トイ・ストーリー」シリーズや「マイ・エレメント」(2023年)などのアニメーション作品を手掛けたピクサー・アニメーション・スタジオが製作する「SPARKSHORTS」プログラムから、オリジナル短編映画の最新作「マイセルフ」(ディズニープラス)が2月2日に公開された。同プログラムの短編作品シリーズはピクサー・アニメーション・スタジオ所属のアーティストやディレクターの養成を目的としたプロジェクトで、2018年8月よりスタート。最新作となる「マイセルフ」は、仲間に溶け込もうとする木製の人形が、星に願いごとをしたことから“本当の自分”を見つける旅を描いたショートストーリーだ。新たな試みに次々と挑戦し、斬新なクリエイティブを生み出す「SPARKSHORTS」の魅力を、最新作の見どころを合わせて紹介する。(以下、ネタバレを含みます)

【動画】他人とは違う個性を持った子どもの父の葛藤と決意

■独創的で個性が光る短編作品が続々と公開

ピクサー作品といえば、2023年に公開された長編映画「マイ・エレメント」が、現地時間2024年3月10日(日)にアメリカで開催される「第96回アカデミー賞」の長編アニメーション映画賞にノミネートされたことも記憶に新しい。同作はカラフルで個性的なエレメントたちが暮らす世界を舞台に、火と水の正反対な2人のピュアなラブストーリー。ストーリーもさることながら、“多様性の時代”に対するメッセージに心を打たれる物語だった。

そんな監督自身の思いや経験などを基に製作されるピクサー作品には、想像のみだけでは決して表現しきれない、多種多様な思いが込められており、またどんな観客も置いてけぼりにはしないメッセージ性も感じさせられる。短編作品を通して同スタジオに所属するクリエーターたちの新たな可能性を発掘すべく、2018年から動き出したプロジェクトの「SPARKSHORTS」も他のピクサー作品と同様にさまざまな思いが込められているのだ。

同プロジェクトはとてもシンプルなルールのみが掲げられており「物語であること」「CGでも2Dでも良いので全ての観客を対象にすること」「製作期間は6カ月間」以外は、特に決まっていない。その年の「SPARKSHORTS」を担当するクリエーターが同僚たちの前で発表され、社歴や年齢問わずに新たな試みへのチャンスをつかむ姿がドキュメンタリー映画「SPARKSHORTS 誕生の物語」(2021)では映し出されている。全ての作品が6〜9分ほどで構成されており、さまざまな手法を用い、個性豊かにストーリーが演出されている作品が多く見受けられる。

■クリエーターの実体験や思いが作品に反映

例えば2019年に公開された「心をつむいで」では、誰もが憧れるようなスタートアップ企業に入社したピンクの毛玉のキャラクター・パールが、古典的な男性社会として成立されている社内に溶け込むために葛藤する姿が描かれた。パールは他の同僚男性のような話し方や黒いスーツをまとい、次第に自分の立ち位置を確立させていくのだが、それは「本当に自分が望んでいたことなのだろうか?」と、自問していく。

これは同作で脚本・監督を務めたクリステン・レスター氏がピクサー・アニメーション・スタジオに入社する前に通っていた会社での実体験を反映している。主人公を毛糸のキャラクターにした理由は「毛糸は何にでもなれる。だから自分を変えようとする主人公にマッチしていた」と語っており、自身の体験とユニークな発想で手掛けられた作品から勇気がもらえる。

また同年公開された「宙を舞う」では、他の子どもとは違う“宙を舞う”才能を持つ息子の父親が、世間を避けて隠れて暮らす生活を送っていたが、逃げることをやめ、ありのままを受け入れる決意をするまでを描いている。

同作で脚本・監督を務めたボビー・ルビオ氏は、自分と自閉症の息子との関係性を物語にするため、登場人物も自身と同じフィリピン系アメリカ人の設定で描いたという。普段はストーリーアーティストとして、ピクサー・アニメーション・スタジオで活躍しているルビオ氏だが、この作品で初めて監督を担っており、枠を超えた新たな試みにも触れられるのが「SPARKSHORTS」作品の魅力の一つだろう。

■セリフなしの手法で描く、ショートフィルムの最新作

最新作の「マイセルフ」にはセリフが一切なく、木琴のような耳に残る特徴的なサウンドのみで物語が紡がれていく。周りに溶け込もうと必死にもがく木製人形の自分探しがテーマになっているが、作品には社会問題に対するメッセージも込められているような印象も受ける。

全CGで製作された本作の絵コンテや製作エピソードの一部が、ピクサーの公式YouTubeチャンネルで公開されており、繊細な動きの製作過程やキャラクターの背景を知ってから本作を楽しむのも良い体験になるだろう。

短編映画「マイセルフ」はディズニープラスにて独占配信中。

◆文=suzuki

映画「マイセルフ」はディズニープラスで独占配信中/(C) 2024 Disney/Pixar.