伝統的企業で働く人々は、スタートアップや外資系企業であれば女性活躍が進みやすいのではないか、といったイメージを持っているかもしれない。しかし、米アフラックの日本法人、アフラック生命保険の橋本ゆかり執行役員チーフダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO)は、「創業時から女性が活躍していると思っていた当社も、ふたを開けてみればそうではなかったんです」と振り返る。今でこそ、女性が活躍する会社として知られる同社だが、以前はその環境が十分に整っているわけではなかったということだ。橋本CDIOに、ここに至るまでの道のりを聞いた。

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シリーズ「女性リーダーが描く新時代」ラインアップ
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ヤマダHDの女性管理職急増の秘訣は、「ある施策」をやめることにあり?


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女性リーダーのデータを見て、受けた衝撃

──アフラックでは、2014年に「女性の活躍推進プログラム」を策定しました。この経緯を教えてください。

橋本ゆかり氏(以下敬称略) アフラックは日本法人に限らずグローバルに、人財を大切にすることをコアバリューとしています。そのため日本法人でも1974年の創業時から、男性・女性で仕事を分けないという考え方が存在し、総合職・一般職という区別もありませんでした。

 また、当社はイノベーション企業文化の醸成を掲げています。新しい価値の創出は多様な考え方があってこそなので、この点からダイバーシティ、そしてその第一歩として、女性活躍を重視しています。

──女性の活躍推進プログラムが始まる前は、どのような状況だったのでしょうか。

橋本 創業時の当社は、女性社員の方が多かったんです。日本での営業を開始してからしばらくの間は知名度を獲得していく段階だったこともあり、男性の採用が難しかったと聞いています。私が入社した1989年も、同期は女性が男性の倍くらいの人数でした。今は男女比がほぼ半々になっています。

 こうした経緯があったので女性の活躍推進プログラムの策定前後は、「女性は十分活躍しているのに、ここからさらに女性活躍を推進するのだろうか?」と感じました。

 しかし、社内でどれくらい女性が活躍しているかの調査を進めてみると、実態は想像と違いました。当社は1997年生命保険業界で初めて女性役員を登用するなど、女性活躍が進んでいる会社だと思っていましたが、2014年頃には日本企業の女性管理職比率も上昇してきており、他社とあまり差がなくなってきていたのです。

 当社の実情を知って、「このままではいけない」ということで、経営戦略として女性活躍を含めたダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)の推進に積極的に取り組むことになりました。

最も大切なのは「トップのコミットメント」

──プログラムでの取り組みを教えてください。

橋本 経営レベルから申し上げますと、社長を委員長とするD&I推進委員会を月1回開催しています。女性活躍に関するKPIの進捗確認をし、課題のある項目はディスカッションをして解決方法を探っています。

 現場レベルでは、管理職に対してD&Iマネジメント研修を、また女性管理職に対しては「AWLT(Aflac Women Leadership Training)」という相互研鑽のためのコミュニティーを作っています。

 AWLTは当初、各部署の上長が参加する女性をアサインして、企画内容を役員や部長級の社員が考え、アサインされた女性社員にプログラムを提供していました。しかし、社員の意欲を重視する新たな人財マネジメント制度の導入もあり、現在は参加したい人が全員参加できるものになっています。企画内容も会社が決めるのではなく、参加する人が決めています。

 また、柔軟な働き方の選択肢として、8パターンから選択できるシフト勤務や時短勤務、在宅勤務などを導入しています。

 以上の他にもさまざまな施策がありますが、私たちが最も大切だと考えているのが、トップのコミットメントです。トップのコミットメントによって、制度や施策の浸透を図ることができると考えています。

──トップのコミットメントが目に見えるような取り組みはありますか。

橋本 D&Iに関するシンポジウム、カンファレンスを2015年から行っていますが、ここで日米双方のトップや役員がD&Iの必要性を語っています。それだけでなく、経営陣の考えを聞いた社員各々がディスカッションをすることで、D&Iに向き合っています。

──プログラムが始まって約10年がたった現在の状況を教えてください。

橋本 先程、2014年の指導的立場にある女性の割合は17.5%と申し上げましたが、2019年に30.7%となりました。この数値は、2020年末に30%以上とすることを目標としていましたので、1年前倒しでの目標達成となっています。

 一方、ライン長ポストの女性の割合は、2014年の9.4%から2023年時点で27.0%まで上がりました。こちらは、2025年末までに30%以上とすることを目標にしています。

──着実に目標達成へと進んでいる要因は何でしょうか。

橋本 やはり、2014年の女性の活躍推進プログラムで重要6領域を設定し、地道に取り組んできたことが大きかったと考えています。

 推進当初の管理職向けの研修では、経営トップからD&Iの重要性を伝えた後、ディスカッションやロールプレイングをしていました。この中で「女性の力をどう伸ばしていくか」がテーマとなった際に、男性管理職が「女性にこんなこと言ってしまって大丈夫かな・・・?」と、躊躇しているケースがあったんです。当の女性である私からすれば、まったく問題のない内容でしたし、男性管理職がそのような不安を持ちながらコミュニケーションを取っていたとは知らなかったので、新たな発見にもなったのですが、このような研修を積み重ねて、今では上司・部下の性別に関係なく対話ができるようになりました。

“最も難しい部分から”小さく変化を始めることが円滑な改革のカギ

──多くの日本人は男女を分けて考えがちです。

橋本 ええ。家事や育児が女性の役割だという意識はまだあるように思います。性別による役割分担意識をできるだけなくすため、男性自身も柔軟な働き方の制度を利用する。また、男性管理職が部下に制度の利用を勧めて、育児への参画を促していくことも必要になるのではないでしょうか。男性管理職で、お子さんのお迎えのため早めに仕事を終え退社するような人が増えてくれば、周りもそうした行動を特別なことと受け止めなくなります。

 また、当社は2019年に男性の育児休暇取得率100%という目標を達成しています。会社として目標を掲げ、私たちは管理職に対して、部下と育児休暇の取得について対話するように、働きかけています。

 D&I推進部にいる男性のライン長は、過去に子どもが生まれたとき、「(育休を)取らないの?」と上司から聞かれたといいます。こうした、男性も育休を取るのが当たり前という雰囲気作りは大切ですね。

──変化に対してネガティブな意見などはなかったのでしょうか。

橋本 取り組みによっては、全社一斉で開始する、というのは難しい場合もありますし、たしかに反発が大きい可能性もあります。

 その点で、私たちは「スモールスタートで始める」「アジャイルで進める」といった方法を採ることがあります。

 スモールスタートの例として当てはまるのが在宅勤務です。当社では在宅勤務をコロナ禍より前に導入しました。最初は「年に1回、在宅勤務をしてみる」「管理職がまず、在宅勤務をやってみる」と小さな変化から始めたんです。そして、年1回の在宅勤務が定着してきたら、次は月1回と段階的に推進しました。

 このやり方は、私たち推進していく側にとっても学びがあり、改善につなげられます。

 在宅勤務でいえば、会社と家とで仕事をする環境が違う場合がありますよね。会社のパソコンはダブルディスプレイだけれども、家にはディスプレイが1つしかない、というケースです。こうした課題を1つずつ見つけ、社員の皆さんと一緒に改善していけたことが、全社的な取り組みにつながったと思います。

──小さく始めることで、対応の方法が分かり、成果に結びつきやすいということですね。

橋本 先程の在宅勤務の導入事例では、在宅勤務に向けた課題がある部署と協業しながら始めていきました。そうした部署の協力があって、全社的な取り組みにつながっています。

働く女性はロールモデルを意識し過ぎる必要はない

──女性の活躍推進プログラムのスタートから約10年がたち、女性社員の方々はどう受け止められていますか。

橋本 女性の活躍推進プログラムを開始して10年が経過し、女性のキャリアに対する意識の変化を感じています。特にそれを感じるのは、離職率の改善においてです。

 女性の活躍推進プログラムが始まった2014年は、20代女性の離職率が14.3%と当社としては高い数値でした。30代女性も7.6%と、やはり高かった。この数値が、2021年には3~4%まで低下しています。同年代の男性の離職率は過去から3~4%程度で推移していますので、それと同水準にまで下がったんです。

 20代、30代といえば、子育て世代です。かつての女性社員は、お子さんを授かると会社を辞めてしまっていたのが、時短勤務やシフト勤務、在宅勤務などで仕事と子育ての両立ができるようになったということですね。

 なお、女性に限った話ではないのですが、プログラムのスタート後、人事制度を“適所適財” 重視の方向へ変えました。以前の人事制度では、昇進をするには職位ごとの経験年数が求められていたのです。このような変化もあり、女性が活躍できる環境が整ってきたと考えています。

──女性活躍やD&Iが浸透していくためのマネジメント方法を教えてください。

橋本 まず、さまざまな制度を用意したところで、社員にそれを使ってもらわなければ意味がありません。例えば、「家族の介護が必要な社員は時間休を取って良いことにしましょう」と決めても、その介護が必要な当人が休みを取得しないケースも多々見られるんです。自分たちだけが優遇されていると感じてしまうと、使いづらいんですよね。

 これでは意味がありませんので、特定の社員しか使えない制度は作らない方が良いと考えています。

 それと、やはり目標の設定は大切です。「育児休暇取得率100%」と目標を決めれば、自然とそのための行動を起こせるようにもなります。

──数値目標というと、目標達成のためだけに女性を登用しているのでは、とネガティブなイメージを持ってしまう方もいそうです。

橋本 いわゆる「女性に下駄を履かせて、目標を達成するのか」という話ですよね。たしかに、そういった意見もあると思います。

 でも、役員や管理職を務められる女性がいないというならば、女性が活躍できる環境を整備し、女性社員をどのように育成し、登用するかを考えれば良いのではないでしょうか。

 私は、女性活躍やD&Iの目的は、女性割合といった数値目標を達成することではなく、どのように人財を育成していくか、ということであり、その結果として会社が持続的に成長することだと考えています。

──アフラックで女性活躍推進の施策が成果を生んだ大きな理由として、スモールスタートとトップのコミットメントを挙げられました。今振り返って、それ以外に大切と思われるポイントはありますか。

橋本 「実態を見る」ということを最初にすると、行動に移しやすいと思いました。当社では、女性の活躍推進プログラムを始める前は自社を「女性活躍が進んでいる会社」だと思っていたのに、データをきちんと見たら「あれ?」と思うところがたくさんありました。女性管理職が少ないだけでなく、管理職の一歩手前にいる女性も少なかったんです。

 そこで、管理職の手前にいる女性をまず増やそう、という施策になり2019年に目標を達成したという流れになりました。

──女性が活躍する環境が整っていく中で、女性はどのように意識を変えていけばいいでしょうか。

橋本 社内外の働く女性と話す機会もあるのですが、彼女たちはロールモデルに当たる人を指して「私はあの人みたいに仕事をできません」「私はあの人のような知識や思考を持っていません」と言うんですよね。

 でも、ロールモデルと同じようにしなくたって、いいと思います。人それぞれに適したやり方があるのだから、自分なりの進め方で組織が良くなっていけばそれで問題ありません。仕事に関する知識が足りないと思ったとしても、周りに教えてくれる人が誰もいないということは、あまりないですよね。

 それとキャリアアップの声がかかったら、自分は評価されている、と受け止めてもらえればと思います。上司も任命責任がありますから、ふさわしくない人には声をかけません。キャリアアップの打診は自分に対する評価なのだと、率直に受け止めれば良いでしょう。

 そう受け止めてくれた人が、新しい世界を経験して、後に続く人の道を作ってもらえたら、最高ですね。

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アフラック生命保険 執行役員 チーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(CDIO)の橋本ゆかり氏(撮影:宮崎訓幸)