第66回グラミー賞授賞式が、米・ロサンゼルス2月4日(現地時間)に開催された。多くのアーティスト達が集まり、華やか過ぎるほどの興奮に包まれて式典が進む中、誰もが予期していなかったサプライズが起きた。100万人に1人と言われる難病と闘うセリーヌ・ディオン本人がプレゼンターとしてステージに登場、およそ3年11か月ぶりに公の場に姿を現した。

第66回グラミー賞授賞式の会場となったこの日のクリプト・ドットコム・アリーナの真の主役となったのは、間違いなくセリーヌ・ディオンその人だった。

現在55歳のセリーヌ・ディオンは、非常に稀な進行性の自己免疫神経疾患である「スティッフパーソン症候群(以下、SPS)」と闘っている。

2022年12月8日自身のインスタグラムでSPSと診断を受けたことを明かし、筋肉が痙攣し、歩行が困難になり、何よりこれまでのように声帯を使って歌うことができない状況であると涙をこらえて語った。予定していたワールドツアー「Courage World Tour」の残りの日程もすべてキャンセルすると発表し、ファンに謝罪と感謝の気持ちを伝えた。

SPSの主な症状は筋肉の硬直と痙攣で、時には「骨を破壊するほどの激しい痙攣」に襲われることもある。筋肉の運動を制御する脊髄の神経細胞が自己抗体によって攻撃されるために起こる疾患であるが、その原因の完全解明には至っておらず、治療法も確立されていない。対処療法として鎮静剤や筋肉弛緩剤が用いられるという。

SPSを公表する前、コロナ禍でツアーの度重なる延期を余儀なくされたこともあり、ファンがステージに立つセリーヌ・ディオンの姿を見たのは、2020年3月のニュージャージー公演が最後となっていた。

それからおよそ3年8か月の時を経た2023年10月30日セリーヌ・ディオンの近況が突如本人から公開された。

セリーヌは、夫であり音楽プロデューサーでもあったレネ・アンジェリル氏(2016年に心臓麻痺で死去。享年73歳)との間にもうけた3人の息子レネ・チャールズさん(23歳)、双子のエディ君(13歳)とネルソン君(13歳)とともに、ラスベガスで開催されたナショナルホッケーリーグの試合観戦に現れた。彼女の故郷カナダ・ケベック州の「モントリオール・カナディアンズ」の応援に行ったと思われ、同チームのロッカールームで撮影されたセリーヌの笑顔はファンを一度は安堵させた

しかしそのおよそ1か月後の2023年12月、セリーヌの姉である歌手クローデット・ディオン(75歳)がカナダの『7 Jours』誌の取材に応じ、セリーヌSPSは進行していると明かし、懸命の努力はしているが、「筋肉をコントロールできない状態である」とその病状の深刻さを語った。

「(SPSは)あまり知られていない病気なので、希望を失っている人もいます。(ディオン家が運営する慈善団体)ママン・ディオン財団にセリーヌの消息を尋ねる電話がどれほどかかってくるか、ご存じないでしょう。みんなセリーヌを愛し、彼女のために祈ってくれています。ただ、私が悲しいのは、セリーヌがいつも規律正しく一生懸命だということ。私達の母はいつも彼女に『しっかりとやるのよ、しっかりとやるのよ』と言っていました。もちろん、彼女の夢も私達の夢も彼女がステージに戻るということに変わりはありません。ただ『どんな状態で?』と聞かれてもそれは私にも分かりません。声帯は筋肉だし、心臓も筋肉なのだから。それが最も大きな懸念点なのです。SPSは何百万人に一人という稀な疾患なので、科学的にもほとんど研究されていないのですから。」

このように家族や多くのファンがセリーヌ・ディオンの復活を願いながらも、一進一退とも取れるセリーヌの病状。そんななか、1月30日セリーヌ・ディオンの公式ウェブサイトにおいて、Amazon MGM Studiosが、アマゾンプライムビデオセリーヌの長編ドキュメンタリー『I Am: Celine Dion』の全世界配信の権利を獲得したと発表された。そこにセリーヌ・ディオンも自らの思いを以下のように寄せた。

「この2、3年は私にとってまさに挑戦の時でした。歌手としてのキャリアを再開するための道のりを歩む中で、ファンの皆さんにお会いできないことがどれほど寂しいことであったかを思い知らされました。そして、私の人生における病気との闘いを記録し、このあまり知られていない病気に対する認識を高め、同じ境遇の人達の助けになりたいと思ったのです。」

そして2月4日グラミー賞授賞式にプレゼンターとしてセリーヌ・ディオン本人が登場した。2020年3月のニュージャージー公演から、実に3年11か月という時を経てセリーヌ・ディオンが公のステージにその姿を見せた瞬間であった。その横顔は以前よりも少しふっくらとした印象だ。長男のレネ・チャールズさんに手を取られ、白いドレスの上に、熱気に包まれた会場にはやや厚すぎるようにも見える素材のテラコッタカラー(濃いオレンジ色)のコートを羽織ったセリーヌの表情は、いささか緊張しているようであった。

テイラー・スウィフトのアルバム『ミッドナイツ』に年間最優秀アルバム賞を授賞すべくステージに上ったセリーヌを迎えたのは、会場中からのスタンディングオベーションだった。

この時、様々な思いがセリーヌの胸の中に去来したのは想像に難くない。その表情からは、長い闘病のなか今ステージに立っているという事実、やっと自らの生の声で思いを伝えられることへの興奮と緊張、そして何より多くの人々が自分の復帰を心から願っていることを確信し、そのことへの感謝の思いが読み取れた。

「ありがとう、皆さん! 本当にありがとうございます。なんと素晴らしいことでしょう。今日この場に来ることができて本当に心から幸せです。」
「グラミー賞の授賞式に出席できる幸運に恵まれた人達は、音楽が私達の人生や世界中の人々にもたらす大きな愛と喜びを、決して当たり前だと思ってはいけません。」

万感の思いを込めてセリーヌは語った。セリーヌ自身もグラミー賞に過去16回ノミネートされており、年間最優秀アルバム賞と年間最優秀レコード賞を含む6部門を受賞している。

「27年前にダイアナ・ロスとスティングという2人のレジェンドが私に贈ってくれたグラミー賞を(テイラー・スウィフトに)贈ることができて、大きな喜びを感じています」と自身の過去の授賞式への思いについても述べ、自らが歩んできた道のりを感慨深げに振り返った。

授賞式でのセリーヌ・ディオンの姿を見守ったファンらは、突然のセリーヌの登場に驚き、抑えきれない喜びと感動の声を次々とあげている。

「2022年にSPSだと公表した時のセリーヌは年齢以上に老けて見えた。今日のセリーヌは間違いなくここ数年で一番元気で若々しい顔をしているよ。」
セリーヌに治療法が見つかることを祈りましょう。きっと新たな技術が彼女を救ってくれるわ!」
「まさかあの場(グラミー賞授賞式)にセリーヌが現れてくれるなんて。きっと彼女は良くなっているに違いないわ。」
「女王が帰ってきた! ついに女王が帰ってきた! 神様ありがとう。」
「私も彼女と同じ疾患を抱えているから彼女の気持ちがよく分かるわ。私も彼女を愛している。」
セリーヌが健康で強く、気力に満ち溢れている姿を見ることができた今日はなんて美しい日だろう。」

この日のグラミー賞で見せたセリーヌ・ディオンの姿は、彼女自身の復帰を超えた大きな意味を持っていたと言っても過言ではない。それは「音楽が私達の人生や世界中の人々にもたらす大きな愛と喜び」というセリーヌの言葉通り、音楽が持つ不屈の力と、個人の試練を乗り越える勇気の象徴に他ならない。

画像2、3枚目は『Céline Dion 2024年1月30日付Instagram「Get ready!」、2024年2月5日付Instagram「About last night.」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 村上あい)

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