インフレ下で金融緩和を続ける現在の日本においては、天文学的な数字までインフレ率が上昇する「ハイパー・インフレーション」が発生するリスクもゼロではありません。本稿では、岡崎良介氏の著書『野生の経済学で読み解く投資の最適解 日本株で勝ちたい人へのフォワードガイダンス』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、ハイパー・インフレーションが起こるメカニズムや、それが日本を襲う可能性について解説します。
ハイパー・インフレーションのリスク
インフレが天文学的な数字にまで上昇する現象を“ハイパー・インフレーション”と呼び、実際に、1923年のドイツ(物価が1カ月で500%も上昇したと記録されています) や、2008年のジンバブエ(こちらは7月に公表されたインフレ率が2億3100万%と記録されています)などでその実態が観察できます。
なぜこのような惨劇が起きたかについては、様々な角度から分析が行なわれているようですが、まずは共通する要素としてハイパー・インフレーションが起こる原因として挙げられるのが、マネーサプライの過剰な増加(過剰な金融緩和状態)です。
ハイパー・インフレーションは、国が諸外国へ負債を抱えたとき起こりやすい
もちろん、マネーサプライの過剰な増加などといった現象は金融緩和すればしょっちゅう起こるわけですから、これだけで必ずハイパー・インフレーションが起こるわけではありません。
問題は、過去の例を見る限り、過度のインフレが発生しているにもかかわらず緩和的な金融政策を続けなければならない、そもそもの金融政策にあるようです。
そもそもの、と断り書きを入れたのは、ここで言う金融政策とは、金利を上げたり下げたりする金融政策ではなく、紙幣を増発するというもっと現実的で直截な金融緩和政策だという点です。
ドイツのケースにしろ、ジンバブエのケースにしろ、ハイパー・インフレーションは過度の財政赤字状態、それも単年度の税収が政府の支出を賄えないときに起きています。
とくにドイツの場合は、第一次世界大戦終結時に定められた多額の賠償金を戦勝国に支払う義務がありました。当時のドイツ政府はこの支払いのために巨額の財政赤字に陥り、最終的には支払いのために紙幣を増刷せざるを得ない状況(いわゆる、財政ファイナンスです)にまで追い込まれたようです。
つまり、インフレーションが何によってハイパー・インフレーションに変異するかといえば、それは国家という永久機関(形式的には自国通貨で借金をしている限り、倒産はありません)故に起こりうる、無限のマネーサプライ増加のリスクです。
政府が不足する税収を補うために際限なく国債を発行し、それを中央銀行が引き受け政府に紙幣を支払い、受け取った政府が債権者である諸外国に支払うというサイクルが確立されたとき、インフレーションはもはや中央銀行がコントロールできる“貨幣的現象”ではなくなり、国家が解決すべき“財政問題”、もしくは“通貨問題”としてハイパー・インフレーションへと大化けする可能性を秘めています。
日本の現状は、ハイパー・インフレーションに陥るリスクを秘めている
なぜこのような悲惨な事例をわざわざ取り上げたかというと、いまの日本の置かれている立場が、このハイパー・インフレーションのリスクを少なからず含有している可能性がゼロではないからです。
幸い日本の場合、他国からの借金も課せられた賠償金もありません。ましてや国の債務はすべて自国通貨建てですから、形式上、倒産する可能性はありません。
しかしインフレ時代に突入したにもかかわらず、いつまでも金融緩和が続き、相反するように税収が増えない事態が恒常化すれば、ハイパー・インフレーションのリスクが高まっていく可能性があります。
加えてここから日本の生産力が急速に悪化し、輸出が低迷する一方で、資源価格が高騰するなどして輸入が増加傾向を辿ると、海外への支払いが増え、これもまたハイパー・インフレーションのリスクが高まる要因となります。
ただでさえ日本の財政赤字がすでに天文学的な数字に増え、さらにその金額の半分以上を現在は日本銀行が保有している(形式的には半分以上が財政ファイナンスされている形です)のですから、日本滅亡論者が気勢を上げるのも無理のない話です。
日本でハイパー・インフレーションが起こった時は、金融機政策より国家経営に問題アリ
ただ、幸いなことに、インフレ時代が始まってから日本の税収は順調すぎるほどの勢いで増え続けています。インフレ時代に入ったことで、名目成長率が実質成長率を上回り、これまでよりも高い税収の伸びが確認されています(税収は名目成長に連動して増減します)。
また、ここのところ貿易収支は輸入超過の状態が続いていますが、日本の対外純資産残高は2022年末の時点で419兆円もあり、毎年増加傾向にあります。
ちなみに政府の外貨準備は2022年末現在で162兆円となっています。さしあたりインフレの時代に入ったからといって、これが歴史上起きたハイパー・インフレーションに変異するリスクに怯える必要はなさそうです。
もちろん、これから日本の人口がどんどん減少したり、かつてないほどの天災が日本を襲ったり、さらには資源価格が急騰したりといった、日本を様々な不幸が襲うシナリオが描けないわけではありません。
しかしその発生確率が何%かといえば、そんなものは計算できるものではありません。
唯一、まともな悲観シナリオを考えるとすれば、それは大きな軍事的緊張が高まり、日本における防衛費が急増し、さらにその費用のほとんどが諸外国への支払いを義務付けられるケースでしょう。
安全保障を諸外国に丸投げし、その支払いに税収が追い付かない事態となるなかで、国力が衰退の一途を辿る事態となれば、日本にハイパー・インフレーションが起こる可能性は高まります。
あくまで仮定の話ですが、いずれにせよこうした不測の事態が起こるとすれば、それは金融政策が要因ではなく、国家経営に問題がある場合であることを覚えておいてください。
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