「超高速!参勤交代」や「引っ越し大名!」といった大ヒットコメディ時代劇を生み出した土橋章宏による同名小説を映画化した「身代わり忠臣蔵」。主演にムロツヨシを迎え、「忠臣蔵」をベースに“身代わり”という斬新なアイデアを加えた本作。ムロ演じる主人公の吉良孝証の敵でありながらも秘密の相棒となっていく大石内蔵助を演じた永山瑛太に、プライベートでも親交のあるムロとの撮影エピソードや演じた役柄について、さらに自身が監督を務めた短編映画の撮影をとおして感じたことなどを語ってもらった。

【写真】大石内蔵助を熱演!赤穂浪士姿の永山瑛太の撮り下ろしカット多数

■役に集中することで「“相手を知りすぎているからこその照れ臭さ”を払拭していました」

――本作への出演オファーがきた時はどのような心境でしたか?

【永山瑛太】これまで「忠臣蔵」を扱った映画やドラマをいろいろと観てきましたけれど、ムロ(ツヨシ)くんが嫌われ者の旗本・吉良上野介とその弟・吉良孝証の一人二役を演じると聞いて、“これは普通の忠臣蔵ではないな”という予感がありました。それと、土橋章宏さんが書かれた原作自体がこれまでの忠臣蔵のイメージとかなり異なるので、どんな映画になるのか、クランクインがすごく楽しみでしたね。

――本作は、ムロさん演じる吉良上野介が城内で赤穂藩藩主に斬りつけられ、逃げ傷で瀕死の状態となったことから、お家取り潰しの危機に陥り、弟の孝証が身代わりになって幕府を騙すというミッションが繰り広げられます。そして瑛太さんは孝証の敵でありながらも秘密の相棒となっていく大石内蔵助を演じてらっしゃいますが、どういったことをお芝居の軸にされましたか?

【永山瑛太】自分の中で核として持っていたのは、大石が大事にしている“忠義を尽くす”ことと、赤穂藩士に対しての思いの強さでした。ただ、いくら役作りをして“こう演じよう”と決めても、ムロくんのお芝居や監督の演出によって変わってくるので、とにかく現場に行ってみないとわからないというのも正直あるんです。なので核となるものを持ちつつも、その時々で柔軟に対応しながら演じるようにしていました。

――映画としては「サマータイムマシン・ブルース」以来、約20年ぶりのムロさんとの共演になりましたね。

【永山瑛太】2017年に「ハロー張りネズミ」というドラマでも共演していて、その時にムロくんが昔とは全く違うお芝居のアプローチをしていたんです。俳優としての心持ちも変わったのだと思いますが、こちらの予想をいい意味で裏切るお芝居をされていたのが印象的でした。

それだけじゃなく、いち視聴者や観客としてムロくんの出演作品を観たときも、“すごい境地にいっているな”と思ったんですよね。俳優としてだけじゃなく、脚本、演出を手がけて出演もする「muro式」という舞台も定期的に行われているので、遠い存在になっちゃったなと感じることもあって。とはいえ彼の背中を追っかけているわけではないんですけどね(笑)。

――今の永山さんにとって、ムロさんはどういう存在なのでしょうか。

【永山瑛太】ムロくんとは若い頃から仲良くさせてもらっていて、だけど同じ俳優という仕事をしているので戦友という意識もあったのかな。でも今は戦友という関係性でもないような気がします。なぜなら俳優は勝ち負けを争うのではなく、芸術を共に作ったり、見せ合ったりする職業だから。

なので一言では言えないような存在なのかもしれません。今回に関しては、“相手を知りすぎているからこその照れ臭さ”みたいなものがあったんですけど、役に集中することでその照れ臭さを払拭していました。あとはちょっとムロくんのことが心配でした。

――心配というのは?

【永山瑛太】一人で二役を演じることは、気持ち的にも体力的にもすごくエネルギーを要するので、単純に“ムロくん大丈夫かな…”って。そんな感じでちょっと心配だったんです。なんていうか…ムロくんって、本能的に周りの人の心の機微を読み取って、もしそれがネガティブなものだったとしたら“おもしろい”とか“楽しい”という感情に促してくれるようなところがあるんです。

そういう方なので、きっと気づかないうちにいろいろと削られていってしまうんじゃないかと、僕としてはちょっと気になったんです。もっとわがままでマイペースな態度を取ってもいいのになって。でも、よく考えたら自分のことを大事にできない人は他人も大事にできないので、僕が心配する必要はなかったです。座長として現場の雰囲気作りを懸命にしていましたし、無理して明るくしている感じもなかったので安心しました。

忠臣蔵を描いた作品のなかで「1番情けない大石内蔵助になったと思います」

――撮影で印象に残っていることがあればお聞かせいただけますか。

【永山瑛太】やはりムロくんと一緒のシーンはどれも印象深いですが、その中でも孝証と大石の出会いの場面の撮影は強烈に覚えています。溺れている孝証を大石が助けるのですが、その時に僕が思いきりムロくんをビンタしたんです。けっこう強めに叩いたので、自然と僕らのプライベートな関係性がお芝居に出てしまったんじゃないかと、ちょっと焦りましたね(笑)。

――相手がムロさんだからこそ、思いきりできてよかったというお気持ちもあるのでは?

【永山瑛太】それはありますね。ほかの俳優さんだったら「痛かった!」って怒ったかもしれない(笑)。ただ、僕の中では人が死にそうになっているときに中途半端な叩き方はしないだろうと、本気でビンタするはずだと確信していたんです。それを彼ならきっとわかってくれるという安心感もあって。でも、今の痛かったよなと心配になったので、カットがかかったあとに「首とか大丈夫だった?」って聞いたら「心配ないよ」と言ってくれてホッとしました。

――強烈な出会いのあと、孝証と大石が友情を築いていく展開もいいですよね。二人がお酒を飲むシーンが印象的でしたが、ムロさんとゆっくりお酒を飲む機会があったらどんな話をしたいですか?

【永山瑛太】向かい合って話をするというよりは、何かを共有したいですね。話をしないでひたすらおいしいものを一緒に食べるだけでもいいのかなって。うまく言えないんですけど、あんまり真正面に座ってほしくないというか、横に座る関係性でいたいなと思います。

――話は変わりますが、ドラマ「時をかけるな、恋人たち」では23世紀の未来からやってきたタイムパトロール隊員の役を演じてらっしゃいました。歴史上の人物も未来人も想像力を膨らませながら挑まれたかと思いますが、現代に生きる人物ではない役を演じる際に何か意識されていることはありますか?

【永山瑛太】歴史上の人物だからとか未来人、現代人だからどうのというのは特に意識していないです。どんな役も想像力は必要ですしね。ただ、未来人となると、“ちょっと変な人”でもアリなんじゃないかなとは思いました。「時をかけるな、恋人たち」で演じた翔(かける)は、吉岡里帆さん演じる廻(めぐ)の過去の記憶が消されているのを知っていて、記憶が消される前はお互いに思い合っていたので、ずっともどかしい思いを抱えているんですよね。

きっと想像を絶するほどモヤモヤしていたはずで。だからちょっとオーバーに演じたところはあります。上田誠さんの脚本はおもしろいからサラっと演じても成立するのに、僕はもしかしたら余計なことをしすぎたかもしれない(笑)。

――翔はキャラクターが濃くて魅力的でしたし、空回りすればするほど切なさが増してキュンとしました。

【永山瑛太】そう思っていただけたならよかったです。翔も大石も “自分だったらこう演じる”みたいなことを楽しみながら演じていたので、結果的に翔は変な未来人になったし、大石内蔵助は忠臣蔵を描いた作品のなかで1番情けない人物になったと思います(笑)。

■次に撮ってみたいのは“3人の俳優の物語”

――またまた話は変わりますが、昨年行われた映画「ゆれる」の上映イベントで西川美和監督とオダギリジョーさんのトークショーを拝見したのですが、西川監督は何度もテイクを重ねて素材を多くするタイプ、オダギリさんは監督として作品を撮るときはテストもなしで本番でいきなりカメラを回すタイプ、というお話をされていました。永山さんも2022年に監督として短編映画「ありがとう」を撮られていますが、主演の役所広司さんが「テストはほぼなしで、いきなり本番。ほとんどが一発OK」とインタビューでコメントされていたので、オダギリさんと同じ手法だったことがわかって興味深かったです。

【永山瑛太】テストや本番などを何度も繰り返すと、一度やったお芝居をなぞろうとしたり、逆に“さっきとは違うお芝居をしよう”と意図的になったりするんです。ところが、いきなりカメラを回すやり方だと、予想もつかないようなアドリブが生まれたりするし、俳優も新鮮な気持ちで演じられるので、「ありがとう」の撮影ではいきなり本番というスタイルでやらせてもらいました。ただ、段取りのあとにテストなしで本番だと、スタッフさんが困るという問題はありましたね。

――確かに、俳優の動きを事前に確認できないとカメラマンさんや照明部、録音部のスタッフさんは大変かもしれないですね。

【永山瑛太】そうなんです。カットをかけたあと、音が録れてなかったなんてこともあったので、テストが大事なことはわかっているのですが…。それでもまた監督として作品を撮る機会があったら、わがままを言って同じやり方をすると思います。“え!さっきのでOKなの?”と、俳優やスタッフさんに思わせるのも演出のひとつだと思いますし、「何度も演じるのはキツイよ」と言われる心配もないですしね(笑)。

俳優の立場でいえば、急にカメラを回すやり方も平気だし、テイクを重ねていくやり方だったら“何度もやらせていただけるのはありがたい”と思えるし、監督のスタイルに合わせるのは全然苦じゃないです。

――ちなみに次はどんな作品を撮りたいですか?

【永山瑛太】売れない俳優と、以前は売れてけど今は引退している元俳優と、売れているのに死にたいという願望を抱えている俳優が主人公で、それぞれの物語が交錯していくような映画を撮りたいです。テーマとしては“俳優とはなんなのか”みたいなことで、イメージは風間杜夫さんが主演を務めた「蒲田行進曲」に登場する俳優たちの物語のようなものを考えています。

ただ、今ある脚本だと製作費に何十億とかかかりそうなので、実現できるようにもう少し時間をかけて練らないと(笑)。とにかく楽しみながら表現者という仕事を続けていきたいですね。

取材・文=奥村百恵

◆スタイリスト:松田瑞穂

◆ヘアメイク:波多野香織

(C) 2024「身代わり忠臣蔵」製作委員会

映画「身代わり忠臣蔵」で大石内蔵助を演じた永山瑛太/撮影=三橋優美子