イラン戦の敗因をフカボリ!
イラン戦の敗因をフカボリ!

不動のボランチとしてジュビロ磐田黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカープレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第88回のテーマは、アジアカップ準々決勝のイラン戦について。残念ながらベスト8という不甲斐ない結果に終わった日本代表。なぜ日本はあれほど苦戦したのか、その理由を福西崇史が深掘りする。

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先日2月3日(土)、日本代表がAFCアジアカップ2023の準々決勝でイランと対戦し、1-2で敗れ、ベスト8で敗退しました。3大会ぶりの優勝を目標に臨んだ大会で、非常に大きな期待感もあり、プレッシャーはかなりあったとは思いますが、ベスト8というのは残念でしかない結果だと思います。

前半の立ち上がりは互いに様子見という時間帯だったと思います。日本がボールを持つ展開で、イランはそこまでプレスに出ず、ミドルサード(中盤)まで引いてブロックを組む形で日本の出方を見ていました。

そうした中で日本は引いた相手のブロックを崩すというのが、アジアの国を相手にするときに大きなテーマとしてあるわけですが、先制点はこの試合唯一そのブロックを崩せた場面だと思います。

前半28分に守田英正が左サイドに流れて相手を引きつけ、上田綺世に斜めのパスを出し、そこで起点が作れたことで相手のセンターバック(CB)を引き出すことができました。そのスペースに守田がうまくボールを運んで先制のシュートが生まれました。上田とのコンビネーションで、ブロックの中へ侵入して崩した良い得点だったと思います。

前半を1点リードで折り返しますが、後半からイランの圧力に徐々に苦しめられる展開となりました。まずは相手がロングボールを蹴る回数を増やし、それをあまり跳ね返さなかったことはしんどかったと思います。

跳ね返せないことで、日本の中盤は必ず戻らなくてはいけないわけで、日本の全体のラインは必然的に下がることになり、運動量は相当増えることになります。さらに跳ね返せなかった時にセカンドボールを拾うこともできていませんでした。

これは日本が前からプレスにいくと中盤の選手も合わせて前へ出ていくため、ロングボールを蹴られたあとのスペースへの戻りが間に合わないわけです。

さらに相手のロングボールが増えることで、日本のDFは裏を取られるのが怖くてラインを上げづらくなり、前からプレスに行きたい前線の選手との板挟みになって中盤の選手がどっちつかずの立ち位置になってしまう。

これはよくあることです。ただ、そうなったときに選手間でコミュニケーションを取ったり、監督の指示によって修正ができていたかというとできていませんでした。

また、ロングボールを放り込む先として、板倉滉が狙われたこともポイントでした。冨安健洋よりも板倉とのマッチアップをイランが選択したということですが、これは日本の右サイドバックが積極的に上がるので、右CBと右SBにギャップができやすいというのも狙われた理由だと思います。

日本の右SBは菅原由勢であっても、毎熊晟矢であっても攻撃が持ち味で、積極的に高い位置を取ることで必然的に右サイドの裏にはスペースが生まれやすく、右CBとの距離も遠くなります。イランはそれも含めて板倉サイドを狙うことが多かったと思います。

そのリスクは日本も承知の上なので、それが分かった上でどう対応するのか。守備ラインがスライドして対応するのか、あるいはボランチがカバーするのか。板倉個人というよりも、チームとしてどうするかが足りなかったと思います。

結果的にですが、最後のPK献上はそんな日本の混乱を象徴するようなシーンだったと思います。

苦戦を強いられたもう一つの理由は、後半になってイランがプレスのかけ方を変えて、サルダル・アズムンとサマン・ゴドスが日本のCBに対してプレッシャーをかけてくるようになったことです。

それによってビルドアップで前へ効果的にボールが運べなくなり、GKへボールを戻して前へ蹴るという選択ばかりで、結局こちらは苦し紛れにロングボールを蹴らざるを得くなっていました。また、そのセカンドボールを拾うこともできず、相手へボールがわたり、また揺さぶれるという悪循環。最初の失点はまさにそんな展開からでした。

仮にそこでマイボールにできて、相手のDFと入れ替わることができれば、日本のペースになっていたかもしれません。ただ、それをするにはDFから前線の選手までの距離感が遠く、ボールが入ったとしても2列目の選手との距離も空いていたのでサポートが遅れて難しかったと思います。

苦しんだのはアンカー遠藤航とその周りの選手との距離感が悪いことも挙げられます。CBにプレッシャーがかかっても遠藤へ縦パスを入れることができたと思います。ただ、その先のサポートの距離感が悪かったり、相手を外せる良いタイミングで動けていたわけではありません。

アンカーにパスを出してもその次のところに問題があったので、日本はビルドアップがうまくいかず、ゲームをコントロールすることができませんでした。

それはイラク戦もそうでしたが、そもそもそういった状況になったときにチームとしてどうするかという落とし込みがなされていなかったし、選手たちの判断も悪かったと思います。いずれにしてもCBにプレスがかかったときのビルドアップは、日本の大きな課題の一つとして残ったと思います。

イラン戦は現時点の日本代表の課題を浮き彫りにされた、非常に教訓となる試合だったと思います。ただ、そうした課題があったとしても日本は鈴木彩艶をはじめ、経験の浅い選手を起用しながら優勝ができるメンバーだったと思うので、非常に悔しい結果でした。

構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜

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