世界最大の化粧品会社ロレアルグループの日本における研究開発部門であるロレアル リサーチ&イノベーション ジャパン(研究所:神奈川県川崎市、所長:アミット・ジャヤズワル、以下R&Iジャパン)は、2023年に創立40周年を迎えました。この間、イノベーションの促進に伴い、R&Iジャパンの研究開発の成果の情報発信を活性化させて参りました。2023年にはR&Iジャパン単独ないし研究パートナーと共同で、17件の論文・報文を発表。学会・セミナーでのプレゼンテーション2件、ポスター発表を4件行いました。こうしたイノベーションが扱うテーマも、化粧品処方の開発から、宇宙衛星搭載の望遠鏡に応用されているデータ処理技術に至るまで、多岐にわたっています。ここでは、2023年に発表されたテクノロジーの概要をお知らせいたします。

[フォトプロテクション(光防御)]

  • レアルR&Iフランスとの共同研究による「UVA1と高エネルギーの可視光が皮膚の色素沈着に与える影響」(1)と題する論文では、長波長UVAから可視光にわたるいくつかの波長範囲について、ヒトの皮膚に生じる色素沈着の経過を目視と機器で測定。いずれの波長範囲でも色素沈着が生じることを確認しました。この研究から、色素沈着を防ぐには波長400nmまでの長波長UVAに対する防御が必要なこと、また、高エネルギー可視光(400-450 nm)、青から緑の光(400-600nm)も色素沈着を起こしうることが明らかになり、これらの波長に対する光防御の重要性が議論されています。

  • 現在、化粧品の紫外線防御能は、in vivo法a)、すなわちヒト皮膚に直接ソーラーシミュレーター光b)を照射して、皮膚上に起こる反応(紅斑や黒化)を観察し、製品がどの程度その反応を抑制するかを目視で判定することによって決定されていますが、ロレアルは生体に頼らない「in vitro SPF 二重プレート法 (ISO/CD 23675) 」の開発プロジェクトに参画し、その実用化に力を注いでいます。その一環として、2023年6月には日本の化粧品技術専門家を研究所に招き、技術の詳細を紹介するワークショップを実施(既報2)。日本フォトダーマトロジー学会では「In vitro SPF試験法 (二重プレート法、ISO/CD 23675)」(3)と題し、技術の概要を報告しました。

[素材とフォーミュレーション]

  • (既報4)の通り、NIMS-L’OREAL マテリアルイノベーションセンターでの国立研究開発法人物質・材料研究機構との共同研究により、「ヘアスタイリング剤の応用を目指した形状記憶ポリマー」(5)、および「蛍光性高分子カーボンドットの光学特性と構造に関する新たな知見」(6)について、それぞれ論文を発表しました。また、このカーボンドットc)の酸化による色の変化を抑制する高分子骨格の働きについて、「天然ポリマーを含有する前駆体から合成した有機高分子カーボンナノドットの酸化遅延」(7)を名古屋バイオミメティクス国際シンポジウム(NaBIS)でポスター発表しました。

  • ポリイオンコンプレックスゲルパーティクル(PGP)テクノロジーについては(既報8)ですが、今年は「化粧移りを防ぐポリイオンコンプレックス技術」(9)と題するレビュー論文で、従来の製品に比べ化粧移りを低減し、かつ汗や水にも強いサンスクリーンの開発を発表しました。さらに、NaBISでは「ヒアルロン酸を含むポリイオンコンプレックスの化粧品への応用」(10)と題する口頭発表を行いました。今回、IFSCC2023バルセロナ大会でポスター発表した「新規PGPテクノロジーを使用したユニークな構造を持つ化粧品用フォーミュレーション」(11)では、新規開発のPGPテクノロジーは、化粧品フォーミュレーション中のPGPと親水性フィラーがとる構造が、フィラーのパフォーマンスをより良く発揮させることを報告しています。この技術は近々日本で発売される化粧品に応用される予定です。

[メイクアップ技術]

  • ウルトラマリンブルー(UB) は従来、化粧品に広く用いられている無機の顔料です。ロレアルR&I はUBを用いたファンデーションは通常の黒色酸化鉄を用いたものに比べ、カバー力が高く、皮膚色が均一で、しわや色素沈着も目立たなくなることを発見しました。論文「ウルトラマリンピグメントからの赤色光反射の化粧効果」(12)では、これらの効果は赤色領域の光(650nm以上)を反射するというUBの光学的性質によるものであると説明し、またin-vivoハイパースペクトルイメージングd)を用いて、実際のファンデーション処方における違いを実証しています。この発見は特に明るい肌用のオーダーメイドファンデーションの需要に応える製品に重要な役割を果たすことになるでしょう。

  • 自動車の塗装技術に発想を得て、2種のフレーク状の光輝顔料を用い、「単色アイシャドウで北アジア女性のまぶたを立体的に見せるための技術」(13)を開発しました。このアイスカルプトと名付けられた技術はシュウ ウエムラのアイシャドウ「クロマティックスクワッド」(e)に応用されています。

[ヘアケア技術]

  • 毛髪はブラッシング、ヘアアイロン、パーマ・カラーのような外部ストレスによって、表面ばかりでなく、内部も損傷を受けます。「損傷毛を改善するための特異な酸の組み合わせ」(14)と題する最新研究ではクエン酸アミノ酸の一つであるグリシンの組み合わせが、最も効果的に傷んだ毛髪に浸透し、内部の結合を補修することによって、機械的強度を回復することを発見しました。この技術は近々発売されるヘアケア製品に応用される予定です。

[評価法]

  • 「化粧品のダイナミックパフォーマンス評価のためのビデオによる一対比較法」(15)では人間の動きに伴うメイクアップ化粧品の効果を検討するために、ビデオによる評価法を開発しました。まぶたが立体的に見える効果を持つアイシャドウを評価した結果、これまでの写真による方法に比べてより現実に近い状況で判定を行うことができ、製品の立体効果がより詳細に評価できるという結果が得られました。この方法はシュウ ウエムラのアイシャドウ「クロマティックスクワッド」(e)の評価に使用されています。

  • 「マスク着用は対象の健康状態を知るための視線の動きを変化させる:日本人女性の場合」(16)研究ではマスクをかけたヒトの健康状態を見た目で判断する際、マスクをかけていない場合と比べて、観察者の視線はマスクを着用することで、目への注視時間が長くなり、観察部位は髪、額、首、デコルテに拡大していきました。マスク着用は見た目の健康度を低下させましたが、化粧によってこの傾向をある程度カバーすることがわかりました。

  • 理化学研究所(理研)チームとの共同研究によって、R&Iジャパンが開発した画像解析技術は、2019年に国際宇宙ステーション(ISS)から地球を観測する次世代望遠鏡Mini-EUSOのデータ解析にも応用されているのは(既報17)通りです。この技術は製品評価部のプロジェクトにおいて、大量の複雑なハイパースペクトルデータを扱うために開発されました。2023年には「ミニEUSO望遠鏡のISSへの搭載、認定、打ち上げ」(18), (f), (g)など、8件の論文が発表されました。画像解析に関連する主なものとしては、「ミニEUSO検出器による国際宇宙ステーションからの近紫外域における地球の夜間放射の観測」(19)があり、「国際宇宙ステーションに搭載されたMini-EUSO検出器で取得された、緯度範囲-51.6

    配信元企業:日本ロレアル株式会社

    企業プレスリリース詳細へ

    PR TIMESトップへ