ただインフレになってきたら、今度からは仮に実質GDPがマイナスでも、インフレ率でカバーして、名目GDPが増える、稼げるという可能性が出てくる。

ということは、名目GDP500兆円が600兆円、700兆円に伸びるのは簡単で、そうなったときに何が起こるのか。

金利は上がっているから、個人の家計部門の貯蓄がひたすらに増えていく。インフレ経済では、借金が目減りしていくから、借金をしての経済活動も活発化する。

つまり一般的に企業が元気になり投資も増えるのである。

その借金からの投資が経済のレバレッジを上げて経済成長を呼ぶ、それを受けて、日本企業の収益が異次元のスピードで増大する。巨額の余剰資本が株式への投資に向かうのは必然であろう。それはそうだろう、33年ぶりのインフレ経済に転換したのである。

企業が保有する資産である土地、工場の価値は跳ね上がる。さらにそれらにパラレルして国家の税収が増えることが容易に予測できよう。

ここにきて財務省が検討しているのは増税といわれている。もしそれが本当ならば、財務省の見当違いは甚だしい。名目GDPが増え始めたら、増税などしなくたって、とんでもない自然増収が見込まれるからだ。

2023年度は当初見積もりよりも多い70兆円超えを見込んでいる専門家も多い。となると、財政規律にとってはいいことではないかもしれない。

なぜなら、政治家はカネがあればすぐに遣いたがるからである。

新しい強気相場が始まるときは、ほとんど予想外の状況になる

それはさておき、現実に税収が想像を上回るほど上がってくると、我々の眼前に何かまったく新しい世界が浮かび上がって見えてくる。

こういう状況について見えていない人は、自らの貧弱な経験則に鑑みて、「これは危ない」と警鐘を鳴らすだろう。1カ月で日経平均が2000円以上も上がったりするのはやり過ぎだと。

たしかに経験則から言えばそうなのだが、歴史を振り返ってみると、新しいブルマーケットがスタートする際には、そのおおかたは信じられないほどのダッシュつくものなのである。

だから、一般人の経験則を無視して、相場はどんどん上がっていく。2023年12月以降は再び相場の上昇波がやってきそうだ。後は本格的なインフレ経済へと突入していき、日経平均は5万3000円まで伸びていくのだから。我々は何としてもその流れに乗っていかねばならない。

(※写真はイメージです/PIXTA)