第96回アカデミー賞の作品賞と脚本賞にノミネートされた「パスト ライブス 再会」の試写会が、2月8日に東京・ユーロライブで行われ、上映後のトークイベントに、漫画家・コラムニストの辛酸なめ子と、映画ライターのよしひろまさみちが登壇。賞レースを席巻する同作の魅力を語り尽くした。

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本作は、ソウルで初恋に落ちた幼なじみのノラとヘソンが、24年後に36歳となり、ニューヨークで再会する7日間を描くラブストーリー。物語のキーワードは、「運命」の意味で使う韓国の言葉"縁(イニョン)"。見知らぬ人とすれ違ったとき、袖が偶然触れるのは、前世(パスト ライブス)で何かの"縁"があったから。久しぶりに顔を合わせたふたりは、ニューヨークの街を歩きながら、互いの人生について語り合い、自らが「選ばなかった道」に思いを馳せる。「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のA24と、「パラサイト 半地下の家族」の韓国・CJ ENMが初の共同製作を担当した。

いち早く本作を鑑賞したふたりは、「アカデミー賞作品では1番身近な作品」(よしひろ)、「積み重ねてきた歴史というか、ふたりが少年と少女に戻ったような感動もあったり、普通の恋愛映画にはない魅力を持った、なんだかストイックな作品だなと思います」(辛酸)と、それぞれの印象を明かす。

ふたりは、ニューヨークに住むノラとソウルに住むヘソンが、24歳のときにオンライン上で再会を果たすシーンを振り返る。よしひろは、「新型コロナウイルスの流行があって、Zoomなどオンラインで人と会っていた時期があったじゃないですか。この映画にもオンラインで繋がるシーンがありましたけど、それは心の慰めになっていたのかな」と、思いを馳せる。「孤独なニューヨークでの生活で、ヘソンが子どもの頃、泣き虫だったノラに、『ニューヨークでは泣けないの?』と距離を縮めてくる会話をしたり、日常の出来事で盛り上がったりしていたので、何かあってもいいくらいだったけど、ヘソンがニューヨークへ会いに行く勇気がなかったんですよね」と、歯がゆさをにじませる。

そしてノラとヘソンは12年後、ニューヨークで再会を果たす。よしひろは、本作の軸となる"縁"には、さまざまな形があると捉えているようで、「同窓会やSNSで昔の知り合いとコンタクトをとっても、話が盛り上がらなかったことがある。やっぱり縁が消えるというのも大事なのかな。学校を卒業すると同時に、その相手との縁もそれで"卒業"というか、もう1回連絡取らなくてもいいことはあるんじゃないかなと思いました」と語る。会う選択肢と会わない選択肢、全ての"縁"の積み重ねの上で現在が成り立っていると説き、この言葉には多くの観客が頷いていた。

続いてのテーマは、男女間の恋愛観の違いについて。よしひろは「男って、引きずるんですよ。(ヘソンにとってノラは)同じぐらい頭が良かったちょっと憧れの女子で、段々美化されていくんですよね。偏見かもしれないですけど、女性の友だちと話していてよく思うのが、元彼のことって割とすっぱり忘れていたりする」と述懐。対する辛酸も、「女性はフォルダで上書きだけど、男性は別のフォルダってよく言われますよね。フォルダが違うんですよね」と、"恋愛あるある"を語り合った。

また辛酸は、ニューヨーク在住のノラとソウル在住のヘソンの間での価値観の違いが、顕著に描かれていることを指摘。「ニューヨークにいるノラは上昇志向。小学生の頃の分かれ道のシーンで彼女は階段を上へ上がっていく、一方、ソウルにいるヘソンは比較的緩やかで平坦な道」と、そのメッセージを紐解いた。

さらに、よしひろは脚本を見た際に、場面説明や登場人物の状態を表す"ト書き"ばかりだったことに驚いたという。「確かに考えてみたら、そんなにセリフ多くないよね? それはやっぱり演技がすごく重要、あの演技があってこそなんです」と、キャスト陣の演技に賛辞をおくる。劇中で拙い英語を話すヘソン役のユ・テオについて、辛酸は、「自分より英語できない人がいるんだと嬉しく思っていたら、欧米で生まれ育っていて、英語、ドイツ語韓国語のトリリンガルだった」といい、会場は笑いに包まれた。実際に、ユ・テオはドイツ出身で、高校卒業後はニューヨークロンドンの演劇学校で演技を学んでいる。ノラ役のグレタ・リーは、アメリカ出身の韓国系移民2世であり、英語は母国語。ふたりのコミュニケーションにも注目だ。

「パスト ライブス 再会」は、4月5日から東京・TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。

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