Absolute area One Man Live 2024「Sing With You」
2024.1.28 日本橋三井ホール

Absolute areaが、初の東名阪ワンマンツアー『Absolute area One Man Live 2024「Sing With You」』を開催。バンドの歌が“あなた”の歌に変わる喜びを噛み締めながら、各地のファンへの感謝を音楽に乗せて届けた。

この記事では、ツアーファイナルの東京・日本橋三井ホール公演をレポートする。

1曲目は「introduction」。山口諒也(Vo/Gt)がギターをジャーンと鳴らしたあと、一人で歌い始めた。1番まるっと山口の弾き語りで、2番から萩原知也(Ba)、高橋響(Dr)、サポートメンバーの坂本夏樹(Gt)、松本ジュン(Key)が合流するドラマティックなアレンジだ。観客は集中して静かにバンドの音を聴いている。そんな印象的なオープニングのあと、「さあやるぞ、東京! 準備はいいですか?」と山口が投げかけ、次の曲「いくつになっても」が始まった。弾むリズムに誘われて、ここからは観客も手拍子してアンサンブルに参加。高橋のリズムパターンが曲間を繋ぐなか、他の楽器も加わって盛り上がったあと「まだ名のない歌」が始まる展開にもワクワクさせられた。

最初のMCで、2024年初の東京でのライブ、かつ初めての会場ということで、少し緊張していると明かしていたメンバー。そんななか、喋る内容を一瞬忘れかけた山口に対して、客席から「ファイト!」という声が。「いいですね。そういう声ほしいなって思ってる」と山口が言うと、そこから客席とのコミュニケーションが始まり、メンバーと観客の緊張がいい具合に解れていった。ある観客が「89(歳)になる!」と叫んだあと、萩原が「あちらが僕のおじいちゃんです」と付け加え、驚きとともに和やかな空気に包まれる場面も。

「誰一人置いていくつもりはないです。僕らも緊張してますけど、ここにいる全員楽しんで帰ってもらいたいので、精一杯音楽をお届けします。準備はいいですか?」と山口が問いかけると、客席から「イェーイ!」と元気のいい声が返ってきた。そうして「少年」から演奏再開。イントロからバンドのサウンドはみずみずしく、メンバーの一人ひとりがだいぶ攻めたプレイをしている。ステージ上の5人が音を合わせること自体を心から楽しんでいるのがよく分かるし、その空気がフロアにも伝播して、先ほどまでの緊張が一気に吹き飛んだような感じだ。熱量高いアンサンブルに応えて、観客が力強く拳を上げた「ひと夏の君へ」では、萩原と高橋がアイコンタクトをとりながらコンビネーションプレイを炸裂させる。頼もしいバンドに背中を預けながら、山口も思いっきり歌っている。

観客の手拍子とともに突入した「SABOTEN」までを終えると、萩原と高橋が一旦ステージから去り、代わりにサポートメンバーの中島優紀(Vn)が登場。坂本はエレキからアコギに持ち替えた。このアコースティック編成で「発車標」「遠くまで行く君に」といったバラードを披露。ライブでバイオリンと一緒に演奏するのはAbsolute areaにとって初の試み、かつ東京公演限定の特別演出だったそう。シンプルなアレンジゆえに歌とメロディの良さがより一層感じられた。

気づけばライブの後半に。「終わるのが寂しい」と本音を漏らしつつも、今この瞬間だからこそ感じられる喜びを噛み締めながら、バンドは演奏を重ねていった。キーボードの旋律をバックに、山口は「何千、何万の音楽の中で出会ってくれたこと、本当に奇跡的なことだと思っていて。僕たちAbsolute areaに出会ってくれて、こうやってライブに足を運んでくれてありがとうございます」と集まった観客に改めて感謝を伝える。そして「そんなみなさんと一緒に歌いたいなと思って、この光景を思い浮かべて作った曲があります」と次に演奏する曲のことを紹介した。ファンと一緒に合唱したいと、今回のツアーのために書き下ろした新曲「Sing With You」だ。自分たちの音楽は一方的に投げかけるものではなく、みなさんのものになって、みなさんの歌になって、人生を一緒に歩んでいける存在になってほしい――そんな想いが活動を続けるうちにどんどん強くなっていったという。ラララと歌う間奏では観客が積極的に声を出し、メンバーもステージから一緒に歌った。

ノスタルジア」に「いつか忘れてしまっても」と、それ以降は時の流れと忘れ行くことを歌った曲が続いた。ライブの終わりが確かに近づいている感覚と歌詞の内容が重なる中、火花を散らすバンドのアンサンブルが、いつまでも消えない光のように輝いていた。ライブ会場を離れても、リスナー一人ひとりの生活は続く。私たちが求めれば、Absolute areaの音楽はきっとそばにいてくれる。観客一人ひとりに温かな心を渡すようなバンドの演奏が、そう感じさせてくれた。本編ラストは「僕が最後に選ぶ人」。ステージ上を練り歩きながら、観客の目をしっかりと見ながら、素直なラブソング歌う山口の姿が印象に残った。

アンコールは、3人だけの剥き身の音像で鳴らす「reborn」から。時に顔を見合わせながら、じゃれ合うように音を合わせる3人の様子が微笑ましい。山口は直後のMCで「(メンバーに)駆け寄りたくなる時、あるじゃん?」と笑っていた。そしてMCでは、東名阪でのツーマン企画『ふたりのり』の開催が決定したと発表。ライブ中の「曲も作ってるし、ツアーもまた回る」という発言を見事回収し、ファンを喜ばせると、ラストには、リリース未定、ライブでも初めて演奏する新曲「ただの友達になる前に」を披露した。「3度目のデートで何も起こらなかった2人はただの友達になる」というジンクスをテーマにした恋愛ソングで、ポップな曲調に誘われて、観客は手拍子したりリズムに合わせて手を左右に振ったりしている。全員初聴きとは思えない盛り上がりよう。歌いながら客席に下りていった山口が通路沿いの観客とハイタッチしていったシーンも含めて、最高にハッピーなエンディングだった。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=阿部瑞樹

>>すべての画像を見る

 

Absolute area