ムロツヨシが主演する映画「身代わり忠臣蔵」が2月9日(金)に全国公開。初めて1人2役を演じた本作についてはもちろん、約20年ぶりの共演となった永山瑛太や、川口春奈林遣都との撮影エピソード、さらにムロが子どもの頃のスポーツや勉強の話も飛び出し、新たな一面がかいまみれた。

【撮りおろし11枚】カーテンからチラッとこちらをのぞく姿がおちゃめなムロツヨシ

本作は、「超高速!参勤交代」など数々のコメディ時代劇を生み出す土橋章宏氏の同名小説が原作。舞台は江戸時代中期。吉良上野介を襲い切腹した浅野内匠頭の家臣・赤穂浪士たちの復讐物語「忠臣蔵」を新解釈。上野介が急死し、弟・孝証が兄の替え玉となりお家存続を図る中、赤穂浪士の大石内蔵助と世紀の大芝居を決行する。ムロが吉良上野介と孝証の1人2役を、永山瑛太が大石内蔵助を演じ、川口春奈林遣都北村一輝、柄本明らが出演する。(以下、ネタバレを含みます)

■吉良上野介を演じるシーンは、監督から「もっと、もっと」の声

――本作のオファーがきた時の第一印象を教えてください。

今回、このお話をいただいて最初に思ったのは「そういえば、最近テレビで『忠臣蔵』ってやってないな」ということでした。僕が子どもの頃は、年末特番で「忠臣蔵」が頻繁に放送されていたし、1年を通して「水戸黄門」や「大岡越前」など時代劇ドラマが放送されていました。

だからといって子どもの僕は、そんなに時代劇を見てなかったんですけど、どの作品もなんとなく名前と内容は知っていました。その中で「忠臣蔵」も多少は知っている存在でしたが、今はあんまりテレビで放送されていないように思えて、一般的に身近に感じられていないかもって思ったんです。

次に思ったのは、本作は赤穂浪士の大石内蔵助側じゃなくて、まさかの切られた吉良上野介側がメインとなったお話。「身代わり」というタイトルの通り、弟が上野介の身代わりになって赤穂浪士の恨みと向き合うという考え方って、今までなかったな…そういう視点があるんだな…ということでした。

――本作では、吉良上野介とその弟・孝証の1人2役を演じられましたが、どんな役作りをされましたか。

まず、兄の吉良上野介のことを考えました。「なんで浅野内匠頭に切られたのか」「上野介は浅野に何をしたのか」「どうしてそんなに嫌われたのか」などいろいろ想像しました。その時代、江戸城内で刀を抜くのは一大事ですから、浅野がそういう行動をしてしまった上野介の人間性を考えれば考えるほど難しさを感じました。

上野介のイメージをふくらませて現場に入りましたが、監督から「もっと、もっと」と言われたのをすごく覚えています。自分のイメージよりもさらに傍若無人で、礼儀知らずで優しさなんてものがない。むしろ「人じゃないんじゃないか」ぐらい足していって、あの上野介になりました。

弟の孝証は、長男で生まれなかったばかりの不幸はあるけれど、結局反発してグチをいってるだけという人なので、上野介の正反対で振る舞いを自由に。それこそ現代人の動きを取り入れたりしつつ、その時代にそぐわないところをつけていった感じでしたね。

――細かくいうと、1人2役というよりは吉良上野介と弟・孝証、上野介の身代わりを演じる孝証と、1人で3役を演じたようにも思いますが、どう感じられていましたか。

上野介が亡くなってからは、孝証と上野介の身代わりをする孝証を演じることになりますので、1人2役ということになるんだろうなと思っていました。序盤は上野介と孝証、それ以降は孝証と上野介の身代わりをする孝証と、演じる上では区切りがつけやすかったです。

孝証が上野介の身代わりをしているシーンの中では、柄本明さん演じる柳沢吉保(徳川将軍に仕え、幕府の裏を牛耳る権力者)と対峙したシーンが印象に残っています。どうしても説得力がないといけないと思いながらも、面白い部分でもあるので、「柄本さんの前で何ができるかな」と考えながら演じて、少し緊張した記憶があります。

■永山瑛太“大石”とのシーンに緊張、林遣都“斎藤”とのやり取りを作るのは楽しかった

――赤穂藩の筆頭家老・大石内蔵助を演じた永山瑛太さんとは、映画「サマータイムマシン・ブルース」(2005年)以来、約20年ぶりの共演ということですが、印象に残っているシーンはありますか。

やっぱり1番最初に撮影したシーンですね。朝方、2人が店から出てくるシーンで、ただ一緒に酔っ払いながら歩くだけなんですけど、それが逆に緊張して(笑)。「自由に動いてください」「酔っ払った感じでお願いします」と言われて、よく考えたら「それって、20年前僕たちがよくやってたことじゃん」って思い出して、恥ずかしくもなってきちゃいました。

あとやはり、お寺の中で孝証と大石が向き合うシーンは印象深いです。大石の生き様や思いを聞いて、孝証が初めて人としての生きがいを見つける瞬間でもありますので、思い入れがあります。

――川口春奈さん演じる桔梗(吉良家に仕える女中)とは、恋を感じられるシーンもありましたが、共演されていかがでしたか。

川口さんも、ドラマ「天魔さんがゆく」(2013年、TBS系)で共演して以来、約10年ぶりの共演だったんですが、可憐な方になったなぁ〜と思いました。僕演じる孝証に優しくしてくれて、ちょっと好きになるけど拒まれる…みたいなやり取りは、演じていて面白かったです。

空き時間もふざけた話ばかりしていて楽しかったんですけど、なぜかずっと「いつも『モニタリング』(TBS系:川口がレギュラー出演中)に出てくれてありがとうございます」と言ってたのが印象に残っています。「なんで君が代表してお礼言うんだよ」って思わずツッコんじゃいますよね。

――吉良上野介の側近・斎藤宮内を演じる林遣都さんとのやり取りは、とてもコミカルでしたが、アドリブ満載だったのでしょうか。

アドリブというよりは、2人で作っていったというところが大きいですね。最初の身代わりになるまでの斎藤とのやり取りが面白くないと、「ただ身代わりになっちゃった」で終わってしまって物語として成立しないと思いましたし、その後の2人のシーンも時間をかけて話し合いました。

林くんが「動きに合わせます」とおっしゃってくれていたので、打ち合わせよりタイミングを変えてみたり、ちょこっと大げさにしてみたり、やる予定だったことをやらなかったり。僕が自由に動かないと林くんが困ってしまうので、“いたずら”ではないんですけど、林くんが驚くように、ドタバタするように、いろいろ変化させながら演じましたね。孝証と斎藤のでこぼこな関係を作っていくのは楽しかったです。

■身代わりになれるなら「高校選手権に出場するスポーツ選手」

――本作でお気に入りのシーン、撮影が楽しかったり大変だったなと思うシーンを教えてください。

瑛太くんとのやり取りはストーリーを重視して、昔の関係性とはかけ離して、やりがいがありましたし、林くんとのシーンは、どれだけ遊びを作れるのか、まだなんかあるかなとずっと考えていたという点では結構苦労したけど、嫌な苦労じゃなかったです。

赤穂浪士が吉良家に討ち入りした後のシーンは、初めて台本を読んだ時から面白いと思っていたのですが、撮影当日に本当に雪が降ったんです。本物の雪でできるとは思っていなかったからすごく印象に残っています。ただ2日に分けての撮影だったので、スタッフさんが雪かきをしなきゃいけなくなって、ちょっと大変そうでした。

――本作では弟として兄の身代わりになりましたが、ご自身の容姿や才能は関係なく、身代わりになってみたいと思う方はいますか。

年末年始はラグビーサッカーの高校選手権があるじゃないですか。お正月に高校ラグビーの決勝戦をテレビで観て、高校サッカーの決勝戦は国立競技場に観に行けたんです。この歳だからなのか、その真剣勝負にものすごく感動して、あの若さで、あの緊張感で、どうやって戦っているんだろうと圧倒されました。

僕は小学生の頃に野球をやっていたんですけど、すぐに野球の才能がないことを思い知らされたし、部活も入っていたけれどもその才能もなかったし。いや、もしかして才能があったのかもしれないけど開花するまで努力はしませんでした。僕にもう1回人生があるなら、どんなスポーツでもいいので、高校生という若さであの大きな舞台に立つ選手の身代わりになってみたいですね。

■歴史は苦手意識があったけど、ふと自分が「歴史好き」と錯覚しそうに

――今後演じてみたい歴史上の人物はいますか。

大河ドラマ「どうする家康」(2023年、NHK)で豊臣秀吉を、本作で吉良上野介を演じたので、今はすぐ思い浮かばないです。でも今まで近代的な方はそこまで演じてきていないので、昭和の偉人とかは興味あります。昭和生まれだからこそ演じられる感覚があるかもしれないなって思います。

人物じゃないけど、“縄文時代”とか“石器時代”が舞台の物語ができるならやってみたいです。はるか昔すぎるので解釈し放題ですし、コメディーにもシリアスにも作れて、それに、きっと誰も傷つけないんじゃないかと。日本のスタッフで本気でやってみたらどうなるんだろう…とか、どういう台本でやったらドラマとして映画としてみんな観てくれるんだろう…とか思うと、チャレンジングでワクワクしちゃいます。

――最近は、時代劇に多数出演されていますが、子どもの頃は「歴史」に興味はありましたか。

僕、数学が好きで、国語や英語、歴史や地理は苦手だったんです。学問でいうと、歴史とかって暗記ベースじゃないですか。数学だけは、唯一暗記っていらないんですよね。なんでこの公式が生まれたかを理解していれば、公式も覚えなくていいんです。だから数学だけはパズル感覚でできて、白紙の解答用紙に“証明”を書くのが好きでした。

先にもお話しましたが、僕らの子ども時代は、テレビで時代劇が放送されることが多かったし、僕はおばあちゃん子だったので、今の子どもたちよりは時代劇は身近な存在だったと思います。だから学問としての「歴史」というよりも、時代劇を通した「歴史」の概要を知っていたぐらい。大人になって必要性が出て知識欲もわいてきて、今はいろいろ調べながら演じている感じです。

でも実は僕、ここまで時代劇をやるとは思ってなかったんですよね(笑)。もちろん京都の撮影所も大河の現場の緊張感も大好きです。最近、時代劇の出演が続いたこともあって、ふと自分が「歴史好き」と錯覚しそうになるときもありますけど、そもそもの知識をそんなに持ち合わせていないので、ひたすら勉強しながら取り組んでいます。

■座長として「提案し、さらに聞く耳を持つこと」を大事に

――近年、主演作が多くなられましたが、座長として心がけていることを教えてください。

僕らの世界ではリスペクトトレーニング(作品制作に携わるすべての人が「リスペクト」を共通認識として持つことを目的としたトレーニング)というのが当たり前にあるんですけど、自分の感性を批判・否定するよりも、まずは提案して、さらに聞く耳を持つことを大事に思っています。

作品作りの現場は、僕らが20代、30代の頃とは大きく変わっています。ネットやSNSの発展で、その変わり方は急激なのですが、やっぱり僕は自分の面白いものを出していくのが使命だと思ってるんです。作品作りとしてのこだわりを持ち合い、話し合いを避けることなく、聞く耳を持ち、これからも頑張っていきたいと思っています。

――最後に、本作の見どころや読者へのメッセージをお願いします。

まずは「忠臣蔵」を知っている方には、ここに新しい視点での「忠臣蔵」があります。「こんなんじゃない」という部分が、みなさんにとって笑いのツボだったり、「えー、やられた」という驚きだったりすると思うので、新しい視点を楽しんでいただきたいです。

忠臣蔵」を知らない方や若い世代の方には、とても面白みがあふれる時代劇になっていると思いますので、本作を通じて「忠臣蔵」というお話を知ってもらえるとうれしいです。たくさん笑えるポイントがありますので、楽しみに劇場に観に来てください。

◆取材・文/綱島深雪

撮影/梁瀬玉実

ムロツヨシ/撮影=梁瀬玉実