米国の資本市場には世界中からお金が流れ込み、なおかつ国民の資産の一部が常に株式市場で運用される仕組みが整備されています。一方で、人口減少とともに経済が縮小に向かう日本は、これと真逆ともいえる状態にあります。本記事では『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)から著者の松本大氏が、米国と日本の違いを示しつつ、いま日本に必要なことは何かを解説します。

米国は資本主義の効能で強くなっている

資本市場というものをフル活用して繁栄を築いている国があります。米国です。米国は今日に至るまで、資本市場を通じて国富を大きく膨らませてきました。

どこを起点にして説明すればいいのか、少し迷うところですが、とにもかくにも米国の資本市場には、世界中からお金が集まってきます。

そして、その集まったお金が世界中に投資されます。

もちろん最初は米国企業に投資されるわけですが、米国企業が世界中の企業を買収したり、あるいはさまざまな形態のファンドを通じて、世界中のさまざまなものが買われたりしています。

つまり一度、米国という集金マシーンを通じてお金が集められ、そこから再び世界中に投資配分されていくのです。

米国は、もちろんGDPの規模で世界一ですが、それに加えて投資も積極的に行っています。

つまり、経済学者トマ・ピケティが提示した「r>g」の不等式に則って、経済成長率(g)よりも高い資本のリターン(r)を取りに行っているのです。これが米国の強いところです。世界中のrを国富にしているのです。

もちろん、本来のところを言えば、米国以外の海外諸国から集まってきた資金は、米国のものではありませんから、純粋に米国の国富につながるとは言えません。

ただ、海外から集まってきた巨額マネーの資産配分をコントロールするのは米国ですし、投資して得た成果の一部は、米国のファンドに入っていきます。

こうして米国の国富がどんどん膨らんでいるのです。

理由は、多くの人がそれぞれの見解を、さまざまなメディアを通じて説明しています。たとえば「米国は基軸通貨国だから」というのは、典型的な意見でしょう。

確かに、国境を超えた貿易取引に用いられている通貨は米ドルが大半ですし、世界中の金融資産の75%くらいは米ドル建てです。これは米国とあまり仲がよくないアラブ諸国や中国も例外ではありません。金融資産の大きな部分はみな、米ドル建てで保有されています。

なぜでしょうか。それは、米国がお金を置いておく場所として、極めて安心できるからです。

軍事力は世界最強ですし、アメリカ大陸は地理的に東は大西洋、西は太平洋に面しており、陸伝いに直接攻め込まれない場所に位置しています。

また、テロリストでもない限り、たとえ敵対する国であったとしても、財産を没収するようなことはありません。

これが政治的に独裁であったり、それに近い政治体制を持つ国だと、敵対関係に陥った途端、そこに置いてある財産を没収されたりします。これでは安心して、お金を置いておくことができません。

そしてもうひとつ。わたしはこれこそが米国の金融市場にしかない、最大の特徴だと思っているのですが、極めてオープンであることです。

誰に対しても開かれているし、何にでも値段が付けられ、どんなガラクタでも売れば買い手がつく。もちろん情報もすべてオープンにされています。結果、実に奥の深いマーケットになっているのです。

米国の年金は市場のリターンを下回ると違法になる

加えて、資金が資本市場に流入しやすいような仕組みもつくられています。

ちょっと金融に詳しい人なら、「エリサ法」という法律の名前くらいは聞いたことがあると思います。

ERISA(従業員退職所得保障法)という法律で、1974年に制定されたものです。これには企業年金を運用している機関投資家の受託者責任が記されています。

そして、この法律の条文のひとつとして、「企業年金のリターンは市場全体と同等か、それ以上を達成しなければならない」というのがあります。

市場と同等のリターンを実現するためには、集まってきた年金資金を全額、債券だけで運用することはできません。そんなことをしたら、年金のリターンは市場を上回ることができず、エリサ法に違反するからです。したがって、必然的に株式でも運用します。

同じことは、ケアテイカーといって、認知症になった人の資産管理を行っている人にもあてはまります。年金に課せられている受託者義務と同様に、ケアテイカーの資産管理でも、やはり市場の平均と同等か、それを上回るリターンの実現が規定されているのです。

したがって、管理している資産の一部には必ず、S&P500などの株価インデックスに連動するタイプのファンドを組み入れる必要があります。

つまり、人々の資産の一部が常に株式市場で運用されるような仕組みが、米国では整備されているのです。

翻って日本はどうでしょうか。日本はこれとはまったく逆で、相続が発生しそうになると、金融機関などは被相続人が持っている株式を、早々に売却させようとします。なぜなら、そのほうが相続しやすくなるからです。

株式だと銘柄によって株価は異なりますし、中途半端な株数では分割するのが困難になります。たとえば、相続人が3人いたとして、1000株の相続財産を三等分にしたくても割り切れません。

だから、相続手続きで余計な手間がかからないように、ひとまず株式を売却させるのです。株式を全部売却して現金化すれば、相続人の間でそれを分けることが非常に簡単になります。

これから団塊世代がどんどん高齢化するなかで、相続絡みの株式売却は、株式市場にとってはかなりの下げ圧力になってくるかも知れません。

だからこそ日本においては、あらゆる手段を講じて、株式市場に資金が流れる仕組みをつくることが求められるのです。

※書籍の『松本大の資本市場立国論』は、すべての漢字にルビ(読み仮名)が振ってあります。著者の松本大氏が、専門用語の漢字が多く、経済の本を読むことを敬遠していた人にこそ、この本を手にとって欲しいと思っているためです。ルビを振ることで、意味がわからない言葉や専門用語をスマートフォンの音声検索で調べることもできます。漢字にルビを振るという小さなことで、読者が広がり、日本がよくなることへの願いが込められています。

松本 大

マネックスグループ会長

※本記事は『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

(※写真はイメージです/PIXTA)