定年後も働くことは珍しいことではありませんが、現役バリバリだった時代とは異なり、希望する働き方には変化があるようです。60代シニアが希望する仕事、希望しない仕事、それぞれみていきましょう。

60~64歳の7割、65~69歳の5割が現役を続行…働くシニアは、いまや当たり前

厚生労働省の調査によると、94.4%の企業で定年制を導入。そのうち「定年年齢を定めている」という企業は96.9%で、そのうち「60歳定年」とする企業は72.3%、「65歳定年」とする企業が21.1%です。つまり、日本では「60歳で定年を迎えますよ」という企業が6割強になります。

では60歳で定年を迎えたら、それで「現役を引退=仕事を完全に辞める」なのかといえば、そういうわけでもなさそうです。

総務省『労働力調査 2022年平均』によると、「60~64歳」の就業率は73.0%、「65~69歳」は50.8%、「70~74歳」は33.5%、「75歳以上」は11%。65歳以上の就業率は25.2%になります。現状、60歳定年が多いものの、60代前半では7割強が、60歳後半でも半数以上が現役を続行しています。また10年前との変化をみていくと、特に60代前半で働く人が増えていることが分かります

【年齢別「2012年→2022年」就業率】

60~64歳…57.7%→73.0%(15.3)

65~69歳…37.1%→50.8%(13.7)

70~74歳…23.0%→33.5%(10.5)

75歳以上…8.4%→11.0%(2.6

65歳以上…19.5%→25.2%(5.7)

※(かっこ)内は、2012年と2022年の増加幅(%)

定年後となる60代前半も働く……その決断に至らしめるひとつの要因が年金受給のタイミング。現在、公的年金の受給開始は原則65歳。60歳で定年→引退した場合、5年間、無収入の期間が生じます。

総務省『家計調査 家計収支編 2022年平均』によると、世帯主60~64歳(世帯人数2.52人)の月平均支出額は28万7,126円。単純計算、5年間で1,722万7,560円となり、預貯金がどんどん減っていく様子をただ眺めるだけになります。それに耐えられるだけの余裕があれば別ですが、多くの人は「そんなの恐ろしい……」と、働き続けることを選択しています。

60代シニアが「希望する仕事」「希望しない仕事」

厚生労働省令和4年 賃金構造基本統計調査』によると、働く60代の平均給与は、「60~64歳」で月収29.5万円、年収で444.8万円、「65~69歳」で月収25.7万円、年収で360.2万円。そんな働く60代についてもう少し深堀していきましょう。

産業雇用安定センター『60代シニア層の就ニーズに関するアンケート調査』によると、「仕事で重視すること」として最も多く挙がったのが「仕事の内容や職場の働きやすさ」で40.1%。「就業場所・就業時間」34.9%、「就労日数・就業時間」33.7%、「これまでの職業経験・知識を活かせる」32.5%と続きます。

「給料」は25.1%。60代前半では31.4%であったのに対し、60代後半では18.8%と大きく減少。また「週何日働きたいか」の問いに対しては、「週2~3日」が37.8%、「週4日」が28.7%で、「週5」は29.4%で3割弱。また「1日何時間働きたいか」の問いには、「6~8時間程度」が48.2%に対し、「4~5時間程度」が44.4%と、「定年後はフルタイムで働かなくてもいい」「余裕のある働き方がしたい」という人が多いようです。

もちろん「働かないと生きていけない」という切実な人も一定数いるものの、定年後も働き続けるために「お金は二の次」と考える傾向が強いことが伺えます。

そんな60代。希望する仕事について聞いていくと、最も希望者が多い仕事は、「行政・公的機関での事務補助(年単位雇用)」で65.2%。「事務補助・雑務」「商品仕分け・梱包業務」「一般事務」「行政・公的機関での一定知識を用いた相談業務(年単位雇用) 」と続きます。

*「他に仕事がなければ希望したい」「希望したい」「積極的に希望したい」の合計

一方で「希望しない」つまり、「やりたくない仕事」でとして最も多かったのが「バス運転手」で91.9%。「タクシー運転手」「道路交通誘導員(夜勤あり)」「トラック運転手(荷物積み下ろしあり)」「製品製造・加工処理(経験要)」と続きます。

あくまでも同センターは企業からの支援依頼が前提で、その後個々の従業員に対して在職中から再就職支援を行うという業務の特性上、働く60代の意向のすべてを反映したものではありませんが、避ける仕事として挙げられるものは、「新たに資格を必要とする仕事」「体力面で“キツイ”とされる仕事」。どの年代でも避けられる傾向があるものの、特にがむしゃらに働いてきた現役時代に比べて、定年後は余裕のある働き方をしたい……そう思う人も多いのでしょう。60代シニアはより「キツイ印象の強い仕事」を避けられる傾向にあるようです。

【働きたい60代が「避けたい仕事」ワースト10】

1.バス運転手…91.9

2.タクシー運転手…90.2%

3.道路交通誘導員(夜勤あり)…89.5%

4.トラック運転手(荷物積み下ろしあり)…87.1%

5.製品製造・加工処理(経験要)…86.6%

6.建設・土木・電気工事…84.3%

7.道路交通誘導員(夜勤なし)…84.1%

8.営業(ルートセールス)…81.7%

9.営業(販売開拓)…79.9%

10.商業施設・公共施設の警備員(夜勤あり)79.6%

ここで注目したいのが「2024年問題」として、人手不足が深刻化している「運転手」。避けたい仕事として上位にランクインしています。問題解決策のひとつとして「高齢者の積極採用」が挙げられていますが、シニアの意向をみていくと、かなり厳しい道筋になることが、このランキングからも分かります

[参考資料]

厚生労働省『令和4年 就労条件総合調査結果の概況』

総務省『労働力調査 2022年平均』

総務省『家計調査 家計収支編 2022年平均』

厚生労働省『令和4年 賃金構造基本統計調査』

産業雇用安定センター『60代シニア層の就ニーズに関するアンケート調査』