イラン戦の後半、状況を好転させる手を打てなかった森保監督の采配は批判されてしかるべきだろう(C)Getty Images

 国内外から「優勝候補筆頭」と目された日本代表だが、終わりは早かった。

 準々決勝でイランに1-2で完敗を喫し、アジアカップ2023はベスト8で帰路についた。

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 イラン戦は前半こそ悪くなかった。チャンスが多いわけではないが、ピンチも少ない。スコアも守田英正の先制ゴールにより、1-0で折り返し、上々の出来だった。

 ところが、後半に崩れてしまう。イランの背後をねらったロングボールとハイプレスに苦しめられ、日本は自陣に閉じ込められた。元々、カタールW杯以降の森保ジャパンは、高い位置からゾーンを敷くミドルプレスや、相手を押し込むサイド攻撃など、敵陣でプレーすることが前提の戦術に取り組んできた。

 その成果は得点力に表れ、親善試合では10連勝を成し遂げている。

 しかし、このプレーエリアの前提をイランに壊された。前半にイエローカードを受け、怪我の影響もある板倉滉をねらった執拗なロングボールに対処できず、自陣に引かされてしまう。一旦切り抜け、どうにか日本のボールで再開しても、今度はハイプレスを食らって自陣から抜け出せない。

 敵陣でプレーする前提のチームが、これだけ自陣でのプレーを強いられれば、苦戦は必至だ。相手のロングボールやハイプレスは、日本がグループステージで1-2で敗れたイラク戦を思い出す。イランはそれを参考にしたのだろう。今大会、日本が敗れた2戦は内容がよく似ていた。

 森保監督は試合直後、「采配のせい」と敗因を語った。55分に同点に追いつかれ、後退していく日本の流れを、67分に交代策で打開しようと試みたが、これは完全に裏目だった。前田大然は驚異的なカバー範囲とスピードで、久保建英はフリックやドリブル侵入など、ボールロストこそ多いが、単体で相手を押し返す質を随所に見せていた。言わば、チーム全体が良くない中で、効いていた2人。その2人を、三笘薫南野拓実に代えた。

 この交代策はラウンド16のバーレーン戦と、人もポジションも時間帯も全く同じ。つまり、予定された交代だろう。しかし、バーレーン戦のようにはいかなかった。イランは三笘に早いマンマークを付けてスペースを与えず、2人で寄せてスピードに乗らせない。南野も、自陣に押し込まれた展開で輝きを放つタイプではなかった。

 そして、次の交代カードは後半アディショナルタイムまで進み、1-2と逆転を許したゴールの後になる。森保監督はこの間、約30分動かなかった。

 板倉に代えて谷口彰悟か。あるいは板倉を外せないなら、町田浩樹を入れて3バックへ移行し、ロングボールへ対処する枚数を確保するか。もしくは中山雄太を左サイドに入れて伊藤洋輝を3バックへ移し、孤立していた三笘のサポート役に中山を付けるか。さらに前線も交代し、ロングボールの出処へのプレッシャーを強める手もあった。

 これらは筆者の妄想ではない。すべて、このアジアカップで実際に日本が見せた引き出しばかりだ。森保監督やチームスタッフの中に、アイデアはあったはず。だが、動かなかった。認知、判断、決断のフェーズで言えば、今回焦点が当たるのは、決断のところだ。

 その時点で2人しか交代していなかったので、普段の試合なら、すでに何枚か交代カードを切っていた。違いは延長戦の有無なので、今回は延長を意識したのは間違いない。延長に入れば、その時点で大きく動いたかもしれないが、後半の残りは耐え忍ぶこと、動かないことを、森保監督は選んだ。

 非常に”らしい”采配ではある。カタールW杯ではドイツに前半から守備をズタズタに切り裂かれながらも、1失点で耐え、ハーフタイムに3バックと一気呵成のハイプレスへ激変させたことで、面食らったドイツに修正や準備の時間を与えず、逆転に成功した。粘って、耐えて、ギリギリまで動かない森保監督の手法が「名采配」と称えられた試合だ。

 今回はその采配に批判が集中したが、根本的に言えば、森保監督自身は何も変わっていない。基本的に後手打ちの人だ。それがはまったのがカタールW杯で、裏目に出たのがイラン戦だっただけ。

 粘りの人だから粘ってしまう。先手と後手は長短あるので一概には言えないが、とはいえ、板倉の状態とイエローカード、さらに前半ではなく後半の劣勢だったことを踏まえれば、やはり森保監督は動くべきだった。何よりプレーしている選手たちが、良い顔をしておらず、そのときはピッチ内の解決に限界を感じていた様子。特に、中山を投入しつつの3バック変更は、イランが仕掛けてきたロングボールへの対抗と、ハイプレスの回避、両方を実現する解決する可能性があり、最善の一手だったのではないか。

 1-0で粘っても、1-1で粘っても、モチベーションに溢れた対戦相手はそれを決壊させるほど攻め立てて来る。付け加えるなら、昨今のアディショナルタイム増加により、最後に耐えるべき時間が長くなり、そこで耐えられずに決壊するチームが増えてきた。日本も森保監督も、ここは考えなければならない。

 第2次チームになり、武器を磨く点では順調に成長してきた森保ジャパンだが、短所への脆さ、そして監督自身の采配の裏面は依然として残る。スタッフが一新されても、ここは変わっていない。

 前回の最終予選を思い返すと、日本の調子が上がらない時期には新しいセットプレーコーチとして菅原大介氏を招聘したり、その前にも上野優作氏をコーチ陣に加えるなど適宜、森保ジャパンは陣容を変えてきた。今回もそのタイミングということだろう。「采配」が敗退の大きな要因だった以上、このまま、というわけにはいかない。反町康治氏は3月末で技術委員長を退任すると報道されているが、誰が主導し、どのようにテコ入れを行うか。

 日本のアジアカップは終わっていない。まだ、幕は引けない。

[文:清水英斗]

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