贈与税は、1年間の贈与額が110万円未満の場合は非課税とされています。また、通常、生活費や仕送りについては、贈与税はかかりません。では、親から生活費として受け取ったお小遣いの総額が年間110万円を超えた場合には、どうなるのでしょうか? 本記事ではAさんの事例とともに、親からのお小遣いの注意点について、税理士事務所エールパートナーの木戸真智子税理士が解説します。

父親の会社でゆったり働く39歳息子

39歳のAさんは、現在、父親の会社が管理している不動産賃貸業の取締役として、不動産管理業をしています。

大学を出てからは、新卒で入社した会社で数年ほど働いていましたが、出張や残業も多く、ハードな勤務だったため、体調を崩して退職しました。それ以来、父親の会社の手伝いをするようになったのですが、不動産管理業ということもあり、父親の会社では、日々なにかに追われて仕事をするという状態ではなくなりました。むしろ、比較的時間に余裕を持った日々を過ごすことができるように。もともと映画が趣味だったので、時間があれば、映画館にいったり、好きな音楽を聴いたり、ときには、一人旅をすることもありました。

ひとつだけ…Aさんの切実な悩みとは?

一見、幸せな生活のように見えますが、Aさんにはひとつ、大きな悩みがありました。それは出会いがないことです。

会社といっても家族経営。そのため、家族以外の人と話す機会といったら、入居者や不動産屋さんなど、決まった人ばかり。かといって、結婚相談所に相談する勇気もなく、気づけば30台後半となり、40歳目前の最後の年となっていました。

いつかは結婚して、家族を持ちたいと思っていたAさんは、「そろそろ本気で考えなければ……」と焦っています。

そんなAさんのことを60代の両親も少し心配していました。昔から、まじめで心優しいところがあり、いい出会いさえあれば、結婚してよき夫、よき父親になれるだろうと思っています。しかし、控えめで積極的になれない性格なのは両親もよくわかっていたため、両親も思い切って、知り合いにご縁がないか相談をすることに。

すると同じように悩んでいた友人の知り合いがいると知り、早速、お見合いをすることになりました。Aさんは「自分みたいな内気な性格ではお見合いなんてしても絶対に上手くいかない」と、最初は乗り気ではありませんでした。しかし、両親からの説得もあり、悩んでいたことも事実だったため、結局はお見合いをすることになりました。

お見合いからめでたく結婚!新居を購入すると…

お見合いは予想以上に順調に話が進み、Aさんも相手に対して、とてもいい印象を持つようになりました。そうなると話は早く、親同士が引き合わせた縁談ということもあったため、婚約まではそう時間はかかりませんでした。

急な展開ではあるものの、真面目なAさんは、家庭を持つということに期待と責任感を持つようになり、結婚後の生活について真剣に考えるようになりました。

もともと、不動産管理をしているので、住まいについては、しっかり整えたいと考えていました。それはAさんの父親も同じで、新居を建ててはどうかという展開に。Aさんもいずれ子供が生まれることを考えたら早いに越したことはないと思い、婚約者と家探しを始めます。

従来、不動産には詳しいAさんと両親も協力のもと、早々に理想的な土地が見つかりました。不動産業者のネットワークがあったことはやはり功を奏したようです。実家の近くという点も非常に好都合でした。周辺環境もよく、教育環境も充実しており、婚約者も気に入ってくれました。

「ここしかない!」と思ったのですが、やはり、そんな場所は土地代だけでも高く、建物を合わせると相当な値段になりました。

しかし、出会いがないことに長いあいだ悩み続け、やっとの思いで婚約まで漕ぎつけたAさんにとっては、このような大きな買い物も幸せなことです。思い切って購入を決断しました。

長らく独身生活であったことと、真面目なAさんは派手な生活をしていたわけではなかったため、通帳に貯まっていた4,000万ほどの頭金を出すことができました。

あとは、完成を待つのみで、結婚式や披露宴、新婚旅行など、慌ただしくも幸せな日々を過ごしていました。

ある日突然届いた「税務署」からのお尋ね

そうして、新居で新生活を送っていたある日、税務署よりお尋ねの文書が届きました。

どうやら中身を見ると、新築した不動産について、どこから購入したのか、どのように資金を調達したのかというまるでアンケートのような書類でした。よくある統計資料なのか、回答も任意のようだったため、特に気にも留めず、そのままにしていました。

そんなある日、Aさんのもとに再度、お尋ねの文書が届きました。さすがに、2回目となると回答をしないとと思い、わかる範囲で回答して、投函しました。

そんなある日、税務署からAさんのもとに電話がかかってきます。

「ご提出いただいた回答内容についてお尋ねしたいのですが」

ということで、さすがにこんなに連絡がくるのはと、Aさんも気になって、面談をすることにしました。

税務署のお尋ねの対象となったワケ

そして、面談当日、資金を支払った通帳などいろいろ持参して説明をしていたところ、「贈与税の申告漏れがありませんか」と問われました。Aさんは驚いて、聞き返します。

「どういうことでしょうか。こちらは私の名義で貯金している通帳なのですが?」税務署の担当者はその通帳の入金元をみていたのでした。

Aさんは父親から、旅行のたび、お正月、GWなどのイベントのときに、まとまったお金を受け取っていました。そんなに派手に使うこともないAさんは、余ったお金を貯金していました。

Aさんが会社を退職して家業を手伝うようになってから恒例行事のように受け取っていたのと、父親も生活の足しにと、ちょっとしたお小遣いのつもりで渡していたので、Aさんもあまり深く考えずに受け取っていたのでした。というのも、不動産管理会社の取締役として受け取っている役員報酬は35万円と抑えめで設定されており、お小遣いにしては額が大きいけど、助かるなという気持ち程度でした。

しかし、このいびつな状態が、お尋ねの対象となってしまったのです。

役員報酬からみた年収に対しての資金の支払金額や通帳の状況など、税務署からみて少し不信感を抱く結果となってしまいました。通帳の入金についても合計してみるとここ数年でも2,000万円近くに、多い年には1年で200万円以上にもなっていました。

税務署は専用のシステムによって、過去10年間分の収入や通帳等の財産を把握することができます。このシステムは国税総合管理システム(KSK)といわれています。

国税庁や税務署では、これにより納税者情報を管理しており、そこには給与や確定申告のデータが登録されているため、そこに記録されている所得状況と預金の状況を照らし合わせて調査します。

これらと照らし合わせて、預金の経緯や使い道を調査してくことになるのです。これまでの蓄積された過去データがあるので、申告をすべき人がしていなかったりすると税務調査の対象やお尋ねの対象になることがありますし、膨大なデータをもとに照らし合わせることで高確率で発覚します。

これにより不自然な預金の動きがあれば、一目でわかってしまうのです。結果として、Aさんは税務署の担当者と話し合いの結果、贈与税の申告漏れであることが発覚しました。

生活費や仕送りに贈与税はかからないはずでは?

通常、生活費や仕送りについては、贈与税はかかりません。しかし、これらの生活費や仕送りも一定額を定期的に送るということではなく、まとまった金額を渡し、さらにそれを預金しているなどの場合、贈与税の対象となる可能性があるのです。

Aさんの場合には、まさにその対象とされたことで贈与税の申告漏れと判断されることとなりました。贈与税の税率は比較的高めに設定されているため、直近の申告漏れでも170万円となりました。

Aさんの不動産購入というイベントについて、贈与税においては、親などから資金援助を受ける場合の非課税の制度が設けられているので、上手に利用することで、予想外の税金がかかることを防ぐことができます。

父親もAさんを想ってのことですので、予想外の結果になるとお互い残念な気持ちになってしまいます。日々の生活で見逃しそうになることでも、少し視野を広げることで気持ちよく想いを届けることができます。

木戸 真智子

税理士事務所エールパートナー

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー

(※写真はイメージです/PIXTA)