『週刊ダイヤモンド』2月10日号の第1特集は「倒産危険度ランキング」。4月ショックで倒産激増が懸念されています。そこで今回、倒産危険度を総点検したところ、472社が倒産“危険水域”と判定されました。特集では新企画の「企業を倒産させた金融機関ランキング」もお届けします。(ダイヤモンド編集部編集委員 清水理裕)

2023年に倒産件数は35%増加
4月以降さらに増える二つの理由

 2023年の全国の企業倒産件数(東京商工リサーチ調べ)は8690件に膨らんだ。前年比35.1%も増加し、増加率としては1992年以来の高水準に。倒産急増の背景にあるのは、原材料高や人件費の上昇。コロナ禍対策として企業の資金繰りを支えた実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済本格化などである。

 しかし、これからさらに倒産件数が増える波が来そうだ。新年度に大きなイベントが二つあるためで、4月以降は注意が必要になる。

 イベントの一つ目は、人手不足における「2024年問題」。政府は19年に、時間外労働に罰則付きの上限を定める働き方改革関連法を施行した。しかし、建設業界や物流業界では過重労働が定着しており、すぐに実施するのが困難だった。

 このため、労働環境や働き方の見直しに時間がかかるとして猶予期間が与えられていたが、24年3月末にこの猶予期間が終了する。両業界でも時間外労働の上限規制が適用される。人手はさらに不足し、人件費高騰は避けられない。経営不振に陥っている関連企業にとっては、大きな打撃となる。

 もう一つ注目すべきイベントは、金融庁がこの春に改正する金融機関向けの監督指針だ。コロナ禍後の経済活動が正常化したことを受けて、「金融機関は企業の資金繰り支援から事業再生に軸足を移すように」というお題目が示された。この中で「問題を先送りせず」との文言が盛り込まれ、金融業界で困惑が広がっている。

竹中平蔵の悪夢、再びだ」――。こんな思いを吐露する地方銀行幹部もいた。一体どういう意味なのか?次ページで説明したい。

銀行幹部が漏らした本音「竹中平蔵の悪夢、再び」の意味するところは?

倒産予備軍のゾンビ企業が急増中
倒産実績の29倍まで社数が膨張

 地銀幹部はこう説明する。「先送りせずに、というのは要するに経営不振企業に対して引き当てを積むように、ということ。事業再生を前面に打ち出して、奇麗事でオブラートに包んでいるが、結局は(02年に不良債権処理の加速を迫った当時の金融担当相)竹中平蔵の悪夢、再びだ」――。

 現実的には、事業再生に関して金融機関が企業側にできることといっても、コストカットの提案くらいしかない。再生の要である、売り上げを伸ばしたり事業構造の転換を図ったりするという分野は、どうしても経営者の専門領域になる。地銀幹部の嘆きも、むべなるかな、という面がある。

 いずれにせよ、コロナ禍で企業の資金繰りをつなぐことを第一としてきた金融機関の融資姿勢が4月以降、厳しくなる恐れが出ている。従来のように、借入金の返済条件の変更(リスケ)や借り換えに安易に応じることは難しくなる。

 帝国データバンク情報統括部の内藤修・情報編集課長は「コロナ禍以降、金融機関は企業からのリスケ要請に99%応じてきた。融資先の選別が進む過程で4月以降、金融機関が返済条件の変更に応じる比率が下がるリスクは十分にある」と警鐘を鳴らしている。

 もう一つ、気になる数字がある。本業の利益で借入金の利払いすら賄えない「ゾンビ企業」が急増しているのだ。帝国データバンクが、国際決済銀行BIS)が定めるゾンビ企業の定義に沿って集計したデータ。その推移が下図になる。1月19日発表の22年度のゾンビ企業数は、前年度比28.1%増の25.1万社だった。

 過剰債務の状態に陥って収益が全然戻らないのに、金融機関によるリスケや政府による資金繰り支援で延命してきたゾンビ企業。「倒産予備軍」としかいいようのないこうした企業が急増する背景には、やはりコロナ禍でゼロゼロ融資が広く行き渡ったことがある。

 その結果、23年の企業倒産件数に比べ、約29倍の水準までゾンビ企業が積み上がった。しかも恐ろしいことに、このゾンビ企業数はまだ22年度段階の数字。金利上昇懸念の高まりは、それ以降の話で、もしも実際に金利が上がればゾンビ企業の急増はさらに加速する。

 実際、金利が正常に機能する世界に向けて、日本銀行が4月にもマイナス金利解除に動くとの見方は根強い。今後、ゼロ金利解除、利上げへと段階的に進めば、多くの企業が新たな借り入れに窮する。ゼロゼロ融資で膨らんだ過剰債務の返済や原材料高、賃上げや金融機関による融資姿勢の厳格化などと相まって、4月以降、大倒産時代が待ち構えているのだ。

銀行に不良債権処理の加速を迫った竹中平蔵氏 Photo:Kurita KAKU/gettyimages