人生のエンディングを準備する「終活」にあたっては、自分がいなくなった後、遺族がどのように遺品整理を進めるのか知っておくことも大切です。本記事では『ふと、終活のことを考えたら最初に読む本』(日本実業出版社)から一部抜粋し、遺品整理のタイミングや注意すべきポイントをご紹介します。

遺品整理はいつ、どのように進められる?

登場人物

あんみつ先生(45歳)…司法書士。都内の会社を退職し、実家のある田舎町にUターン。司法書士事務所を開業し、おもに相続と成年後見を中心に業務をしている。また、副業で終活セミナーの講師もしている。

吉田小春さん(65歳)…専業主婦。あんみつ先生のご近所さん。子供2人はすでに独立し、現在は夫と気ままな2人暮らし。

吉田健二さん(70歳)…小春さんの夫。長年勤めた会社を定年退職し、家で趣味を楽しみ、のんびり暮らしている。

先生 遺品整理は、終活する本人からみたら亡くなったあとのことです。でも、遺族がどのように遺品整理を進めることになるのか知っておく必要があるでしょう。

小春 そうよね。亡くなったあと、物がどうなろうと知ったこっちゃないっていうのも無責任かもしれないわね。

先生 では質問です。被相続人(亡くなった人)の遺品整理のタイミングは、いつがいいと思いますか?

吉田 遺品はゴミではなく、れっきとした相続財産ですよね。となると、遺産分割まで整理をしないか、遺品をどこかにしまっておくべきかな。その後、遺産分割協議のときに遺品を確認して、話し合いできちんと分ける。

先生 慎重なご意見です。でも実際には、遺産分割前に共同相続人の誰かが部屋を片付けたりすることもありますよね。  

吉田 慎重すぎるかな。じゃあ、整理したついでに遺品を業者に売って、代金はお駄賃として自分の懐に入れてしまうとか?

先生 それはやりすぎ!勝手に遺産を分けて持ち去っていることになりますから、それはまずいです。

遺品整理は、掃除が目的のことも多いと思います。故人の部屋をキレイに片付けるのは、遺族として当然の行いだといえます。とくに故人が賃貸住宅に住んでいたような場合なら、遺品整理を早めにする必要が出てくるかもしれません。

遺品整理は遺産分割をしてから行ってもよいですが、遺品整理を急ぐような場合には、遺産分割の前に全員で集まって遺品整理をしてもかまいません。また、全員の同意があれば実際に集まらなくても遺産分割が成立しますから、全員の同意を得れば1人で遺品整理をしても問題ありません。

ところで、遺品整理をすると、思わぬお宝が出てくる可能性もあります。他の相続人の同意を得ず、相続財産の調査として遺品の整理をする場合、このようなお宝の処分が問題となります。

遺品整理には相続財産の「調査」の目的もあると考えられます。法律では、相続人は相続の承認または放棄をする前に、相続財産の調査をすることができるとされています。ということは、調査は相続人単独で行ってもかまわないと解釈できますが、調査の範囲であれば1人で遺品整理をすることも問題ないと考えられます。

1人で遺品整理をするときに注意したいこと

先生 1人で遺品整理をするとどんな問題があるのか、もう少しくわしく考えていきましょう。

吉田 1人で遺品整理をするのは大変かもしれないけど、いいこともあるかもしれないですね。

小春 片付けのとき、思いがけずお宝を見つけたらどうなるのかしら?

吉田 それは、自分のものにしていいでしょ!

小春 でも先生、共同相続人がいたら問題になるのよね?

1人で遺品整理をする場合、遺品を勝手に売ったり持ち去ったりすることは、調査の範囲を逸脱しているのでできません。

整理した遺品をトランクルームなどに保管しておいて、あとで他の相続人の同意を得てから捨てるなどの方法もあるでしょうが、1人で遺品整理をする場合は、事前に他の相続人の同意を取っておき、トラブルにならないように注意しましょう。

たとえば、1人で遺品整理をしたあとに、他の相続人から「ロレックスの時計があったはず。どこへやったのか」などと言われて、「知らない。そんなものはなかった」と言っても納得してもらえないでしょう。間違って捨てたとしても、本当に間違って捨てたのか、どこかに隠しているのではないかと疑われてしまうかもしれません。

こうしたトラブルを防ぐには、

①遺品整理の現場の記録を残す

②スマホやデジカメ等で遺品を撮影する

③簡単な貴重品リストを作る

など、何らかの証拠を残しておくといいでしょう。

しかし、これらの証拠を残す方法も万全ではありません。この方法は遺品があった証明にはなりますが、ないものは記録も撮影もできないからです。ロレックスがなかったことを証明していないのです。

1人で苦労して片付けをしたのに、片付けに非協力的だった相続人から、あとで文句を言われてしまうかもしれません。

このようなトラブルを防ぐためには、相続人全員で遺品整理をするのが理想的な方法です。

相続人全員で立ち会って確認したほうがいいのは、目で見える遺品だけではなく、被相続人のパソコンの中にあるデータ情報、たとえばネットバンキング口座や証券口座なども同様です。

なお銀行の貸金庫の場合は、そもそも相続人1人で確認することはできません。相続前は貸金庫の開け閉めを子供などの代理人が行っても問題ないのですが、相続後は遺言書でとくに指定されていなければ、相続人の誰か1人が開けることはできません。相続人全員の立ち会いのもとで、貸金庫を開けなければなりません。

家にあるような遺品の確認であれば、1人で確認をすることもできますが、貸金庫などのように第三者が保管していた遺品(財産)については、相続人全員の立ち会いが必要なケースが多いといえます。

加藤 光敏(あんみつ先生)

司法書士

※本記事は『ふと、終活のことを考えたら最初に読む本』(日本実業出版社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

(※写真はイメージです/PIXTA)