化学メーカーで勤務を行う傍ら、経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。

『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社パルグループホールディングス(以下、パルグループHD)の業績について紹介したいと思います。

パルグループHDといえば300円ショップ「3COINS」を主事業とする企業です。同社はもともとアパレル企業であり、3COINS事業は副業で始めたに過ぎませんが、売上高は伸び続けています。実は、本業のアパレル事業も多ブランド展開やECの好調により順調に成長しています。

◆関西のジーンズショップからアパレル大手に上り詰めるまで

パルグループHDは1973年に創業者が始めたジーンズショップをルーツとします。当初は関西を中心に数店舗展開していましたが、トレンドショップやセレクトショップも展開するようになり、1980年代からはアパレルの小売企業として成長しました。

衣料事業のほか雑貨事業も始め、1994年には300円ショップ「3COINS」の1号店を開店。主力の衣料事業では様々なブランドを開発しながら古着販売業態、アウトレット業態の店舗を開発し、2004年には東証二部上場となりました。2006年には一部上場に鞍替えしています。

M&Aも進めながら拡大を続け、2014年2月期には全社売上高が1,000億円を突破しました。そしてコロナ禍前の20年2月期で売上高は1,322億円となっています。直近の23年2月期売上高は1,645億円(衣料事業:1,058億円、雑貨事業:586億円)で、両事業合わせて927店舗を展開しています。

◆「トレンドが12年で一巡する」法則を見出した

ちなみに創業者は、アパレルのトレンドが12年で一巡するという法則を見出し、独自の周期表パルマップ」を開発しました。パルマップと照らし合わせたうえで、その時の流行に沿ったブランドを強化するという方針を取っているため、同社は様々なタイプのブランドを展開しています。

現在では衣料事業・雑貨事業を含め50以上のブランドがあり、この多ブランド戦略がリスク分散に役立っているようです。衣料事業では「Lui’s」、「COLONY 2139」、「Kastane」、「OLIVE des OLIVE」などのブランドを手がけています。またパルグループHDは企画だけでなく他社工場や物流の管理も担うSPA業態を取っていて、2007年以来、SPA化率は80%以上を維持しています。

◆いったん落ち込むも、すぐに回復

近年の業績を見ていきましょう。2020年2月期から2023年2月期の業績は以下の通り推移しており、コロナ禍で一旦は落ち込んだものの、すぐに回復しています。

【パルグループHD(2020年2月期~2023年2月期)】
売上高:1,322億円→1,085億円→1,342億円→1,645億円
営業利益:90.7億円→13.8億円→75.2億円→158.2億円
売上高(衣料事業):971億円→755億円→871億円→1,058億円
売上高(雑貨事業):350億円→329億円→470億円→586億円
全社店舗数:926店舗→932店舗→902店舗→927店舗


◆EC売上を支えた“社内インフルエンサー”

衣料事業は21年2月期、22年2月期にコロナ禍前の水準を下回り、23年2月期に回復しました。消費行動の正常化で店舗に客が戻ったことも一因ですが、ECの好調も回復に寄与しています。全社のEC売上高は20年2月期から23年2月期にかけて113億円から223億円へと拡大しました。国内アパレルEC市場の拡大に沿った形といえるでしょう。

加えて、同社では社員やアルバイトなどの販売スタッフを公認の“社内インフルエンサー”として活動させ、フォロワー数に応じてインセンティブを支払う取り組みを行っています。中にはインスタのフォロワー数が数十万に及ぶスタッフもおり、特にECにおいてはインフルエンサーの貢献度も大きかったようです。

◆拡大の余地がまだある「300円ショップ市場」

一方の雑貨事業は売上高の8割を占める「3COINS」が躍進しました。もともと伸びていた業態ですが、20年2月期から23年2月期にかけて店舗数は199→268店舗に。この間、3COINS単体の売上高も258億円から490億円へと拡大しています。ちなみに衣料事業で展開するブランドで3COINSの売上高を超えるブランドはなく、3COINSは名実ともにパルグループHDの主力事業となっています。このように近年はEC、そして3COINSが同社の業績を牽引した形です。

今期(24年2月期)もECおよび3COINSの好調が続いており、同社は通期売上高を1,843億円と見込んでいます。。過去最高だった23/2期の数値を上回る勢いです。特に3COINS事業では300円商品だけでなく1,000円以上のものも扱う大型店「3COINS+plus」も好調だったようで、既存店・新店の売上が増収に繋がりました。同様に衣料事業のECも伸びると見込んでおり、28年度のEC売上高目標を1,000億円と定めています。実店舗に関してはより効率的な大型店の出店を進める方針です。

とはいえ、短期では雑貨事業の3COINSが牽引役になると考えられます。競合の動きをみるとダイソーが300円ショップ「Standard Products」の店舗数を増やしていることから、300円ショップ市場に拡大の余地がありそうです。300円ショップの需要増加は、従来の100円ショップよりも品質の良い雑貨を手に入れたいという消費者のニーズを反映しています。将来的に雑貨事業の売上高が本業である衣料事業のそれを上回るかもしれません。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_

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