わたし史上最高のおしゃれになる!』『お金をかけずにシックなおしゃれ』などの著書があるファッションブロガー小林直子さんが、愛用しているアイテムをご紹介します。


◆他人のポーチを見て驚いた記憶が…



他人に意外な印象を与えるポーチ※写真はイメージです



 ごく私的なものを入れて持ち運ぶポーチは、自分と他人、両方から見られる存在です。そしてそのポーチを発端として考えることが自分と他人では違います。プライベートと公と、その境目にあるポーチは、他人に意外な印象を与えたりもします。


 私が他人のポーチを見て驚いた記憶は2つほどあります。


 一つはたぶん30年近く前。何かの講習会に参加したとき、講義を聞いている最中、隣に座っていた女性がバッグをごそごそと探って取り出した、ナイロン製の真っ赤なポーチには大きなプラダのロゴがありました。講義中にプラダのポーチを見て、ポーチまでプラダを買うんだ!と軽い衝撃を受けたのをよく覚えています。


 このときから、ポーチとその持ち主との関係に目が行くようになりました。


◆ポーチは、案外とその人らしさが出てしまう
 次に驚いたのは去年の出来事です。東海道線の上り電車に乗っている最中、目の前の席に座っている女性が、ふいにルイヴィトンのバッグから取り出したポーチに目がいきました。驚いたのは、そのポーチに描かれているイラストが「クレヨンしんちゃん」であったこと。


 その女性は「クレヨンしんちゃん」のポーチからリップクリームを取り出して、無造作に唇に塗り始めました。


 持っているポーチには、案外とその人らしさが出てしまうようです。


 では、私はどんなポーチを持っているのだろうかと、自分のポーチを見直してみると、これが実に古いものばかりなのです。


 ポーチというものはバッグほどには壊れがたく、一度買ったらかなりの期間長もちします。長もちすればするほどに、そこには感じたこと、考えたことなどの記憶が積み重なります。どうして買ったのか、あるいは作ったのか、どこへ持っていったのか、何を入れたのかなどなどです。


◆95年に買ったポーチを便利に使っている



ランズエンドの旅行用のポーチ(左上)はいろいろ入れてもごちゃごちゃにならない



 例えばこの中で一番古いものはランズエンドの旅行用のポーチ。多分95年ぐらいに買ったものです。


 これは中の仕切りも多く、ハンガーラックにかけるためのフックもついていて、旅行には最適で、しかもランズエンドなので頑丈な作りです。国内、海外含めて旅行にはいつも持っていくもので、下着や薬、洗剤やカイロなど、仕切りが多いため、いろいろ入れてもごちゃごちゃにならず、大変便利に使っています。


ロンドンで生地を買って自分で作ったポーチも
 次に古いのは布製のポーチ。これはロンドンのサウスケンジントンにあったキャスキッドソンのお店で買った生地を使って自分で作ったもの。20年ぐらい前から使っています。これは銀行の通帳を入れたり、印鑑を入れたりと、貴重品入れとして使っているものです。



キャスキッドソンの生地で作ったポーチ(左)と10年ぐらい前に買ったMANICURE FINGERのポーチ(右)



 そうして次の小さなポーチ。これはたぶん10年ぐらい前に買ったもの。小さ目のバッグに入れるための小さなポーチを探しているとき、大きさと素材、そして金具使いが気に入って買いました。これは普段持ち歩くバッグにいつも入っていて、中には必需品であるブスコパンとロキソニン絆創膏(ばんそうこう)やリップクリームが入っています。


◆「インスリンポーチ」だけど糖尿病患者さん以外でも
 次のポーチはごく最近買ったもの。少し大き目で、かつ仕切りの多いポーチを探していたときに、目についたので買ったポーチです。



糖尿病の患者さんのことを考えて作られた「インスリンポーチ」



インスリンポーチ」という名前がついていて、薬や注射を持ち歩かなければならない糖尿病の患者さんのことを考えて作られたポーチだそうです。もちろん糖尿病患者ではなく、一般の仕切りが多いポーチが欲しい人が使っても大丈夫。


 私は、バッグは間仕切りがないほうが好きなのですけれども、ポーチは仕切りがあったほうが好きなのと、ちょうど名前のイニシャルの刺繍つきのものがあったので選びました。


◆思い出は、ポーチを見ることによってよみがえる
 こうやって歴代ポーチたちを眺めてみると、新しいポーチ以外は、どのポーチにも思い出があるとわかります。そしてその思い出は、ポーチを見ることによってよみがえります。


 ランズエンドのポーチはすべての海外旅行に持っていったので、例えばロンドンで泊まった異常に広いバスルームのホテルを思い出したりします。


 また、自作の布製ポーチを見れば、とんでもなく大変だった引っ越しの契約のあれこれを思い出します。


 そして今もよく使う小さ目のポーチを見れば、財布にお金を入れ忘れたとき、ポーチに入れておいた四つ折りの千円札に助けられた思い出など、次々と記憶の底からよみがえります。


 これらすべて自分がポーチを見たときの印象です。一方、私がバッグからポーチを取り出したとき、それが他人にどんな印象を与えてきたかはわかりません。もしかして、自作のキャスキッドソンの生地のポーチを見た人は、なぜその中に銀行の通帳が入っているのか、不思議に思ったかもしれません。


◆ポーチは思い出を運ぶ小さな小道具



小さなプライベート空間を内包するポーチ※写真はイメージです



 小さなプライベート空間を内包するポーチ。これからも自分ばかりではなく、他人にも何かしらの印象を与えることでしょう。だとしたら、これから新しいポーチを選ぶときは、他人に与える印象も考慮するといいのかもしれません。


 それでもなお、自分の好みを最優先させるのが一番だと思います。なぜならポーチは思い出を運ぶ小さな小道具だからです。


◆筆者私物
インスリンポーチ pine tail
トラベルポーチ LANDS’END
ピンクのポーチ MANICURE FINGER


<文/小林直子>


【小林直子】ファッション・ブロガー。大手ブランドのパターンナー、大手アパレルの企画室を経て独立。現在、ファッション・レッスンなどの開催や、ブログ『誰も教えてくれなかったおしゃれのルール』などで活躍中。著書『わたし史上最高のおしゃれになる!』など。



他人に意外な印象を与えるポーチ ※写真はイメージです